「司くーん!」「三崎くん!」『やろう!!』
「司君」
「おう。三崎」
切っ掛けは部活仲間の三崎の。
「やろう」
待て何故顔を近づけてくる。うぷ?! 柔らかてかぬめっと舌が口にやめなぜこらま尻を触るな息を吹きかけるなやめこらおまやめれぇえええ。いやぁらめぇええ俺たちはそんなうはああ。
「良かった」
そう言って奴は何処からか取り出したのか不明の高級煙草『ザ・ピース』の青缶を取り出して味わっている。無期限で部活潰されるから辞めてほしい。
とはいえ、我ら陸上部は部員二名。
絶賛活動停止状態である。一応練習はしているのだが。
「いやぁヤバかった」
「死ね」
イデデデデ。
俺たち二人は結局尻を抑えながら悲惨な事になった部室を掃除中。
ヤられたらやり返す。掘られたら掘り返す。バイ返しである。
閑話休題。
部室と言ってもうちは文化部が欲しがるような施設でも部屋でもなくコンクリートブロックを組み合わせた更衣室兼倉庫であり、居住性はほとんど全くない。
先代の連中が石だかなんだかで削って掘った穴からは隣の女子テニス部の様子を窺う事が出来る筈なのだが、向う側から既に塞がれているので俺たちのアレな行動は見られていない筈だ。
「緊急事態だ。司太郎」
「なんだ。三崎薫」
キリリと表情を引き締めたら三崎は意外と男前だ。ホモで変態でなければだが。
「俺のオ〇ホを探してくれ」
「死ね!!」
俺は思わず件の壁の穴に三崎を押し付けた。
なお、歴代の先輩の中にはこの穴に局部を押し込んで停学及び部活動追放を喰らった猛者たちもいる。
お蔭で定員割れして一年の俺たちだけが部室に居る次第。
「いや、マジでヒデエんだぜ。水無月の野郎。俺のオ〇ホを私物と言って没収しやがって」
「いや、普通没収で済むだけありがたいだろ」
生活指導の水無月先生も大変だな。彼は俺たちの顧問も務めている。
「中古で378円もしたんだぞ」
「具体的だなっ?!」
中古で使用済み。上級者め。
ギリっと歯を食いしばり、怒りで拳を握る三崎だが股間は中々悲惨な事になっている。取り敢えずトイレットペーパーで良いから拭え。後始末が大変だが。
「取り敢えず、没収で済んでよかったじゃないか」
「おう。見た目はファッショナブルなデザインだからな」
どんなデザインなんだよ。卵型か?
「おう。ばすけっとぼーる型だ。こうプルンとした色艶でパッと見縫いぐるみみたいだぞ」
想像したくない。
「キーホルダーもついていて実用的なんだ」
「なに無駄に機能的にしているんだよ」
しかしアレがオ〇ホとばれたら流石に生きていけないし部活も取り潰される。というか喫煙でトドメになり兼ねないのでピースは慎重にバラして処分。ウンコまみれだから誰も拾わないと思うが。
こうして俺たちは部活とり潰しの危機を回避するため、水無月先生に奪われたオ〇ホを取り戻すべく活動を開始したが。
「捨てた?」
「お、おう。すまん。そんな大事な物だったと知らず」
生徒である俺たちに頭を下げる水無月教諭。俺の姉貴の形見の品だと言ったら水無月は平謝りしてきた。ちなみに俺の姉貴と水無月は普通に交際している。
良い奴なのだがどうにも俺の言うことを疑わず、素直に聞きすぎて困る。曲がりなりにも教師なのだが。
「姉さんにはごめんと」
「い、いやいいよ。何処に捨てたの? 水無月」
「確か職員室前の女子トイレ前のゴミ箱」
「急げ! 三崎! あれが見つかったら死ぬぞ!!」俺たちは駆けだした。『危険。廊下を走るな』と書かれた札を無視して俺たちが駆け込む先にゴミ箱に手を伸ばすクラスのアイドル阿賀沙美由紀が。
「まったぁああ!!」
俺は美由紀の脇をすり抜け、ゴミ箱を蹴っ飛ばす。
「ひっ?!」
怯む美由紀にイケメンスマイルをかける三崎。
「ボクは友達。怖くない」
怖いよ。変態だもん。
「ファイアー!!」
そしてゴミ箱を蹴り飛ばす。
「ハヤブサ! ドライブ! 病まざるBASTARD!!!」
脅える美由紀を尻目にゴミを散らかしオ〇ホを探す俺たち二人。
「あった!」
件のボール型オ〇ホを見つけてそれを握り、ひゃっはーと叫んで三崎は廊下に背中を滑らせる。
俺はゴミで滑り、つんのめった拍子に三崎の上に転げ落ち。
「発射!!」
地面に転がる三崎に蹴りだされて窓を超えた。
「空を愛する! 嵐! 嵐!! 俺たちは青春している!!」
植木に頭を突っ込ませる俺に美由紀は実に哀れなものを見る目を向けていた。
俺こと司太郎と友人三崎薫は腐れ縁の間柄である。
「おい司! 今日も燃えているか!」
「ありがとうよ! 俺の家燃えているよ!!」
今日も俺たちの苦難は続く。というか俺の苦難が続いている。




