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第二章 第三話


「しかし、このクラス分け、どういう基準なんだ?」


 豪華な新設校らしく、まだ綺麗でしかも広々とした体育館の中。

 見学を言い渡されたESP能力者(エスパー)に混じり、体育館中央でPSY能力者(サイキッカー)たちが集まって能力を競っているのを眺めながら、俺はそう呟いていた。


「はい?」


 俺の言葉を聞いた奈美ちゃんは首を傾げ、隣に座っていたおっぱい様は身動き一つせず、頭だけがこちらを向く。

 ……しかし、これ、配置的に両手に花と言っても過言ではない。

 右手にある豪華絢爛で色鮮やかな華に比べ、左手の花は慎ましやかで大人しい色合いではあるけれど。


「いや、こうしてESP能力者が三人同じクラスなんてさ。

 どう考えてもバランスが悪いだろうに」


「……あ。確かにそういえば」


 俺のふとした疑問に、奈美ちゃんも首を傾げる。

 相変わらず、動き一つ一つが可愛らしい。

 ショートパンツと体操服という、この『夢の島高等学校』で指定された体操服が少しだけ大きめなところも、彼女の可愛らしさを演出する小道具の一つに感じられるくらいだ。

 と、俺と奈美ちゃんが首を傾げていた時だ。


「……このクラスは二軍扱い」


 教師の脳内を探れるという、反則技を持つおっぱい様が答えを教えて下さった。

 体操服という平坦で白単色の服装は、その神の創りたまいし芸術の立体的且つ透明感ある奥行きを演出する。


 ──ぶっちゃけ、あまりの内圧にブラ、透けています。


 白のレースでゴージャスな感じを内に秘めているというのは、まさに鞘に包まれた日本刀の如く、静謐な凶器とも言える逸品としか言いようがない。

 ……いや、その逸品のあまりの迫力に、俺は似合っている以外の感想すら抱けないほどに呆けていた訳だが。


 ──やっぱサイズ的に色々大変なのだろうか?


 ……っと。おっぱい様の上に飾られている頭がこちらを睨んでいる。

 話を続けよう。


「二軍て」


「……言葉どおり。

 軍用として役に立ちそうにない半数が、こっちのクラス」


 まぁ、俺たち三人が揃っている段階で、何となくそんな気はしたけど。

 正面でPSY能力者たちが色々やっているのに目を向ける。

 水の塊を作り出す能力とか、風を起こすだけの能力、石ころを放り投げる能力。

 正直な話、この中では亜由美の空を飛ぶ能力が図抜けて派手である。

 確かにPSY指数とやらを測った時、彼女が飛びぬけて数値が高かったっけ。

 でも、幾ら派手でも、ただ跳んで跳ねるだけの程度じゃ……


「確かに、軍事利用は遠そうだ」


「……ですよね」


 俺の頷きに、奈美ちゃんが相槌を打つ。

 ……逆に彼女の能力とか俺にとっては恐ろしいんだけどな。

 月のない晩のジャングルとかで白兵戦をしたなら、俺の古武術の心得程度じゃ、目が見えなくなるだけであっさりと消えてしまうだろう。


「……だって」


 とか思っていたら、心優しいおっぱい様が奈美ちゃんに通訳してくださった模様。

 だけど、その本人ときたら……


「そ、そんなの無理ですよ〜。蜘蛛とか蛇とか」


 ……あ、泣きそうになってる。

 確かに、ジャングル戦なんて蟲・蛇・蛭の中を泳ぐような行為だろうし。


 ──そう考えると、戦闘行為ってつくづく女の子に向かないよな〜。


「特に百足とかダメですね。

 あのフォルムが耐えられません」


 奈美ちゃんが笑いながらそう呟く。

 どうやって目の見えない彼女が百足のフォルムを知っているのかと一瞬だけ首を傾げたが……彼女は微弱な音波で周囲の形を理解するESP能力者だと言っていた。

 だから……その立体的に存在を感知する能力を使えば、百足は凄まじい化け物に見えてしまうのだろう。

 と、そう奈美ちゃんが語った所為だろうか?

 隣にあるおっぱい様が僅かに身体を振るわせて……その二つの膨らみが身体に連動してふわりと揺れていた。


 ──コレは、苦手だ。


 そのあまりの質量が揺れる姿に、俺は自分の苦手なものを一瞬で悟っていた。

 どうやら俺は……右隣にある『この二つの神器』が苦手なようだ。

 一瞬で理性を消し飛ばされるからで……どっちかと言うと饅頭怖いってな気分だけど。


「……私は、スケベなヤツが苦手」


 俺の視線と思考を読んだのか、おっぱい様が釘を刺してくる。

 ……返す言葉もないとは、このことである。


「佐藤さんは、何が苦手ですか?」


 その流れだろう。

 奈美ちゃんが首を傾げながら尋ねてくる。

 とは言え……さっき考えたことを正直に話す訳にもいかない。

 俺はちょっと考えてみて……


「日本刀……かな?」


 アクシズ級の忌々しい記憶を引っ張り出しつつ、俺はそう呟く。


 ──曽祖父に殺されるかと思ったからな、あれは。


 未だにそのトラウマは拭えない。

 本当に刃物系だけは勘弁して欲しい……斬られたら痛いじゃ済まないから、マジで。


「……どういう曾爺さんだったのよ?」


 ……いや、普通の曽祖父だったよ?

 ちょいとばかり自分が教わった古武術が無駄になるのが怖かったらしく、稽古が常軌を逸するときがあっただけで。


「ま、それはそれとして……っと」


「きゃっ」


 いきなり飛んできた『石礫』を受け止める俺。

 女の子の力で投げられた程度の速度だし、それほど速くもないから、手のひらが痛むほどでもない。

 ……と言うか、奈美ちゃん。


 ──君の能力は|音波による全方位立体知覚ソナーだろうに。


 飛んできた石を見もせずに頭を庇って動かなくなるって……能力の意味、ないし。

 ……いや、女の子っぽいって言えばそれまでだけどさ。


「そこ、ゼロ連中が群れて楽しそうやな?」


「私達と遊んでくれないでしょうか?」


「……動く的」


 そう言っているのは、優越感を剥き出しにした厭らしい笑みを浮かべている女の子三人。

 確か名前は……


「……扇羽子、雨野雫、石井レキ」


 風の能力者、水の能力者、石の能力者だったか?

 羽子ってのが妙に尖がった髪型の娘でA、雫ってのが切り揃えたボブカットの少女で凹凸の感じられないAA。

 レキってのが思いっきりショートの娘で、この子はBくらいでちょっとは存在感があるんだが、俺の隣にいるおっぱい様と比べると雑魚以外の何物でもない。

 うん。

 ……どれもこれも特筆するべき特徴はないな。


「……和人の場合、気にする特徴は一つだけでしょ」


 俺の脳内に突っ込みを入れるおっぱい様。

 それは間違いない。

 ……ないんだが、奈美ちゃんが首を傾げているから、そういう突っ込みはもう少しボリュームを下げて欲しかったり。


「ちょ、ちょっと。あんたたち、やめようよ」


「うっさいわ、飛ぶしか能のない蚊トンボは下がりや!」


「そうそう。他には何も出来ないんでしょう!」


「潰されたい?」


 止めに入った中空亜由美があっさりと三人の迫力に押し切られた。

 空手を習っていたという設定はどうしたというくらい、気弱である。

 ……ま、実際、この三人の迫力は一体どこでレディースやっていたってくらい、ちょっとソレ筋な雰囲気だったし、女の子じゃちょっとビビっても仕方ないのだろう。


 ──まぁ、俺としては亜由美の能力の方が怖いんだけどな、実は。


「……やれやれだぜ」


 剣呑な空気を前に、座りっぱなしってのも馬鹿らしい。

 俺は三部主人公みたいなため息を吐きながら立ち上がった。


 ──しかし、この三人娘、どうしてくれよう?


 この手の連中は子犬と一緒で、下手に生意気を放置していたらつけあがるのが目に見えている。

 ……だけど、女の子に手を上げるってのも気が引ける。

 そもそも正直な話、ただでさえ早くも辞めたくなっている学校なんだし、 これ以上問題を起こさないよう、平穏無事に終わらせる為には……

 ……何か、弱みみたいなの、ない?

 内心で隣のおっぱい様に期待を寄せるものの……


「……三人とも、自分の能力が役立たず扱いされたから八つ当たりしているだけ。

 とっととやっちゃって」


 弱みがあるかどうかを答えてはくれなかった。

 だが、撃破許可を貰った以上、彼女たちを蹴散らしてもあのおっぱい様に嫌われることはなあいらしい。

 俺は首を鳴らしつつ、三人の方へ歩いていく。


「な、なんや! やる気か?」


「ゼロ能力者の分際で生意気ですわ!」


「……謝るなら、今の内」


 俺はそんな三人娘の声を無視して近づき、構える。

 曽祖父から教わった古武術……流派の名前すら知らないのだが……その構えは、実は特にない。

 と言うか、構えなんて動きを制限するだけだからって教えてくれなかった。

 ……ただ一つ、背筋を伸ばせと、曽祖父に教わった通りにしてあるが……


 ──ノーガードで戦うなんて俺には荷が重いんだよなぁ。


 そんな訳で、いつもなら手の位置をガードも攻撃も出来るよう胸の高さに構えるのが俺の基本である。

 だけど……今日はもっと『武術家っぽく見せてハッタリをかます』ために、空手のように左手を肩位置まで上げて、右手を腰に溜める形に持ってくる。

 戦闘態勢を取った俺を見て……三人は相談を暫くしていたが、一分ほどでそれも終わる。

 どうやら攻撃する順番で揉めていたらしい。

 ……ハッタリを見て逃げる算段をしてくれる方が助かったんだけど。


「へっ! 喰らいや!」


 まず攻撃を仕掛けてきたのは羽子というAサイズの女子だった。

 その叫びと共に、透明状の風の塊が飛んできて……一応、凡その位置を読んだ俺は、右拳で相殺してみる。


 ──何だこりゃ。


 羽子の攻撃は、風船を叩き割った程度の感触しかありゃしない。

 ……どうやってコレで人を倒すつもりだったんだろう?


「や、やせ我慢は身体に毒やで!」


 羽子は自分の技をあっさりと破られたのがよほど衝撃的だったのか、慌てながらそう叫んで同じことを繰り返す。

 ……けど、やせ我慢するまでもなく、この能力に殺傷力がないのはもう分かりきっている。

 俺はぺちぺちと当たる彼女の攻撃を完全に無視しながら近寄って。


「んきゃ!」


 その薄い胸を軽く押すと同時に、痛まないように足払いを一閃。

 ……尻餅ついた羽子は何が起こったか理解してない表情で固まっていて、もう抵抗の意志はなさそうだ。


「よ、よくもやってくれましたわね!」


 次に攻撃を仕掛けてきたのは雫と言う名のAAの少女だった。

 バレーボールくらいの水の塊を飛ばしてくる。

 ……明後日の方角へ。


「う、動かないで下さいな!」


「そう言われても……」


 動いてもいないのに怒られた俺は、そのあまりの理不尽さに抗議の声すら出なかった。

 それから怒り狂った雫が三発水弾を放つものの、全て明後日の方角だった。

 その内の一発なんて尻餅をついている羽子に当たって、見事に体操服が透けていた。

 Aの体型に似合っているシンプルな水色のブラが透けている。

 サイズがサイズだから、特に目を奪われるほどのこともないが。


「きょ、今日のところは、このくらいに、して、差し上げますわ!」


 ……だから、お前は何もしていない。

 それどころか、たった四発で息が切れるって、どれだけ貧弱な能力なんだか。


「……次は、私の番」


 そう言ってきたのは、石井レキ。

 確かに石礫を飛ばすコイツの能力は三人の中で一番殺傷力が高そうだ。

 俺は肩を軽く回し、拳を軽く握って指を動かし、体育館の床の具合を軽く踏んで確かめ、それから一度軽く息を吐くと、気を引き締めた。


「……飛べ」


 レキのその言葉と共に、彼女の足元に転がっていた、外部から持ち込まれたらしき石ころの一つが、まるで何かに持ち上げられたかのように浮かび上がり……


 ──そのまま一直線に、俺の顔面目がけて飛んでくる!


 だけど、これ……女子中学生がアンダースローで投げる程度の速度なんだが。

 俺はその低速弾をあっさりと空中でキャッチする。

 お返しとばかりに、思いっきり振りかぶって……


「……え?」


 気分的に一四〇キロは出たかもしれない速度の石が、レキの方へ飛んでいった。

 飛んできた石が頬を掠めたというのに、彼女は反応一つできずに固まっている。

 ……三秒ほどが経過した頃、ようやく彼女は何が起こったかを理解したようだ。

 そのまま尻餅をつくと、足を小刻みに動かすだけで立ち上がれなくなって……多分、アレ、腰が抜けている。


「ま、こんなものかな?」


 口調と威勢に加え、超能力者という肩書きを持っている割には、肩慣らしにもならない連中だった。

 ま、誰も怪我させてないから、正直な話、これはこれで一件落着だろう。

 こういう場合に印籠を出して、本当の一件落着に持っていってくれる先生は……見守るだけで何も言ってくれない。


 ──やっぱりマネキンに期待するだけ無駄なのだろうか?


「お疲れ様でした」


 壁際に戻った俺を、奈美ちゃんの笑顔が迎えてくれる。

 うん。やっぱこの娘、動作の一つ一つが漫画のヒロインみたく、嘘っぽいほど可愛いな。

 ……真っ黒のサングラスさえしていなければ。


「お咎めは、ないっぽいな」


「……ええ。ああやって無力感を味わうのも訓練の内、らしい」


 俺の呟きに、おっぱい様のフォローが続く。

 ま、確かに武術でも勉強でも、無力感を味わって初めて成長しようと思える。

 超能力でもそれは同じって訳だろう。

 ああやって落ち込んでいる女の子を見て、そうさせたのが自分だと思うと……例え向こう側が突っかかってきたのが分かっていても、何故か無性に罪悪感が湧いてくる。


 ──この日本の現代社会、絶対に男女平等なんて嘘っぱちだな。


 と、そんなことを考えていたら、その落ち込んでいる可哀想な三人組に女子が一人近寄って何かやっていた。


「あれ、何やってんだ?」


「……乾さんが、扇さんの服を乾かしている」


 ……なるほど。

 乾操という名の少女……背が高いのに思いっきりスレンダーで、何と言うか、鶏がらみたいなイメージが湧く眼鏡をかけた、だけど胸だけはBくらいある……彼女が、さっき水を浴びた羽子の体操服へと手を伸ばしている。

 たったのそれだけで水に濡れ半透明になっている体操服が徐々に白い色へと戻っている辺り、乾かしているという言葉に嘘はないのだろう。


「しかし、本当にこのクラスって、軍事用に向かない能力者が揃っていますね」


「……そうかな?」


 さっきから体育館で披露されていた能力を頭の中で思い浮かべてみる。

精神感応能力者(テレパス)音波による空間把握(ソナー)空中歩行(エア・ウォーク)風撃(ウィンドアタック)水弾(アクア・バレッド)投石(ストーンフライ)乾燥(シリカゲル)……残り三人は布操作(リボンダンサー)電磁衝撃(エレキショック)光発生(ライト)……そして俺こと(アッシュ)

 ちなみに、この名前を決めたのは俺じゃない。

 この授業が始まったばかりの時に自己申告していたんだが……何と言うか学生レベルというか、中学二年生向けと言うか、酷い名前が揃っているよな、うん。


 ──しかし、使えない能力ばっかりかと言われると……やはり使い方次第だろう。


 ま、確かにあの三人娘の超能力じゃ、もうちょいと頑張らないと軍事的価値なんて出そうにないんだけど。

 そんなことを考えていた時だった。


「やっ。和人。派手にやったね」


 ふと声がした方を振り返ると、すぐ側に亜由美がいた。

 音もなく近づいてきたから、全然気付かなかった。

 足音も立てずに宙に浮きながら近寄って来るってのは、ある意味怖い。

 ……月のない闇夜で、彼女が上空からナイフなんかで切りかかってきたら、どうやって対処すれば良いんだろう?


「次、ボクとやろ?」

 

 亜由美は無邪気な、だけど自信満々の笑みを浮かべながら、俺にそう告げたのだった。


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