選り好みしすぎる男
結婚できない。俺は母に告げた。
「やっぱさ。処女で一八歳以下。美人かつボインで足が長くて性格がよくて俺に尽くしてくれる相手じゃないとな。あと趣味に理解が無いと無理」
「ばかいっているんじゃないよ」
彼女は一笑に付した。
「じゃ背が俺より低い娘」
「お前はチビさんだしね」
失礼な。勿論家族と巧くいく相手で子供も二人以上欲しいところだ。俺は四八歳。若い娘のほうが出産のチャンスは多いと思う。
「お前のチャンスの為に三十年近い人生を棒に振ってくれる娘が何人いるんだい。ちゃんと現実を見なよ」
兄貴が呆れかえる。失礼な。誰が棒に振るだ。
「いや、敬兄ちゃん今だ金髪でパンクだし」
「メタボだもんな」
甥っ子姪っ子が生んだ子供を抱きながら妹と兄貴が呆れる。
「というか、昔姪をナンパしているよねえ」
「あ、あれは気づかなかったんだ」
くそ。大きくなったら敬にいと結婚するって言ってたじゃないか。なんであんなDQNと結婚した。姪よ。
「いや、姪とは結婚できない。そもそも俺がさせないし」
「おい。兄貴」
「というかね。四八年も生きれば相応に失敗もあるし間違いもあるわ。それを踏まえたうえで相手を愛せるのが大事だとおもわないかね? 敬」
思わん。母よ。十八歳以下は鉄則だ。
俺がそう告げると『敬は子供以下だ』と兄貴たちは告げた。何故だ。
「というか犯罪だ」
「日本は一六歳から結婚可能で」
「今は一八からだぞ」
なんと? 男女の均等はそんな悪いほうに改正するのか?!
「お前、あと何年生きるんだ」
「50年は生きる」
そういうと母は告げた。
「敬。悪いけど私あと一〇年以内に死ぬと思うから終活しているの。貴方の遺産分配は無いわよ」
「なにっ?!」
青ざめる俺に家族は冷たかった。
「だってお前ずっとニートだもん」
「護兄ちゃん。四八歳は若年じゃないからニートと言わないわよ」
確かに今まで定職についた事は無い。
「子供と仲がいいのは子供だからだよね」
姪が辛辣な嫌味を言う。くそ。そのボインと細い腰を他人に委ねるとはこの糞ビッチが。俺に寄越せ。
「と言う訳で。ネットで相手を探すことにした」
「その前に職を探してほしいわね。この家は私が死ぬと同時に売り払うから」
母の忠告は今のうちは聞き流すことにする。
四八歳で職を探すのは難しい。今まで定職ついたこともないし想像もつかない。
「取り敢えず看護士とかなら条件に合致するな。俺を食わせてくれる」
「……」
母は皺の寄った顔を一時緩めて嘆息した。何故だ。
「食わせてあげようと考えろとまでは言わないわ。せめてお互い支え合おうって考えが必要」
「要らん」
俺が胸を張ると母は目を細めた。
「この世の中には無限の女がいてだな。当然俺に一致する女もいるはずだ」
「そうね。地球人口は一〇〇億として女性は五十億とするけど、出不精のアンタが逢える人間ってこの街が限度じゃないかしら。確か女の人はこの街の人口35万人中17万人ってところで、貴方の言う18歳以下は人口の2%に過ぎないんだけど」
意外と多いな。
「つまり3400人ね」
「素晴らしい」
「看護士はぐっと減るけど」
「……選り好みはしない」
ここで俺は妥協した。ボインちゃんをコスプレさせて襲う必要は無い。衣装を買えばいいのだ。
「うち、未婚の女性はほとんどだけど」
「おお」
「若さが一番の武器の女性で四八才素人童貞、不細工無職金髪ハゲデブをスキになる女の子ってハードル高いわね」
「母よ。やっぱり早死にしてくれ」
母曰く、一八歳以下で結婚願望を持つ者は更に少ないらしい。
「だってまだ学業忙しいわよ? 一八って行ったらアナタは大学行くのを諦めて音楽してたけど、この街の進学率は高いのよ」
「……」
「そもそもウエスト60センチ以下の女の子って全体の何パーセントだと思っているのよ。ましてやボインちゃんって」
母よ。何故そこまで物事を数値化するのだ。
「だって私元々プログラマーだもの」
「親父は何故お袋と結婚したんだろう」
「肌に合ったのよ。あっちも技術者肌で仕事が楽しくて仕方ないって人で不細工で不器用だけど思いやりがあったわ。若ハゲだったけど」
「ほうほう」
「あんたと正反対」
ぐ。
「取り敢えず、市場調査をしてみましょう」
母はすばやく俺の欲しがる女性の条件に合致する女性の架空アカウントメントを複数個作った。
即座に来るわくるわのメールの嵐。
「メールボックスが一瞬で埋まった」
「まだまだくるわね」
母は俺のプロフィールデータと各種検索を用いてふるい落としにかけたイケメンどものプロフィールデータを比較してみせた。
「あなたこの子たちに男性として勝ち目ある?」
無い。無理です。
「取り敢えずとり得は」
「俺の? 音楽だな」
「だからって好きな曲まで書かなくていいわ」
「ふゃ?」
「正直、私は今更贅沢は言わないからあなたがこの子のためならと真面目に定職についてくれる女の子が一番ね」
「一番難しくないか」
俺は働く気がない。
「別に私と同い年でもイイわよ。彰おばさんとか」
「隣の家の?!」
いやいや。聞かれても困る。確かに昔はそんなことを彰おばさんに言ったが。
「彰おばさんのほうからお断りだけど」
「おい?!」
時は流れた。
「デートは割り勘で不細工なら逃げる」
「……」
母は何事か言いかけたが黙ってくれた。
俺はデータが大事と解り、携帯端末に一回五万円で会うことになったデート相手の情報を書き込んだ。不愉快な態度を何回するか。不愉快な言動をいくらするか。俺の容姿を見て嫌がらないか。そもそも俺は一回限りの相手を求めているわけではないことを思い出した。結婚相手を探しているのである。
しかもこの五万円。働かなければ貰えない。バイトではどうしようもない。
仕方ないから兄貴に土下座して食品加工のラインに入れてもらった。
くそ。低賃金でこき使いやがって兄貴。ラインになんか混ぜてやろうか。
俺は相手に文句を言っている間に俺にとって重要な項目が72項目あって更にそれに優先順位をつけていった。
デートに対する評価値を書いて、100点を超える相手を目指すのである。
問題は何故か100に突破する女がいない事である。何故皆ビッチなのだろうか。
「ビッチて」
姪が呆れる。
「そもそもお兄ちゃんとはお金でも貰わないと逢いたくもないって状態じゃない。若い女の子が自分から逢いたくなりたければ、もうちょっと自分磨きなよ」
ぐ。
「つまり、商売女じゃないとダメだな」
「一回の相手は要らんぞっ?!」
俺は更に条件を突き詰めていった。一切妥協をせずに。
結果として、俺は理想の伴侶を得た。おっぱいはさておき美形で小柄で可愛らしく世話好きでしっかり者で若いという完璧な相手だ。子供はまぁなんとかする。
彼はとても良くできた人だった。おれはこの結果にとても満足している。
……あれ? なんかおかしい。
参考資料:エイミー・ウェブ 私がオンラインデートを攻略した方法
http://digitalcast.jp/v/17943/




