俺の寝込みに触手が襲ってきた件について(性的にも食料的にも)
疲れた。しんどい。寝させろ。
疲労困憊していてもビールは飲む。正直習慣であって美味くもなんともない。むしろ不味い。
ビールを飲んだらちょっとソロギターを激しくやって寝る。早朝に出勤し午前様帰宅。そんな日々が続く。
ああ。たまにはゆっくり寝かせろよ。とはいえ職場のシフトの都合で俺には休みと言える日はない……。
すやすや。
さわさわ。じゅるじゅる。
尻に違和感。はね起きた。
寝起きの頭でそれをつかむ。
粘ついていて、ぬめっとしていて。なんじゃこりゃ。デカいナメクジッ?!
目が覚めた俺は思わず飛び起きる。
人間の動きを察知した蛍光灯が光りを放ち、『そいつ』を照らした。
ライトに怯み、ぬめぬめ動く不気味な姿。
何処からかのびる無数のイボだか吸盤だかをもった器官。
どちらかというとタコ脚に似ている姿。
そいつは『触手』だった。
【俺の寝こみに触手が襲ってきた件について(性的にも食料的にも)】
その触手に触れた部分、てのひら、背中がぞくぞくとしてくる。なんというか、めっちゃ上手な嬢に極上の……お口の恋人なことをされたときとかの快楽に近い。掌なのに?!
触手は部屋中をのたうち、俺に一斉に襲い掛かってきた。むせ返る臭気は俺の性欲を強制的に喚起させ、俺の内側から『食べられたい』『餌になってあげたい』という生存本能を否定する感覚を起こさせる。草食動物が最後に肉食獣に自らの身体をゆだねるように。
最後は痛みもなく、快楽づけになって。死ぬのだ。死ぬことすら快楽。そうだ。そうである。
「おら。もっと気合入れてコケや」
俺は股間をだし、奴に奉仕させていた。
体中を奴が這うが、正直飽きた。もっと気合を入れるべきである。
「オラオラ。もう一回出すぞゴラ」
ナニを出すかって? 察しろ。
「腹減った。食わせろ」
俺は奴を素手で引きちぎり、レンジでチン。磯味がなかなか香ばしくてイケる。
「ビールつげ」
0.1秒で出されたビールをあおる。
尻にさわさわ。求めてきた奴を踏みつける。
「誰が掘っていいといった? 俺はタチだ」
「おら、もっと締めろ!」
本日7回目。触手はぐったりと精気が無い。なんだ。前菜にもならん。
俺は奴を生で食う。
奴の体液の味は極上。
俺の性的能力が更にブーストされる。
いまや俺の腹を圧縮し、へそを突き破らんと隆起するマグマは激しく求めているというのに。
「だれが休めといったッ?!」
フィニッシュ。
俺は触手をつかみ上げ、強制的に股間にもっていく。
「まだまだ奉仕してもらうからな。覚悟しろ」
そして時が流れた。
今の私はあろうことか管理職などをやっている。
部下たちは少ないが皆可愛い奴らばかり。
あれほど乱暴だった私も丸く……。
「団長。団長」
ん? なんだい。K君。
「なんすか。この妙な写真。CGですか?」
「いや、昔飼っていた。あの頃私も若かった」
今はネコ専門だが、乱暴でどうしようもないタチだったからねぇ。ネコの人たちに申し訳ないことをしたよ。
「飼っていた?」
「うむ。なかなか具合のいい奴だった。枯れたがな」
K君は女性にしか見えない容姿である。私としてはあり得ないが、需要は確実にある。女にしか見えないネコを求めるなど、ゲイの風上にも置けない。何を恥じることがあろうか。
「団長、俺の広背筋を見てください」
「なかなかではないか」
「団長。十七回抜いて動けません。今日は欠席していいですか」
「ふざけるな。二十回は抜きたまえ。今すぐ出てこい」
「団長。仕事してください」
「わかった。緑川君。今夜どうかね?」
震えあがる彼に舌なめずりする私。いかんね。
「全力回避します」
今? そうだな。それはそれで充実しているよ。
「ゲイ(芸)は世界を救うのだ」
「なんか違う」
「団長。意味不明です」
【俺の寝こみに触手が襲ってきた件について(性的にも食料的にも)】おわり。
団長は『緑川直哉』に登場します。




