微笑み。あるいはいじめられっ子の復讐劇
笑えば全てが解決する。
誰かがそういった。そういってくれた。
だけど私は笑えないから。笑うことが出来ない。
上から牛乳がビンごと降ってきた。
「ごめん」
笑いながら彼女たちがはしゃぐ。
私が死んでも、きっと彼女たちは笑い続けているであろう。
人は言う。
たとえ偏狭なレイシストでも、それゆえに自らを笑わせる知恵者にはそれなりの配慮と気遣いを見せると。
でも、私が笑って欲しいのはもっと普通の人たちで、私が求めているのは暖かい笑みで、そういう驚きとか同格の相手だと認めてもらうとかそういうことは思っていない。
勉強机がボロボロになっていたけど、私は笑えなかった。身体にモップを押し付けられても私は笑えなかった。
「おはようございマンボウ」
呟いてみる。面白くもなんとも無い。
トイレに呼び出された。
殴られるだけかと思ったら男子生徒がニヤニヤ笑っていた。もうだめだとおもったら先生がやってきたが。彼はあろうことか私の助けを呼ぶ声を無視した。私が無事に逃げられたのは、その一瞬の虚をつけたからに過ぎない。
恩着せがましい教師をかわし、私は家に帰った。
「ふとんがふっとんだ」
呟いてみる。やっぱり面白くない。恐怖で歯がなり、身体の震えが止まらない。
誰も護ってくれないし、誰も助けてくれないのだ。皆自分の事で一杯だ。私も自分のことでいっぱいだ。
少し笑ってみようと思う。
シュールストレミング? だったっけ。世界一臭い発酵食品で開封時は注意しなければいけない。
そもそも爆発の危険があって、輸入禁止らしい。どんな食べ物なのだろうか。
私は前日のうちに職員室の換気扇のスイッチをきっておいた。あの先生たちって鈍いから気付かないだろう。気付いても知らない振りばかりだし。
私はネットで調べたとおりに改造した時計を用意すると缶にセットする。
さて、これからが本番だ。うまくいったらお立会い。赤い血が見事流れたらお代はイラネェ。
私は少し遅めに登校する。
今は冬で、換気装置がついているし、今の学校には冷暖房が完備してある。
うまくいくといいなぁ。
ああ楽しみだなぁ。
私が扉を開けると、いつもどおり上からモノが降ってきたりしなかった。
役立たずの職員室も静かだ。
教室で呻き続けるニクノカタマリどもを踏みしめ私は微笑んだ。
うん。私は笑えている。
ガスマスクをつけて、私は一人ほくそ笑んだ。
この笑みは、オマエタチの誰にも見せてやら無い。




