男たちの食卓
朝だ。夜勤明けは辛い。
よって朝に起きるはずがない。俺は寝る。
「さっさと起きて一緒にご飯を食べる」
学生をやるこやつにたたき起こされる俺。飲食業の過酷さをこやつは知らんのか。
「だからどうした。朝は勉強夜もバイト。講義のバイトはひとコマ100円。家賃と学費しか親に払ってもらえない今どきの大学生を舐めるな」
なんでも国立大学の学費がおかしいことになっているらしい。それって国立の意味ないのじゃあないだろうか。
「ぶっちゃけ、親から送金される大学の学費を着服して放送大学を卒業したい」
「はは」
優雅なクラシック音楽を流しながら彼は手早く着替えて洗濯物を片付ける。昨日はハッスルしすぎた。
「いただき……」
「どうしたの? いただきまーす」
今朝のおかずはサ○ウのごはん。
アマ○フーズの味噌汁。そしてキューリのキ○ーちゃん。
主食は俺が帰宅の際にドン・○ホーテで79円で買ったパン。
「まて」
「ん?」
おかずラー油の匂いを嗅ぎながら俺の舌はゆっくりとうごく。
指先を奴の鼻先に向けて。
「これは食い物か」
「たまにはモノグサもいいじゃない」
そういって頬を膨らませるやつに俺は告げる。
「こんなものを食わせて朝飯としてたたき起こすとは」
「毎朝朝ごはんだけは一緒に食べる約束だよ! そんなに文句あるならお前も作れよ!」
「上等だ!! 明日から俺が健康食というものを見せてやる!」
こうして、しばし俺は食事当番を担当することになった。以前のやみなべと言い、どうにもこうにも学生との付き合いは予測外のことが多く起きる。
「あのさ。このホワイトシチュー色がおかしくない?」
朝起きると豪華な食事ができている事実に驚いたであろう奴に告げる俺。
「うむ。プロテインシチューだ。小麦粉の代わりに天然ソイプロテイン(きな粉)を使った。
ちなみに牛乳の代わりに米ミルクを使ったぞ」
情事の後始末が面倒で裸のままエプロンを着た俺は胸を逸らして自慢。激務の飲食業ゆえに身体を鍛えるのを怠ったことはない。毎晩八キロを競歩で走る。夜の公園にて自重トレを行う。
「そのエプロン。洗うの大変なんだけど」
「洗っておこう」
なぜか眉を寄せるやつにプロテインシチューを薦める俺。
「一応言っておくときな粉って糖質多いからプロテインの代わりとしてはイマイチだよ」
「む」
「粉だけど個体だから水にも溶けないし」
「むむむ」
一言多い奴だな。
「そういえば手早く溶かそうとお湯にプロテインを入れたことあるが」
「タンパク質だから固まるよ。卵と一緒」
それであれをお湯に入れると不味いのか。
「これは?」
不審そうな視線に耐えかねた俺は答える。
「俺の調理技術は完璧だぞ。なんせ飲食業だからな」
「技術は認めるけど。繰り返すね。これはなんですか?」
ええっとだな。
「パンにマーガリン塗って、そのうえから零れないようにした納豆を塗る。そしてとろけるチーズでコートしたチーズパン。それから脂肪を増やすためにコーラ。体重を増やしたらガチガチに運動してまたプロテインで」
「明日から俺が手料理を作ります。さっさと仕事行ってきて」
にらみつけるやつに俺は肩を落として答えた。
「せっかく作ったのに」
「ふふ。ごちそうさまでした」
ニコリと笑う奴。
「お粗末さまでした」
「結構なものでしたよ」
数日後、俺たちは家庭料理教室にてまたも女どもの嬌声を浴びることになるのだがどうでもいい話である。
男の料理というのは好きなものやうまくできたものをローテするか、技術があっても嗜好(この場合筋肉)優先になったり、食材をローテする発想がなかったりしてたまに作っても主婦にとっては手伝いにはならず、『ピキピキ』だったりする。




