店長さんの悩み
私の名前は順子。源氏名は『みるく』。
といっても複数あって私の名前は乳製品が基本だ。
現在、私は『講習』中だった。
この手の仕事の講習って言うのは良い話を聞かない。『経験者一名』とか言うものは講習の教師役を務めるヤツが便乗するって言うもっぱらの噂だし。ナニとか聞くな。特に私は男の人は実は大の苦手だったりする。触られるのも近づかれるのも嫌だ。
「おい。順子。聞いているのかい?」
一瞬身体がぶるりと震えた。
忌まわしい記憶がフラッシュバックして危うくパニックを起こすところだった。
「イイか。唾は飲むな。ゆっくりと、あふれるのをまってゆっくり、ゆっくりとだ」
「は、はい」
熱い息を甘く吹きかけ冷たい息を鋭く吹いて焦らす。
「お前はイイ体しているのだからしっかり密着しろ。お客さんから苦情が来ていたぞ」
うげぇ。男と触れ合うのって嫌なんだけど。ばれているんだ。
引っかからないようにゆっくり、甘くトロンとした目でっと。しっかりメモを取る。
掌で愛しそうに持って、包んで撫でて。口にくわえる前に身体を震わせるようにして。
「こう、横から。先端は舌先をしっかり使う」
髪を時々かき上げて吐息と絡めて音を立てて。
「ううう。もうだめです。店長」
「まだまだ。しっかりしろ」
『ダメですダメですもうダメダメダメ~~!』
そうして、今日雇ったばかりの男性スタッフさんは力尽きた。
「講義にならないじゃないか!」
「そんなことをおっしゃっても」
うちの店長は身体を張った指導をしてくれるし、店の女の子にはぜったい手を出さない。
結果的に犠牲者はこーなる。
「男性スタッフが全然居着かない」
頭を抱える店長に。
「店長さえいれば大丈夫!」
店長一筋のミハルちゃんが機嫌よさそうにしている。
カズチャンは楽しそうにしているし、フブキは忙しそうだし美鈴ちゃんはなんか簿記の本を読んでいる。
うちのお店は相変わらず平和だ。
でも、男の人には受難だと思う。
いや、お客さんのことなどは知らないけど。




