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宇宙(とき)の果てまでこの愛を(BL注意)  作者: 鴉野 兄貴


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15/101

かんとりーろーど

 旅人の聖地。北海道。

 永い永い過酷な冬を越し、春の息吹が芽生える頃。

 この地は一時の苛烈さを緩め、旅人たちを受け入れる大地となる。

 日本国内ではまず見ることが出来ない三六〇度方向全てを覆う地平線と雄大な自然に囲まれた旅人たちはおのれの矮小さを改めて知り、そしてかの地に敬意の念を抱くのだ。

 

 直線にみえて怠惰なカーブはゆっくり、なまめかしく大地を滑り、男たちのガソリンを情け容赦なく奪っていく。喘ぐエンジン。吹き出す汗に冷たい夏の風が指先を舐めるとき男たちの指先は痺れるように疼く。

 鼻先を掠める甘い花の香りに酔う暇もなく、一見平坦にみえて激しい高低差を持つ道が情け容赦なく旅人たちの三半規管を狂わせていく。

 そして山間部の繰り返されるカーブに身をよじる。キリキリとボルトが悲鳴をあげ、タイヤを、チューブを激しく傷つけていく。

「もう。もうだめだ」

「二泊三日で北海道旅行は無謀だった」


 彼らは思う。「まず札幌いって観光して小樽。それから旭川動物園行って富良野のラベンダー見て帰りは函館のサブちゃん見て帰ろう」と。

 だが、甘い。大人しく返すと思ったのか?

 直線距離で千葉、和歌山間余裕な北海道の大地は情け容赦なく獲物に襲い掛かった。



 疲労に喘ぐ身体に忍び寄り、ゆっくり、ゆっくりと。

 喘ぎ声を上げる愚か者のうなじを温泉の効力は逃さない。


 不透明な乳白色をした温泉の熱いほとばしりは足の裏に、肩に、脇腹に、太ももに、背中に情け容赦なく降りかかる。包み込むように毒素や疲労を追い出すその効力は凄まじく何度も何度も旅人を湯あたりに追い込む。

 それでも浅ましく温泉を求める旅人たちに温泉旅館はつぶやく。

『三〇〇〇円です』

 旅館も設備もボロボロだ。

 乳白色の熱いほとばしりを狂ったように求める男たち。熱く黒いモノを求めて乞うように集い、悦楽の声を上げる。

「ああ。十勝川温泉」

「もう、黒く染まってしまいそう」

 彼らの胸の先を。膝の裏を、脇の下を舐るように黒い湯気が包んでいく。


 晴れた日は北海道の木、蝦夷松赤蝦夷松が激しくピストン輸送される。晩夏には道の花であるハマナスが咲き乱れ、バラ科特有の甘く強い香りに引かれた悪い虫どもが忍び寄り、蜜を吸わんと喘ぎ、啜り合う。

 真冬に発達した低気圧に遭遇すれば本物のホワイトアウト。行きかう旅人の視界を混迷に陥れる真っ白な視界ゼロ空間。



 白く生暖かいものが「ああっ?! 飛ぶッ?!」道鳥、タンチョウである。

 光あふれて(北海道民のうた、他2曲)道民体操(どさんこ体操)。激しく運動する道民は夏になれば海に飛び込むことなくほとんど温泉で過ごす。

 一本道かつ直線の魅惑に耐えきれず速度を上げてしまう旅人たちをあざ笑うかのように。


 男たちは北の大地に何度もイキまくる。

 広い大地ゆえの快楽と激しい疲労が襲い掛かるのも顧みず。


 そして激しい冬が始まる時、男たちは北海道の恐ろしさを知るのだ。


 その冷たい風に身を晒し、がたがたと震えながら慈悲を乞う旅人に北海道の大地は告げる。


『また来いよ』

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