三十五歳を過ぎると精子も老化する
「三十五歳を過ぎると精子も老化するらしいよ」
恋人は俺の腕の中で唐突に呟いた。
そして苦痛と悦びのまじりあった嗚咽を漏らす。
俺は適当に返事をして行為の続きを行う。
彼はときどきつっかえながらその言葉の続きを。
「なんでも男性不妊外来を受けた男の人で精子の形態や運動能力に異常がない八〇人分の精子をマウスの卵子に顕微授精させて分裂を促す活性化能力があるかどうかしらべてみたらさ。三十五歳未満の精子には七割に活性化能力があるけど、三十五歳から三十九歳までは62%、四十歳から四十四歳では52%と低下するらしいって……あ」
俺たちは抱き合いながらお互いを貪り続ける。
「だからって何か」
「いや、子供好きそうだからさ」
「まぁ子供は好きさ」
性的な意味はないが。普通に子供がはしゃいでいるのは好きだ。
「というか」
「うん?」
今度は彼に抱かれながら俺は呟いた。
「三十五歳過ぎてマウスの卵子すら受精させるヤツってお盛んすぎるだろ」
「違いないね!」
外ではまだ雨が降っている。雨音をBGMに、紫煙の香りを嗅ぎながらお互いの味を確かめ合い、俺たちは何度も力尽きる。




