これはアリ
二酸化炭素による地球温暖化が叫ばれる昨今、億年単位で地球の温暖化を防いできた生き物がいる。
アリである。有りではない。蟻だ。
彼らは土を穿つ。
小さく舐るように砂をわけ、大地の隙間を埋め尽くして蹂躙し、昆虫どもをあくなき貪欲さで埋め尽くして。細菌が生み出すコロニーより、白アリが生み出すコロニーより激しく二酸化炭素を奪うアリ。彼等の活動は地中の風化活動を促進する。
もう、だめだ。からっぽだ。
まだいけるだろう。さぁ。もっとだ。もっと掘るんだ。
彼らの小さく黒い身体が蠢き、大地を嬲る中、命の営みは我らの住まう地球の上で行われる。蠢く働きアリたちは老齢の雌たち。では雄は?
無精子体であると同時に女王のクローンである雄はその時を待つ。旅立ちの時を。
『ああっ! いく!』
小さな細い翅を広げ、雄と雌である女王は空中で絡み合う。同じ遺伝子を持つ者同士が、おのれの全てを交わしあうのだ。果てた雄は死に、新たなものが大地に降り立つ。
雄はかつての女王たちが放った精子といっていい。
本体は巣。
社会性生物であるアリにとって女王アリたちでさえ駒に過ぎない。
自ら噛み千切った翅を後にして。メスはオスたちの愛の記憶を宿して女王になる。
膨大な数のアリたちが住まうコロニー同士。本体は巣。
巣と巣がからめとるように大地を穿ち、今、ここに雄たちの愛のドラマがまた始まるのだ。




