おれと奴とのやみなべ事情
ぐつぐつぐつ。
すでにチョコレートが投入された時点でやばいやばい。やめようとか思ったのだがすでに遅い。
はふ。はふ。
くそあつい夏場に冷房すらつけず、俺と奴は鍋を境に相対する。鍋を沸かすコンロの光とつけっぱなしのPCがもたらす光のみの薄暗い部屋の中、ふたりその瞬間を待つ。
「いいか。箸をつけたものはゴキブリだろうがスリッパだろうが完食が鉄則だ」
「了解」
胃がぎゅるぎゅると言っているのは胃腸が最近よろしくないからである。
夜二時に帰宅して朝四時に目覚めて五時の始発電車に乗って昼の一三時に一度帰宅して昼四時に夜中零時まで別店舗のヘルプに回るために出勤しているような生活をしていれば自然胃腸も弱くなろうというものだ。
「この勝負、勝った」
夜闇の中奴の瞳がきらりと光る。
「何を言うか。胃腸が多少弱ったところで貴様に負ける要素などない」
俺はおもむろに箸を鍋に突っ込み、湯気揺蕩う黒いチキン質の物体を口に運んで噛み千切った。某ホイホイの中身であるがまぁまだ俺は死なない。
「ククク。貴様にやみなべが攻略できるはずがないのだよ」
戦う前から勝ち誇って見せ、煽る俺に対し、奴はスリッパを豪快に噛み千切って煽り返した。
「舐めるのは俺様のマラ(裸)だけにしやがれ」
口の中には最高級ラー油にチョコレートに各種栄養ドリンクを混ぜた味というより劇物のごとき異臭が充満し、俺たち二人の意識を別世界にいざないかけるが。
「まだ。まだ死なぬぞ!」
「同じく!!」
普段は服装もしぐさ、部屋もちゃんと綺麗にしている我ら二人だが、時々素敵だのイケメンだのキャーキャー煩い同僚の女どもには理解できないこんなバカをやる。矛盾している? 否。それが男という生き物である。ひょっとしたら俺とこやつだけかもしれぬが。
想像を絶する異臭に加えてなじみのある匂いが加わる。独特のアンモニア臭と苦虫ばしった匂いだ。
「胃腸がやばい。すでに下した」
「汚い。さすが汚い。洗濯物へのダメージは加速した」
「どうも昨日食った油こってりラーメンがやばかったらしい」
奴は学生なので実質主婦。いや、主夫である。「よそで外食しているひまがあるならさっさと帰ってこい」とあきれる彼。
「ならば俺もやるしかない。俺の股間を入れてそれを食え」
「阿呆。茹でるわ」
さすがにオカマになるのは高度なプレイであろう。
「なんか、自慰を絶頂寸前で止めるのを続けていると玉無しになるし、逆に熱を与え続けると種なしになるそうだぜ」
「マジかよ。お前詳しいな」
いや、現役学生もうちょっと頑張れ。
『今月のゴミ出しをどっちが行うか』
我々の真剣勝負は朝まで続いた。
冷静に考えれば素直に二人で出社や学校に向かう時にお互いもっていけばいいのではないかという結論に達したのは入院先にて看護婦の姉ちゃんのケツをお互い眺めながらであった。
「ゲイでバイトか」
両刀でフリーターだ。
「誰がうまいこといえといった。確かに俺はバイトもやるが」
「もうあんなまずいものは勘弁」
「それは噛みつく(バイト)だ」




