帝国軍人だが乙女ゲーの世界に転生した
さくらさくら。ふわりと揺れるはなびらに。鼻筋に通るその香り。
私は帰ってきたこの国に。
死んでも戻る。戻って護国の鬼になると誓った祖国、日本に。
頬に当たる風。たなびくスカートは今だ慣れず。下駄ではない靴は少々頼りないほど小さい。
「おはよう。渓沢さん」
私の手を握る男。その容姿は女のそれにそっくりであった。
私は間髪入れず、その男の鼻面に鉄拳を入れた。
「ヒドイ。渓沢さん」
嘆く奴に怖気を感じ、私は叫ぶ。
歯を食いしばれ。それでも貴様帝国男子かと。
精神注入棒が無いので致し方なく二度拳を汚す羽目になった。
貴様のようなオカマ野郎のアカにここまでしてやるのだ。感謝するがいい。
私は奴に唾棄する。そいつの容姿は女、それも子供そっくりだがこれでも齢一六らしい。このような軟弱な男が国家を背負って立てるはずがない。
私は日本に帰ってきた。ハズだった。
ここは我が愛する日本には間違いないのだが、
この世界には私の知っている大日本帝国は存在しない。なんでも『おとめげぃむ』なる世界であり、我が不撓不屈の魂は死して護国の鬼になるべく日本を目指して旅立ったのは良いが、道を違えてこのような畜生界に身を落してしまった。それも。
私は自らの腕を見る。
かつて鍛えぬいたその腕はいくさを重ねるうちに食糧不足で枯れ枝のようになっていた。
今の私の腕はかつての最後の戦いのときのそれよりさらに細く、薄い血管が透けて見えるほど白く。
「女の腐ったような男を殴る女。大和撫子は何処にいったのだろうかな」
自分で言うのも虚しいが自分自身がをなごになってしまうと思うことも色々ある。
しかしこのクズのオカマ野郎共にはある種の気骨があり、一人の女を巡って熾烈に争い合う程度の気概はあるらしい。素晴らしい事である。
「二人っきりでデートに行こう」
等と抜かしたオカマ野郎の一人に私はバケツを持たせた。股間を立たせている暇があるなら歩哨に立て。
「渓沢さんがイベントをこなしてくれない」
意味がわからん。
私はオカマ野郎のもう一人の言う『でずにらうんど』なる面妖な施設に招待されたが囲碁のほうが楽しいと断った。
「囲碁。囲碁なんてないよ?!」
無いのか。『おとめげぃむ』なる世界は実に退屈だな。では将棋はどうだ「あるわけないじゃないか。渓沢さん。SNSやTwitterでお話しようよ」何の役に立つのだ。思い付きを垂れ流すなど日本男子としてあり得ぬ。
「だからね。Twitterで仲良くなるのはとても重要な攻略システムで」
「攻略か。シンガポールは陥落させたぞ」
「そうじゃないって……」
ガックリと肩を落とすオカマ野郎共。
「傾注!!」
「はいぃぃ!!」
「前に倣え!!!」
一斉に前に倣えをするオカマ野郎共。最近訓練が浸透してきたな。良い事だ。
「貴様らは恋だの愛だの軟弱極まりない! 男とは何かを教えてやる!!」
「渓沢さん。いや、この世界は乙女ゲームの」
ぐだぐだと女々しい連中め。なっとらん。
「煩い! 男である私を惚れさせるだと?! 貴様らには行動に魂が宿っとらん!」
軽く行軍を命じただけなのに連中は泣いていた。女の私のほうがよっぽど男らしいと思うのだが如何であろう。
しかし、本音を述べるならば女学生の生活もこれはこれで悪くはないと思っている自分がいる。
先日、『しんゆうきゃらくたぁ』という女学生友達と買い物に出かけた。彼女にひいてもらった紅の香りにときめく程度はをなごが板についてきたようだ。




