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第五章 第二話


「……久しぶりだな」


「あら、舞斗、元気でしたか?」


 朝食を終えて食堂から出た俺たちに、そんな声がかかる。

 振り返ると、そこには舞奈さんと、彼女に車椅子を押される檜菜先輩の姿があった。

 二人とももう制服に着替えている。

 尤も、一年生は大体の生徒が食堂を利用する際には制服に着替えているから、制服姿が別に珍しいという訳じゃない。

 これが、二年生くらいになると、寝巻きのままで食堂に来る剛の者が現れ始めるとか……そういう意味じゃ、先輩達が制服姿ってのは珍しいとも言える。


「う、あ、おはよう、ございます」


「あ、ああ。うん、おは、よう」


 俺と繪菜先輩の挨拶は、自然とぎこちなくなってしまう。

 何しろあの決闘……もとい、彼女のそれを揉んで以来、言葉を交わすのは初めてなのだ。

 そして、彼女のD……もとい、顔を見る度に手のひらに残っている感触を思い出してしまう。


 ──柔らかかったな〜。 


 そう俺が内心で呟いた、その瞬間だった。


 ──っ? 痛い!


 いきなり脚を踏まれる感触に俺が振り返ると、そこにはDによる追随を許さないほどたわわに実った、素晴らしきおっぱい様が。

 俺はD以上の存在を目の当たりにすることで何とか正気に返る。


 ──危ない危ない。


 正直、あの二つのDをアレ以上眺めていたら、下手すると繪菜先輩にプロポーズしていたかもしれない。

 それほどの引力がその二つの乳房には存在していた。


 ──D程度に目が眩むようではまだ未熟。


 背後のおっぱい様を目に焼き付けながら、俺は内心で静かに自戒する。


「……で、何か用か?」


 Dに一瞬でも眩んだ自分を戒めるかのように、落ち着いた声を出したつもりが、どうも他人行儀っぽい声になってしまった。

 それに……一度殴りあった相手に向けて、先輩とは言え今さら敬語を使うのも変だろう。

 殴り合いの上にバストを鷲掴みにしたという経緯もあって……どうもこの先輩とはどう話せば良いのか、今一つ距離感が掴めない。


「ああ。ちょっと、な。

 これから、屋上へ来て貰いたいが、大丈夫か?」


 檜菜先輩は俺のタメ口を気にした様子もなく、そう告げる。


 ──えっと、まだ朝一だけど、授業はどうするんだろう?


「授業は大丈夫だ。

 教師に話はつけてある」


 檜菜先輩の声は、俺が心中の疑問を口に出す前に、見事に打ち消してくれていた。


 ──先輩ってホント察しが良いよな。


 俺の背後でその凄まじい存在感在を誇っていらっしゃるおっぱい様と同じように、精神感応能力(テレパス)でもあるんじゃないだろうか?


「あら、舞斗、何処へ行くのかしら?」


「い、いや、姉さん、ちょっと、授業の準備を……」


「私を見て逃げるような、そんな子に育てた覚えはありませんよ?」


「……う、うん。

 あいたたたたた」


 ふと横を見れば……舞奈さんが舞斗のヤツを引っ張っていった。

 思いっきり耳を引っ張られていて……


 ──ありゃ、また説教だろうな。


 連れて行かれる子牛……ドナドナのテーマがよく似合うような哀れな瞳だったけど、Dという兵器を持つ繪菜先輩を振り切ってまで舞斗を助けてやる義理はない。

 アイツは男で、乳のない存在なのだ。

 ……俺は哀れな友人に向けて、静かに合掌する。


「じゃ、行くか。押してくれ」


「はいはい。分かりました」


 檜菜先輩の言葉を聞いた途端、俺は舞斗の存在を脳内から弾きだすと、軽く頷いて車椅子を押し始める。

 彼女の超能力があれば押す必要もない気はするけど、その辺は気分の問題なのだろう。


「……私は、外すわね」


「悪いな、数奇屋奈々」


 偉大なるおっぱい様が物理的に遠ざかって行くのを俺は、宇宙戦艦内から母星が遠ざかって行くのを眺める心持ちで見つめていた。

 だが、繪菜先輩がおっぱい様の同席を望んでいない限り、彼女を引きとめる術なんて俺は有していない。

 仕方なく俺は車椅子を挟んだ向こう側にある二つのDに目を向ける。


 ──うむ。

 ──やはり、立派だ。


 少しだけ感動を覚えながらも、車椅子を押しながら俺はエレベーターに乗り込む。

 利用するのは初めてだが、車椅子を押しながら入っても、そのエレベーターの中は十分に空間的余裕があった。

 バリアフリー完備と言い……今考えると、恐らくこの手の障害者用施設などは全て檜菜先輩のためにあるのだろう。


「しかし、お前も変なヤツだな」


「……は?」


 動き始めたエレベーターに揺れるDを眺めていたら、突如、車椅子の先輩がそう呟いていた。


「普通、オレの能力を見たヤツはもっと脅えるもんだぜ?

 手が見えないってことは、いつ殴られるかも分からないってことだからな」


「……と言われてもな」


 繪菜先輩が言うような事態なんて考えもしてなかった俺は、そんな気の抜けた返事しか出来なかった。

 実際、そんなことを言い出すと……街の中なんて歩けなくなる。

 通行人はいつ殴ってくるか分からないし、自動車はいつ車線をはみ出すか分からない。

 そんな危険が想定され続ける街の中で生活をしようと思ったなら、他の人たちの善意を信じるしか他ないのだ。


「……ったく。本当に変なヤツだな。

 丸一年経った今でも、超能力に慣れてる筈のクラスの連中や教師たちでさえ……この無くなった手足に奇異の目を向けるってのに、お前はそんな様子すらありゃしない」


 中身のない袖を見せつけるように、繪菜先輩は腕を上げながらそう呟く。

 その声は何となく呆れたかのような響きと、何処となく嬉しそうな声が同居しているようだった。


 ──ただ、そんなことを言われても、何と言うか、その返事に困る。


 何か言いかえしてやりたいものの、語彙の少ない俺は上手く言葉を返せない。

 その上、下手な言葉を告げるとこの場の何もかもが全て台無しになるような、そんな空気がエレベーターの中に流れている。


「……別に、手があろうがなかろうが、先輩は先輩だろうが」


 結局、俺はそう返事を返していた。

 実際、そんなことなんて俺にとっては『どうでも良かった』のだ。

 ただ俺は、失われた手とか足とかに視線を向けたり、彼女の超能力に脅える暇があるくらいなら……目の前にある素晴らしきDの双丘を眺める方が遥かに有益だと本気で考えていただけである。


「……あ、ああ。

 そう、なんだけどな」


 俺の返事を聞いた繪菜先輩は何となく呆けたような、そんな言葉を返すと、それ以上は口を開かなくなった。

 結局、それから屋上に着くまでの間、俺はエレベーターの僅かな振動で弾むDをその背後からじっくり眺めていたのである。




 四月もそろそろ終わろうというのに、屋上はまだ少しだけ寒かった。

 ここが埋立地ということもあるのだろうか、強い潮風が吹き付けてきている。

 生憎と、景色は一面の空と学園を覆う壁、そしてその向こうにある海くらいしか見えなかったが。

 初めて足を踏み入れた屋上は、その周囲がしっかりと鉄柵に覆われた、落下者が出ないような造りになっていた。


「さて、お前はこの学校をどう思う?」


 屋上に着くなり、檜菜先輩はそう問いかけてきた。

 質問の意図を図りかねて、俺は首を傾げる。

 当然ながら俺の脳みそはおみくじではなく、傾げた程度で答えが出る訳もない。

 ……結局、先輩の質問の意図を尋ねることにした。


「どう、とは?」


「この学校のカリキュラムを変だとは思わないのか?」


「……軍事利用がどうとかいう話か?」


「ああ。やっぱり知っていたか。

 なら話が早い。

 ……超能力者の軍事利用を進めている筈の、この学校のカリキュラムを受けてみて、お前は奇妙に思ったことはなかったか?」


「……」


 繪菜先輩の言葉に、俺は思わず黙り込んでいた。

 ……確かに檜菜先輩に言われる前から、俺が違和感を覚えていたのは事実である。

 実際、軍事目的に超能力者を利用するって割には、超能力の授業でやっていることは殆どお遊戯レベルでしかない。

 学校が推奨しているらしき決闘だって、命がかかっている訳でも大怪我の危険がそうそうある訳でもない。

 しかも在校生は、俺みたいなちょっとだけ武術を齧った程度の素人でも何とか勝てるレベルの超能力者ばかりなのだ。


 ──そもそも、この学校って環境がぬる過ぎるんだよな。


 この二週間強もの間、超能力者と顔を付き合わせてみて感じたのだが、超能力というのは「必要があるから目覚める」ケースが多い。

 そう気付けたのは、目の前の檜菜先輩のお蔭だろう。

 手がないからこそ『不可視の手(インビジブル・ハンズ)』という形の能力を発現している彼女は、まさに超能力者の典型とも言える。

 他にも、奈美ちゃんは周囲が見えないから、周囲を知覚する能力を発現しているし……

 高温多湿地帯に住んでいた委員長は乾燥能力を有している。


 ──羽子・雫・レキの三人娘や、亜由美にだって多分、そういう能力が必要な理由があったんじゃないだろうか?


 そんな、俺みたいなただの学生が気付くことを軍の上層部やこの学校の教師が気付かない筈がない。


「つまり、軍事用の超能力者を育てたいならば……生死の狭間に超能力者を叩き込めば良いってことか?」


 ──そうすれば恐らく、超能力者は迫り来る危険を避けるために、そういう目的の超能力を発現させる筈……。


 ……勿論、俺の予想が正しければ、だが。

 俺の言葉を聞いた檜菜先輩は、ニヤリといった感じの笑みを浮かべる。


「そうだ。この学校がやっていることは、軍事利用という名前を借りた、税金の無駄遣いだよ。

 役に立たない兵器を作っているに等しいのさ」


 その言葉を聞いた俺は、首を傾げていた。


「けどさ、軍事目的っていうのが名目だけなら、何か他の理由があるんじゃないか?」


 そうでなければ幾らなんでも無駄に税金を投入するような真似が許される筈もない。

 俺の言葉を聞いた先輩は心底楽しそうな笑みを浮かべ、口笛を一つ吹いた。


「理解が早くて助かる。

 ああ、そうだ。

 早い話が、この『夢の島高等学校』は……各地にいる超能力者を隔離・保護する施設なんだよ」


 だからこそ、あの壁か。

 俺は自分たちを取り囲む高い壁を眺めながら、自然と頷いていた。

 他にも様々な警備体制やセキュリティシステムなど、心当たりは幾らでもある。

 どうやら、入学式で亜由美の言っていた言葉が正しかったらしい。


 ──あの壁は……超能力者を閉じ込め、護るための『檻』という訳か。


 多分、普通に超能力者たちを保護することは出来なかったのだろう。

 超能力者ってのは身体能力的に社会生活を営めない訳じゃない。

 むしろ、その超能力を含めれば常人よりも優れた成果を上げられるかもしれないのだ。

 だけど、世間からの偏見や異物を見る視線という問題がある。

 そうやって超能力者が普通に生きていくには、この現代社会は世知辛過るのだろう。

 だからこそ、羊の群れの中に紛れ込んだ狼が、羊たちから孤立するあまり羊たちを傷つけないよう、こうして口実を設けて狼を隔離しているという訳だ。


 ──しかし、檜菜先輩、なんか妙に詳しすぎないか?


 まるで……

 俺の怪訝そうな視線に気付いたのだろう。

 檜菜先輩はまたしても笑みを浮かべた。


「ああ。この学校を作ったのは、政治家であるオレの爺さんだからな。

 詳しいのは当然って訳だ」


 ……そんな凄まじいことをあっけらかんと言い放ちましたよ、この先輩。


「交通事故で四肢を失っちまったオレが、その上、超能力なんてモノに目覚めてしまったんだ。

 んで、見事に親類縁者に敬遠されているって知るや否や、こんな学校作りやがったんだよな、あの爺さん……」


 いや、それって、そんなに軽く世間話みたいに言うような内容じゃないんだけど……

 というか、あのバリアフリーやさっきのエレベーターは、冗談抜きで檜菜先輩のためにあった施設ってことじゃないか?

 それって……


「思いっきり公私混同じゃねぇか〜〜〜!」


「ああ、その通りだな、けけけ」


 俺の叫びに、先輩は笑い声を返す。

 ……この日本、こんなんで良いのだろうか?

 まぁ、障害者が役に立たないという理由で隔離されたり殺されたりする、一時代昔よりは遥かにマシではあるんだけど。


「で、まぁ、無理を通して道理を引っ込めたこの学校は、今、あちこちから突き上げを喰らっている訳だ」


 ──そりゃそうだ。


 繪菜先輩の言葉に思わず俺は頷いていた。

 つーか、何故、ただの学生……しかも超能力者でもない普通人の俺にこんな話を?


 ──無茶苦茶嫌な予感が……


 俺の疑問を感じ取ったのか、先輩は軽く微笑んだ。

 それは……読んだことないけど、挿絵くらいなら何度か見かけた某絵本の、悪戯好きの猫の笑みによく似ていた。


「実はな。

 何処かの普通人(ノーマル)が、軍事利用目的で集められたハズのPSY能力者(サイキッカー)達を、素手で一方的に蹴散らしまくってくれたからな。

 ただのお題目だったとは言え、超能力者の軍事利用って大義名分が崩れ去った所為で、この学校の存在意義がかなりあやふやになってしまったんだよ」


「……うげ」


 先輩の言葉で、さっきまで俺には無関係だと思っていたこの学校の話ってのが、実は全然無関係じゃなかったと分かってしまった。

 そう判ってしまった以上、嫌な予感は確信に変わる。

 だからこそ、さっさとこの場を離れ、目の前に佇む車椅子に座った告死鳥から遠ざかろうと脚を踏み出したところで……

 その動きに気付いた檜菜先輩の超能力で、両肩を掴まれた。


「ここまで聞いておいて、それはないだろう?」


 繪菜先輩は、罠にかかった獲物を喰らおうという捕食者の笑みを浮かべる。

 だけど、俺だって面倒は御免だから、掴まれている両肩を振り払おうと。


 ──今度は両腕を掴まれた。


 しかも、関節まで極められている!

 と言うか、そもそも『六本の見えない腕』を相手に抵抗なんて出来るハズもない。


「この学校には『敵』が二種類いる。

 ……一つは軍事利用促進派だ」


 関節が極まったままの俺を愉快そうに見ながら、先輩は言葉を紡ぐ。

 俺は関節を極められた痛みで反論も出来ない。くそ。


「こいつらはこの学校があるのは仕方ないから、もっとカリキュラムを強化して超能力者を本当に軍事目的に使おうって連中だ。

 まぁ、費用対効果とか叫ぶ連中だな」


 その繪菜先輩の言葉は俺でも納得できる内容だった。

 確かに金を出したんだ。

 ……出した金額分の利益は回収したいところだろう。

 ただ、この学校が保護施設ではなく軍事施設という時点で、その利益回収の方法は自然と軍事利用という形になり……。

 その意見に納得は出来ても、それを実行に移されると非常に困ったことになるだろう。


「もう一つが……超能力者が存在するこの夢の島高等学校を解体しようとする連中だ。

 超能力者を差別する連中に引っ張られる形で、爺さんの政敵の一人がこの学校に刺客を送り込んだらしい」


 ……刺客?

 聞きなれない言葉に、俺は硬直していた。


「文字通りだよ。

 生徒の誰かが死んだり大怪我したりすれば、幾らこの学校が周囲から隔離されているといっても、流石に揉み消せない。

 その勢いでこの学校を潰そうって派閥だ」


 あまりにも物騒な単語が羅列し始めた時点で、俺は首を横に振る。

 そんなもの、古武術なんてやっていたとしても、所詮素人で普通人の俺がどうのこうの出来る筈もない。


「尤も、誰かさんが入学式翌日から暴れまくってくれたお陰で、この学校は存在意義を失いかけ……校内に紛れ込んでいるらしいその刺客は様子を見ていたみたいだがな」


 檜菜先輩の笑みは、今度は優しそうな笑みだった。

 同じ顔、同じ笑顔の筈なのに、笑みの質が変わっただけで、先輩の印象ががらっと変わっていた。

 関節決められて逃げられないというのに、俺はつい彼女の笑みを見て「優しそうだなぁ」なんて思ってしまうくらいだから、女の子の笑みってのは業が深い。


「ま、オレがお前を一方的に叩きのめした所為で、その猶予もなくなったらしくてな。

 いやぁ、あの時は頭に血が上っていたからな〜」


 檜菜先輩のその笑みはどうも照れ笑いっぽい雰囲気だった。

 語っている内容は俺を一方的に殴ったことで、笑い飛ばされるのは癪だったが……今はそれどころじゃない。


 ──まずい。


 繪菜先輩のその口調、表情から察するに……この話はもうそろそろ終わる頃だろう。

 その事実を前に、俺の直感が全力でアラートを鳴らしていた。

 この後で『その一言』を言われたら、俺はもう逃れられなくなり。

 これから始まる騒動に思いっきり巻き込まれることになるだろう……と。

 だから、俺は『その一言』から苦れるべく、必死で暴れて、この不可視の手を振り解こうと……


「でだ。オレはお前に、この学校の存続を手伝って欲しいんだよ」


 俺の必死の抵抗の甲斐もなく、先輩の口からはついに『その一言』が告げられてしまう。

 もう抗える余地がなくなったことを悟った俺は、ただ項垂れるしかない。


 ──結局、巻き込まれることになるのか。


 こんな、女子全員が俺を無視していて、超能力者の中に一人きりの普通人で、毎日毎日決闘騒ぎで難儀しているような、こんな学校を存続するために?


 ──断ろう。

 ──そうだ、そうしよう。


 もう巻き込まれかけているなんて知ったことか。

 俺は平穏無事に暮らしたいんだ。

 だから……


「勿論、報酬は支払うぞ?

 とは言え……オレに出来る範囲にはなるが」


 その言葉に、ピクリと俺の耳が動いていた。

 さっきまで逃げ腰だった俺の心は、そのたった一言によって燃え上がっていた。

 完全にスイッチの入った俺は、車椅子に座ったままの檜菜先輩の方へと視線を向ける。


「ああ、そうだな。

 報酬……金が欲しいなら、まぁ、億単位は流石に無理だが……」


「……金は、要らない」


 檜菜先輩が何かとんでもない額を口にしていたが、俺は一蹴する。

 その俺の声は思ったより冷たく屋上に響き渡っていた。

 そんな俺の静かな闘志とも言うべき決意を秘めた表情を見て、流石に不安になったのだろう。

 檜菜先輩の眉が顰められる。


「なら、何が欲しい?

 ……土地とか、宝石か?

 オレに出来ることなら、何でもするぞ?」


 ……よし、言質は取った。

 俺はその言葉を聞いた瞬間、罠にかかった獲物を喰らおうと顔を上げ、堂々と檜菜先輩の方を……そのDの方を指差して、宣言する。


「その乳、生で揉ませろ!」


 ……と。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」


 次の瞬間。

 檜菜先輩の顔が真っ赤に染まり、屋上には声にならない悲鳴が響き渡っていたのだった。


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