復讐という名の愛を
俺と奴は幼馴染だった。
何でもできる奴と何をやってもダメな俺。俺たちは対照的であった。
俺は何故奴と仲が良かったのか。奴に聞いてみると自由だったかららしい。
習い事だらけでロクに遊べない奴にとって何も出来なくても自由な俺が羨ましかったらしいがそれはお互い様だ。
悲しいとか同情するとかそういうのじゃない。『だから何?』といった処だ。
俺は夢を追い続け、奴は堅実に夢を作り出す男だった。
奴は与えられた課題を堅実にこなし、それ故に周囲の人々が夢を奴に抱く。そんな奴だったから俺には解っていた。成功し続けるがゆえに失敗が出来ない。そんな彼の苦悩を。期待され続け、応え続ける悲しみを。
しかし、そんな弱さを人に見せると俺でも戸惑うから奴はそれを押さえ続ける。
彼は天国に居ながら地獄に居た。寝起きが悪いのは朝起きて現実に向かうのが鬱だからだ。夢を生み出すために自らは悪夢に身を浸すのが彼だった。これからも治らないだろう。
誰が彼をそこまで追い込んだのだろう。
恐らく俺だ。親友でありながら彼を見捨てている俺なのだと思う。
俺は彼を愛している。彼はどう思っているのか知らない。学生時代の俺の告白を『聞かなかったことにする』と告げられた口惜しさ、悲しさを今でも覚えている。
俺は人知れず彼の真似事をはじめ、努力を開始した。
いずれ俺は彼を超える。彼から助力を求められるとき俺は喜んで彼に手を助けるであろう。今までの立場が逆転する日を信じて俺は努力をする。
そして彼を助けるのだ。彼を悪夢から解放するのだ。
それは彼の言葉を袖にするより、ずっとずっと素晴らしい復讐であり、ずっとずっと素敵な友情の証なのだと。




