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シロツメクサ
『四葉のクローバーを求めるために花畑を踏み荒してはいけない。幸せはそうやって見つけるものじゃない』
かつての先生はそう俺に教えてくれた。
そして学問的なことを教えてもくれた。
曰く、クローバー。白詰草の葉っぱが多いものはかつて誰かが踏み荒して傷つけたクローバーなのだと。
俺はそんなことを思い出しながら、夜闇の中、星明りを頼りにクローバーを踏み荒す。
かつて花輪を作って遊んだ友人のため、あるいはおのれの欲望のため。幸せのクローバーは踏みにじられたクローバー。踏みにじられて、また生きようとあがいてそうなった命。
冷たい泥を救う様に。首筋からつたう汗を忘れるかのように俺はそれを探す。四つの葉ではなく、五葉のクローバーを見つけた。踏み荒されて踏み荒されてなお輝く命。
そのクローバーは病室の片隅で緑の優しい光を放っている。俺はそっと牛乳瓶にそれを活け、まだ眠る想い人の頬に唇を落とす。
扉を閉めて、訪れるのは夜闇。




