壁どんどんかべどんどん
壁ドン。
隣の部屋。主にマンション。特にレオ○レスのような安普請な賃貸において隣のカップルに嫉妬した男がドンと壁を叩く。そんな悲しい話がいつの間にか壁に手をかけて女を逃がさないような位置を取りつつ、それでいて女を傷つけない配慮をして『俺の女になれよ』とばかりに口説くように布教されたというメディアの性悪さを思わせるエピソードがある言葉である。
さて。
鴉野は某外国人パーティの中にいた。
宴は終わり撤収時期である。
鴉野、その場で会った日本人にしか見えない中国人。
そして機嫌が悪い女性の三人はだべっていた。
「早く帰りたい」
女がぼやく。
その女の荷物を持つ彼女の連れは別の白人男性の口説きにメロメロ状態である。
女曰く、友人に連れてこられただけであり、こういうのには興味がないそうだ。
そのうえぼーっと待っていたら鴉野と中国人男性の二人に絡まれた次第。
ぽん。鴉野が手をうつ。
「うん。じゃ俺と付き合おう」
「どうしてそうなる」
サムズアップな鴉野。ジト目の女性。「そういうのには興味ない」という女性と楽しそうに話す中国人男性。
顔立ちに少々違和感があるかどうか程度で鴉野も中国人に見えなかった。
本人が告白しなければわからんレベルである。
「ああくそ。リア充絶滅しろ」
「俺らとリア充になろう」
「だが断る」
ノリのよい娘さんである。
ある意味リア充の部類だと思うが。
「男に興味ない」
「ほう」
「なら君が好きなのはこういう状況かね」
鴉野は中国人男性に壁ドンを敢行する。
『俺のものになれよ』
『い、いやだ』
ノリノリの中国人男性。
壁ドンが通じるあたり強者である。
顔を赤らめる女性。いろいろお気に召したようだ。
「き、キミたちホモだよね! ホモだよね! 不潔だよね!」
「ノリ」
「ノンケ」
「ぜったいそうだ!」
「いや、女のほうが好きだよ。これから一緒にのまね?」
「断る! カップルでお願い!」
こうして俺たちはそれぞれ個別に帰宅した。
あ。ここ『無笑』じゃないや。




