依存
貴方のふとましい指先が私をゆっくり汚していく。
霜焼けだらけで膨れ上がりったあなたの指が時々荒い指使いになるのは指先がかじかんで動かないから。
時々その掌をこすり合わせ、ふわりと甘く白い息を吐く。
貴方をもっと感じていたいというわたしの思いを知ってか知らずか貴方は貴方の為だけに珈琲を入れる。
こぽこぽと言う音と共に貴方の淹れる香が私の周囲を満たし、貴方の指先を待ち望む私を焦らすのだ。
貴方が白く固く冷たい陶器のカップに熱いものを注いで両手で覆って温もりを鼻先で感じている間、私は焦られ続ける。
私の間近で更に白く暖かなため息を吐く貴方。私は全てが白く染まるよう。早く触れて欲しい。
貴方が乱暴に中指で私を弾くのが好きだ。軽く何度も解らないふりをして焦らしてしまいたくなる。
焦れる貴方が淡々とリズムよく私を何度もなぞり、私の身はすり減り汚れていく。貴方が力尽きて眠るその時まで。
「あれ? 変換できない。キーボードが電池切れだな」
私はパソコン。あなたはネット依存症。
貴方の指先を感じ続けていたいがそれは叶わない願いだ。
私の身体は古び、私のOSは更新停止する。貴方に迷惑をかけるわけにはいかないから私は引く。
「XPはメモリ食うけど安定するなぁ」
「『プギャーーwww』っと」
だけど、貴方が触れた指先の痕は出来たら消さずに捨ててほしい。
私がいなくなるとき、貴方はまたネットの世界に恋人を見出すのだろうか。
それとも私の事を少しでも思い出してくれるのだろうか。
私はあなたに依存症。あなたはwebに依存症。私はあなたの欲望の窓に過ぎない。寂しくて切ないけどそれはそれでいいのだ。




