夢が壊れるとき
※この物語はフィクションです。
切っ掛けは腐女子仲間の親友の発言であった。
「ハッテン場って興味ある? 一緒に行ってみない?」
バカか。私は呆れかえった。
このお馬鹿と私の腐れ縁は中学の頃からで今に始まったことではない。
腐れ縁どころかBL漫画を共に描き続け、コミケに通いまくったという腐縁でもある。
正直私は嫉妬深いのか、男と巧く行かないのよね。最初は良いんだけどさ。そういうのは彼女もいっしょで、すぐ男を作っては別れている。
すらりとした体つきにペッタン子だけど綺麗な長い足と折れそうな細さの腰つきとプリンとした大きなお尻のモデルみたいな美人さんの彼女は男には苦労しない。ちょっと背が高いけど許容範囲だ。女の私でも綺麗だとおもうし。腹立つけど。
それは私も同じで特に胸とうなじから首筋にかけては自信がある。お尻は負けるけど。あと顔は絶対勝っている。あっちはちょっと化粧薄いけど手抜きに違いない。
「あのさ、BLと薔薇は違うのよ」
「知ってるけど見てみたい♪」
こいつ、酔った勢いで女とやってしまう事あったしな。また酔ってやがる。パンが焼けるような臭いは彼女が呑みすぎていることを示す。飲酒運転注意。警察に捕まるわよ。
あ。ノーブラだ。くそ。ちっぱいの癖に綺麗なトップだな。そういえば私も酔った勢いでこいつとやっちまったことあったっけ。思いっきり黒歴史だ。
いや、物凄く巧かったけどさ。痛くしないのに的確にツボをついてきて、腕力じゃなくて重心を抑えて来るから逃げられなくてついつい何回も。てかそういう話じゃない。思わず悶々としちゃったじゃないか。
「と、言う訳でゴーなのです♪」
「一人で行きなさいよ」
過剰なスキンシップに少々どきどきしながら私はヤツの標的が別に逸れている事に思わず安堵した。男と先月別れたばかりで今襲い掛かられたら多分抵抗できない。あの指使いと軽く胸の上を抑えて動きを封じる所作は反則だ。
「いた。しいちゃん蹴った」
「ヒールが当たっただけよ。きぃ」
奴の運転は少々危なかったが私たちは県内ではその筋の人しか近寄らないと有名な健康ランドに向かったのである。
フロントで荷物を預け、浴衣に着替える私たち。
惜しげもなくジムで鍛えた裸身を晒す奴に対抗意識。私のほうが綺麗だし。
私はちょっと開き気味の胸元を詰めながらぶかぶかの腰を腹の処で結ぶ彼女に呆れていた。あなた浴衣の着方解らないわけ?
「きぃちゃん。親父みたいな着方になってる。こうよこう」
「やっさしー! 流石しいちゃん」
バカじゃないの?
お風呂に入っても良いし、施設内で寝ても良い。テレビや漫画や図書館みたいな施設もあって昔は親子連れでにぎわったレジャー施設だったそうで。
しかし、私たちの見たものは年輩のオジサンたちが仲睦まじく、あるいは獲物を見る目で相手を探す姿であった。
そういう目で見られるのはなれている。むしろ快感だ。
しかし、この男ども、私たちを見ていない?!
というか、しいちゃんも私も容姿には自信がある。もう絶対的に。
正直、周りが全部男どもなので着替える前は身の危険を感じて肌が泡立っていたのだが、彼らは実にフレンドリーだった。どうも私たちも同類と思われているか知わずに迷い込んだ旅人かと思っている模様だ。
彼らは紳士だった。要するに女に興味がない。見事にない。
私の巨乳やヤツのすっぴん顔を『羨ましそうに』見ることはあるがそれ以上ではない。
身の危険を感じていた私たちは唖然呆然。そもそも男と言うイキモノは私たちから見れば危険な獲物であるがコイツラはなんなんだ。
あるものは仲睦まじくスキンシップをしながらくつろぎ、ある者たちは風呂上がりにいちゃついている。
どうにもこうにも居心地が悪いのだが、異性に性的な目で見られないという幼少時にもない体験に奴と私は気が抜けてしまい、ビールを飲もうとしていたが。
「おごってあげるよ。ねーちゃん」
薔薇どもは凄く優しかった。泣くぞ。
こんな美人が布一枚でいるんだぞ。お前は何故そこでチビデブの円らな目がキモイデブを物色しているのだ。俺はキモデブチビ以下なのか。そうなのか。あいつの腹の脂肪より私のおっぱいのほうが綺麗だぞ。いや、襲われたくもないが。このオッサン臭いし。
「しいちゃん。良い人たちダネェ」
「だな」
心労に倒れそうな私はぐったりとマッサージチェアに身を任せる。勝手に動き回ってこうすれば気持ちいいんだろうと言いたげな乱暴な動きは昔の男を思い出させてムカつく。
そんな私たちの前で青髭の腹の出たオッサンとボディビルダーみたいな若い男がお互いをいたわるように歩くのが見えた。もう帰りたい。
私は奴を連れて出ようとした。流石にここで一夜を過ごすのはいただけない。男女比100:1で襲われもしない、色目を使われない。
そもそもだ。
『なぜここに女の子が紛れ込んだんだろう』
上記のような表情を見せる男どもが『親切にしてくれる』のは耐えがたい。小学生や幼稚園の幼女じゃないんだぞ。私たちは。
思えば同じゲイカップルと思われていた節があるが、奴は肯定しても私はノーサンキューだ。
向うのほうから男の悲鳴みたいなのが聞こえてくるので私は逃げたかったが、ホモどもはにこやかに言った。「こっちのほうが見やすいよ」と。
こうして私たちは糞まみれの汗だくになりながら青髭をすり合わせお互いの唇を啜り合い、舌を絡めて汗をなめとり、その腋毛や胸毛をすり合わせて苦痛と悦楽の声をあげあう男どもの濃厚なショウを二時間まるまる特等席で見るという実に愉快な体験をする羽目になってしまった。
結論。ホモは女には紳士だ。貴様らその真摯さを私たちにくれ。
「凄かったね」
「ああ」
私たちはBL本を処分した。
後に当時収入はないものの、そこそこ真面目で家に金を入れるであろう地味だが優しい男を引っかけて速攻で結婚した。
今では奴も私も専業主婦なんぞやってるわけだが。
ダンナとの夫婦生活でイキそうになるとあの豪快な雄たけびを思い出してしまう。
ある種のトラウマなのかも知れない。
一緒に行った奴に聞いてみるとやつもそうらしい。
でも、時々思うのだ。苦痛に喘ぎながら私を求める旦那を見てみたいと。
彼の愛を受け入れながら、ちょっと痛いんだけどとか思いつつ私は昔の夢を見る。




