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宇宙(とき)の果てまでこの愛を(BL注意)  作者: 鴉野 兄貴


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リンドバーグと悪魔

「翼よ あれがパリの灯だ」


 青年は眼下に輝く人類の営みが生み出し続ける聖なる明かりに感激の声を放った。

 人類による大西洋無着陸単独横断第一号の誕生。

 1927年5月21日の話である。


 大西洋無着陸単独横断の話はさておき。

 彼、チャールズ・リンドバーグの搭乗した飛行機である『スピリット・オブ・セントルイス号』は巨大な燃料タンクを持っており、潜望鏡を使うか横から見なければ前すら見えない機体であったことはあまり知られていない。

 つまりこの状態ではパリの灯は見えない。かの有名な台詞は自伝のタイトルだそうだ。


 リンドバーグを直接知るものは現在では少ない。

 よって私は彼の知り合いを名乗る者。『悪魔』氏に直接取材を行うことにした。

「アイツは酷い奴だった!(以下略)」

 聞くに堪えない罵詈雑言をかいつまんで話せば、かつて死の危険を感じたリンドバーグは『助けてくれ』と叫んだらしい。神も仏も見放したリンドバーグを悪魔は助けることにしたが。

「すまんが、私の魂はやれん」

 なら死ねよと悪魔は思った。

「代わりにスポンサーになってくれたセントルイス市民に頼んでくれ」



『お前悪魔だろう』

 悪魔はそう思ったそうである。

 が、これで契約成立である。


 さっそくセントルイス市民から魂を貰うために旅立った悪魔だったが、示されたものは『飛行機』だった。


「さっそく貰い受けよう」

「待ってください。アメリカ人でないあなたにセントルイスの魂を渡すわけにはいけません」


「ならば私はアメリカ人になるべく、許可をまとう」


 時は流れ、アメリカ国籍を得た悪魔はセントルイス市から正式にスピリット・オブ・セントルイス号をもって旅立とうとしたが。

「待ってください悪魔さん」


「どうした」

「飛行機の免許を持っていますか」

 悪魔はまた待つ羽目になった。

 騙されたと知った悪魔はリンドバーグに抗議したが聞き入れてくれない。時は流れた。

 悪魔は免許を取った。今度こそ空に旅立ち、悪魔の世界に戻ろうとしたのだが。

「現在のこの機体は安全基準に抵触します」

 悪魔は整備の資格を取ることにした。更に時は流れた。



 ある日。

「すまん。悪魔よ。今までのことはすべて謝る。私の魂もやる。だから私の願いを再び叶えてくれ」

 悪魔は戸惑いながらも茶を淹れて唐突に訪れた来訪者。今更述べるまでもないがかつての空の英雄であったリンドバーグをもてなした。

 長いアメリカ生活が地獄の悪魔である彼をも正当な米国紳士にしていたのである。


「私の姉のことだ。彼女に心臓をくれ」


 聞くと、心臓に疾患を持つ姉を救いたいという。

 悪魔はゆっくりと諭した。

 まず彼が叶えられる願いは一つしかない。

 また人の死は神が決めるものだ。

 下っ端悪魔の彼にできることは少ないと。

「お前は勇気も知恵もある。悪魔を出し抜くほど悪魔だ。これは褒めているのだ」

 思い悩むリンドバーグを悪魔は後押しした。

 神のいうことなんかブッチぎってしまえと。

「お前悪魔だろ」

「俺もそう思う。しかし俺が世界で一番悪魔だと思ったのはお前だ」

 男たちは握手を交わし合い、手を振って別れた。


「どうして姉が死なねばならぬ。心臓が無いなら。神が我が姉に心臓を与えないというならば……私がこの手で……機械で作ってやる!」



 リンドバーグは迷いを振り切った。彼のもう一つの偉業とされる人工心臓の開発。神の造りし人の身体に機械の心臓を埋め込む研究が始まった。

 奇しくも肝心の姉はその試作品が生まれる一年前に息を引き取ったが。



 リンドバーグの姉が亡くなった。悪魔がその知らせを知ったのはリンドバーグ本人からである。


「悪魔よ。私の魂を今度こそくれてやる。彼女の魂を天国に連れて行ってやってくれ」

「そりゃ無理だ。俺は地獄に人間を連れていくのが仕事だし、俺の持つ魂はたった一つで充分だ」


 悪魔はスピリッツ・オブ・セントルイス号を二人乗り天国行き仕様に改造し、リンドバーグに返してやった。

「翼よ。あれが希望の灯さ」

 若き日にリンドバーグに騙され、最後には失業した悪魔。彼は肩をすくめて空に飛び立ってゆく翼を見送ったという。

 彼の罵詈雑言は終始聞くに堪えなかったが、その口元はとても楽しそうで実に良い表情をしていた。


「社長。次の事業は」

「うむ。人工心臓のみならず、わが社は更に発展する。世の為人のため。今なお残る友人の意志を継いで」



 悪魔業を失業して後、長年にて培った法学知識と整備術と工学術、医療技術を駆使してたちあげた医療器メーカーで成功を収めた悪魔氏は未来のビジョンを私に語ってくれた。

 各宗教界や医学界、哲学や論理学などの分野から神をも恐れぬと呼ばれる男。今なお悪魔と罵られる男。

 最新の医療及び遺伝子研究を行う会社の長。

 その彼の実態は夢を追い、人を愛し、命を尊ぶ素晴らしい男だった。


『夢追う翼よ。友の魂よ。死して尚残る人の愛よ。

 あれが巴里の火。この世を生きる命たちの灯す光だ』

 リンドバーグと悪魔のアメリカンジョークと朝日新聞の宣伝広告より。

参考文献:医療の挑戦者たち 一八話『人工心臓の夢』(テルモ社)

http://challengers.terumo.co.jp/challengers/18.html


クロちゃんのRPG千夜一夜 3 闇の世界へ小旅行 第281夜 『空飛ぶ悪魔』

 黒田幸弘著 

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