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第四章 第五話


「そこまでにして頂けますか、先輩?」


 ふと、そんな時。

 横合いからそんな声が俺たち二人に向けてかけられる。

 ……って、あれは……委員長の声?


「そうだね。勝負はついた筈だよ!」


 聞き覚えのあるこの声は、恐らく亜由美のヤツだろう。


「……ちっ」


 その言葉に俺を床に縫いとめていた拘束が緩む。

 お蔭で俺はやっと一息つけて顔を上げた。

 そこでは……


「確かに、言いがかりやな」


「私たちも、似たような感じでしたけどね」


「……同じクラスメイト」


 二組全員の姿があった。

 俺を最も敵視していたあの三人娘までが、この無敵とも思えるほど強力な車椅子の先輩と対峙していた。

 とは言え、奈美ちゃんとおっぱい様はちょっと後ろに下がっているけど。


 ──あの二人は非戦闘要員だから仕方ないか。


 その光景に奮起させられた俺は立ち上がろうとするものの、まだ世界が揺れていて上手く立ち上がれそうにない。

 ……だから、焦る。

 早く立ち上がって、あの中に入りたくて仕方ない衝動に突き動かされるように。

 たった二週間余りだけど、こうやってお互いのために立ち上がるくらいには仲間になれたのだ。


 ──俺はそう思っているし……彼女たちもそう思っていると信じたい。


 そう内心で呟きながら、脚に力を込める。

 とは言え、気合や意思で脳震盪を防げれば、ボクシングで負ける人間なんていなくなる。

 実際、気合や意思の力では脳震盪はどうしようもし難く、無理に立ち上がろうとした俺は無様にひっくり返っていた。

 だけど、その無様な俺を笑う者などこの場には誰一人としていなかった。


「けっ。

 ……雁首揃えりゃ、オレに勝てるってか?」


 さっきまで戦っていた俺にはもう関心を失ったのだろう。

 繪菜先輩は起き上がれないままの俺を無視すると、立ち塞がる二組の面々の顔を睨み付けながら、少しだけイラついた声でそう吼えていた。

 次の瞬間、先輩が突然、目に何かが入ったかのように目を閉じる。

 ……だけど、それだけだった。

 ちょっと鬱陶しそうにしただけで、すぐに目を開く。


「え? 嘘、どうして?」


 信じられないような委員長の声。

 恐らくあの瞬間……委員長が攻撃を仕掛けていたのだろう。


「他人の身体に干渉するタイプの能力は、ヤられた側が気合入れりゃ弾けるんだよ。

 そんなことも知らねぇのか、お嬢ちゃん?」


 ……知らなかった。そんなことも出来るのか。


「……あっ?」


 俺がその事実に愕然とした瞬間、委員長が突然、前のめりに倒れ込む。

 まるで首筋を見えない手刀で打たれたかのような……しかも恐ろしく早い手刀。

 例えどんなハンターであっても見逃してしまうだろう、見事な一撃だったのだろう。


「……尤も、PSY指数にある程度差がなきゃ抵抗すら出来ないんだがな。

 お前はもう少しPSY指数を増やすべきってことだ」


 なす術もなく気を失った委員長に向けてそう言う繪菜先輩。


「ま、無能が思いついた奇策なんてこんなもんだろうよ」


 ついでに思い出したと言うように、無様に転がった俺に視線を向けて余裕の笑みを浮かべながらそう告げる。

 ……ちっ。

 無力さを、浅知恵を笑われているようで、嫌な気分だ。


「あの、大丈夫ですか?」


 と、まだ倒れている俺に駆け寄ってきてくれたのは奈美ちゃんだった。

 杖を床に置いて、俺に肩を貸してくれる。


 ──情けないな、俺。


 そう内心で俺は歯噛みするものの、身体は未だに言うことを聞いてくれない。

 そうして俺が戦闘不能に陥っている間にも、先輩と二組の面々の戦いは続いていた。


 ──いや、コレは戦いと言えるのだろうか?


 亜由美が飛び蹴り繪菜先輩の側頭部に打とうとしたその瞬間、彼女はその蹴り足を掬われたかのように転がされ、そのまま床に叩きつけられて動かなくなる。

 その隙を狙おうと正拳突きの構えを取った羽子だったが、顎先に打撃を喰らったかのように顔を揺らし、その場に崩れ落ちる。


「な、何よコレ〜」


 由布結はリボンを飛ばそうとするものの、そのリボンは見えない何かに引っ張られるかのように彼女に巻き付き縛り上げてしまう。


「うわっちゃっ?」


 雫は自らが出現させたお湯が、見えない何かに叩かれたのように虚空で突然弾けた所為で、お湯を自分で被ってしまい床をころが回っているし。

 レキに至っては自分の操ろうとした石に追いかけられている始末である。

 ……恐らく、繪菜先輩の見えざる手がその石を掴み、レキを追い回しているのだろう。


 ──ここまで、圧倒的なのか。


 俺はその光景を見て、超能力というものの奥深さを今になってようやく理解していた。

 『見えない腕』を操るという繪菜先輩の超能力が凄いのではなく、彼女が『腕を操るその技能』そのものが凄まじく高いのだ。

 俺は古武術なんてやっているから嫌と言うほど分かる。

 自分の両腕を必要なタイミング、必要な分の力を乗せて動かすというただそれだけで、一体どれだけの修練が必要になったことか。

 今でも俺の身体は俺の理想通りには動きやしない。

 それを繪菜先輩はあれだけ自在に動かしているのだ。


 ──しかも、六本の腕を、だ。


 たった二本の腕、たった二本の脚を、しかも生まれながらに備わっているそれらを操るだけで苦労すると言うのに……

 彼女は後付けで手に入れたその六本の腕を、あれだけ自由に動かしている。

 その事実に俺は……彼女がどれほど凄まじい修練を築き上げたかを薄々と理解し、身体が震えるのを止められなかった。

 ……格闘家が眼前の敵の筋肉を見ただけで、その相手の修練を伺い知ることが出来るように。


「……佐藤さん?」


 奈美ちゃんが震え出した俺に向けて、そう不安そうに問いかけてくる。

 確かに俺は恐怖に、今更ながらに理解した彼女の強さに震えている。


 ──ああ、確かに彼女の力量は理解したさ。


 ……それでも……。


「で、お前らもやるのか?」


 残された面々……光を放つだけの吉良光、電気を放つ稲本雷香、そしてESP能力者であるおっぱい様と音無奈美ちゃんの、戦闘能力を持たない四人に対し、檜菜先輩は好戦的に笑いながらそう尋ねていた。


「ど、どうしよう?」


「……許しては、くれそうにない……」


 戦闘力のない吉良光が絶望的な声でそう尋ねたのに、おっぱい様は覚悟を決めたかのようにそう言葉を返していた。


 ──くそっ! 動けよっ! 俺の身体っ!


 そんな二組の面々を見た俺は、動かない身体に歯噛みしていた。

 幾ら繪菜先輩が強かったとしても……俺が負けた所為で級友が、いや、あのおっぱい様が傷つくようなことがあってはならない。

 そう覚悟を決めた俺は、思うように動かず未だに痛む身体も、揺れる世界も無視するかのように足に力を込め、最後の気力を振り絞って構えを取っていた。

 ……最後に一足掻きくらい、出来るようにと。

 そんな俺の覚悟を受け止めたのか、隣の奈美ちゃんは俺を止めるようなことはもうしなかった。

 繪菜先輩もそれ以上無駄口を叩こうともせず、俺たち残された二組の面々を睨み付ける。

 そうして体育館は殺気と敵意によって静まり返り、肌を刺すかのような緊張感が周囲を満たす。

 ……その瞬間、だった。


「許してくれぇ! 姉さ〜〜ん!」


 そんな、緊張を思いっきり砕く、酷く情けない叫び声が体育館中に響き渡っていた。

 その声に俺たち全員が戦いも忘れて振り向くと、笑顔のままの舞奈先輩と、座り込んで命乞いをしている舞斗の姿が……


「舞斗。

 ……貴方は私に、普通人の彼が「超能力なんて卑怯なもので威張ってるクズ」と喧嘩を売ってきて、それで負けたと言いましたよね?」


「……何だそりゃ〜」


 俺は二年の先輩が喧嘩を売りに来た原因を聞いた瞬間、思いっきり脱力してしまう。

 その所為か、俺の身体はもう指先一つさえも動かせなくなり、またしても奈美ちゃんの肩を借りる羽目になってしまう。


 ──つーか、こうしてまたしても奈美ちゃんに肩を借りている俺もかなりだけど……舞斗、お前、情けなさ過ぎ。


 女子の制服でへたり込んでいるから、パンツ丸見えだし……しかも、ブリーフかよ。

 いや……アレが女物じゃないことを祈ろう。


 ──そんなの、見たくもないし。


 と言うか、弟のその言い分を信じた上で、負けてボコボコにされた舞斗の怪我を「良い薬」扱いしていた舞奈先輩もかなり危険人物である。

 PSY能力者の思想って、全員がそんな感じなのだろうか?

 二組のクラスメイトの顔を見る。


 ──いや、違うと信じたい。


 幾らここが軍事目的で作られた学校で、これからそういう目的で育てられていくにしても……彼女たちにはたき火に捧げられるほどの、いや、せめて普通に会話出来るくらいの人間性は残していて欲しいと思う。


「彼の話を聞く限り……貴方は自分から喧嘩を吹っかけておいて、負けて……それで言い訳する。

 姉さんは、貴方をそんな子に育てた覚えはありませんよ?」


 極寒としか表現のしようのない声で弟にそう告げると、舞奈先輩は舞斗のヤツと同じように、五つの刃を虚空から取り出していた。

 ……ただし、舞斗の能力と違って、彼女のソレは多種多様の刃である。

 突きに特化したエストックや、斬りに特化したシミター。

 叩きつけるためのクレイモア。

 そして、ソードと呼ばれる斬り・突きに対応できる中型の剣が二つ。

 しかもその五本を全て同時に操っているらしい。

 五つの剣はそれぞれ独立した軌道を描きながら、舞斗の皮膚一枚だけを何度も何度も斬り裂いていく。


「ひっ。ひっ。ひぃっ。

 ゆるし、て、くれ、姉さん!」


 数度斬りつけられた時点で、舞斗のヤツは恐怖に対する限度が来たらしく、泣いて這いつくばりながら許しを請い始めた。


 ──そりゃそうだ。


 普通の神経をしている人間なら、刃物が肌をかすめただけで死を覚悟するもんだ。

 舞斗の泣き面を見て俺は、曾祖父に追いかけられている大昔の自分を思い出し……その所為で自分の中に燻っていた舞斗への怒りが完全に霧消してしまうのを感じていた。


 ──しかし……あの姉ちゃん、洒落にならない使い手だな。


 今日みたいなことがあった場合を考え、俺は頭の中でシミュレートしたが……アホの舞斗なら兎も角、あの姉ちゃんが相手だったとしたら……正直な話、俺が何本刀を持っていても勝てる気がしない。


「……お前は、違うのか?」


 舞斗の喚き声を聞いた繪菜先輩は、バツの悪そうな何処となく怪訝そうな顔をしたまま、俺にそう訪ねてきた。


「……何の話だ?」


 その質問の意味すら分からなかった俺は、奈美ちゃんに肩を借りたままの姿勢で質問に質問を返していた。


「ちっ。馬鹿馬鹿しい。オレの勘違いかよ。

 つーか……コレじゃオレが悪者みたいじゃねぇか!」


 俺と視線をまっすぐに合わせ……そして、檜菜先輩はすぐにそう吐き捨てる。


 ──まぁ、確かに舞斗の言い分を信じて俺を敵視していたのだとしたら、もうやりあう理由はないな。


 と言うか、舞斗が泣き喚く情けない姿を見せられて、それで闘志を維持できる人間はあんまりいないだろう。

 実際、俺ももうアイツを殴る気は失せてしまっている。


「おい。佐藤、ま、そういうことだ。

 あ〜、その、何だ……勘違いして悪かったな」


 その言葉を聞いて、俺は逆に吃驚してしまっていた。

 未だに自分が絶対的に有利な状況だと言うのに、力を誇示し続けられる立場にいるというのに、こうして自分の過ちを認められる人間なんて……。

 ……そんな人間、滅多にいやしないだろう。


 ──しかも、こんなに素直に頭を下げるなんて……


 超能力者と普通人との間に確執は持っているだろうけれど、そもそもの根は良い人かもしれない。

 なんて思っていたら、先輩は俺に横面を向けて……


「だから、オレを一発殴れ。それでチャラだ」


「は?」


 ……そんなことを言ってきた。

 あれだけ殴られ投げられ極められたのが一発で相殺ってのは納得いかないものがあるものの……

 正直な話、昭和の不良みたいなその言葉に、俺は繪菜先輩の性別を疑いたくなってきた。


 ──いや、うん。確かに女性だ。


 繪菜先輩の性別を疑おうにも、その胸にはDサイズの果実がたわわに実っている。

 ……工事済みとかじゃない限り、性別を疑う余地なんて欠片もありゃしない。


「どうした? 何度も殴られて腹立っているんだろう?

 ……さっさとしやがれ!」


 その威勢の良い叫びは、「姉御」というあだ名がついてもおかしくないほど、潔いものだった。


 ──ま、そういうんなら、軽く一発殴って、先輩の気が済むようにしてやっても……


 俺はそう決めると、奈美ちゃんに支えられるがままだった身体に喝を入れ、彼女の肩から離れると、膝が震えるままに歩き、車椅子の先輩の眼前に立つ。

 先輩は目を閉じて頬をこちらに向けている。

 これから殴られるというのに恐怖らしきものは窺えない。

 歯を食いしばりながら、堂々と胸を張っている。

 ……その所為で、堂々と突き出されているD。

 気付けば俺の手は大きく振り上げられていて……そのまま俺が何かを考えるよりも早くその腕は振り下ろされ……


 ──むにゅ。


「……ひっ?」


 ──あ、つい。


 目の前に女の子がいて、しかもD。

 だったら、俺が手の振り下ろす先としてソレを選んだのは、ある意味、当然……いや、必然の為せる業だったのだろう。


 ──しかし、檜菜先輩、意外に可愛い声を出す。


 今感じている手触りは……なんと言うか、柔らかいものを硬いもので包んだ感じ。

 柔らかいのが脂肪分で、硬いのはブラか。

 そりゃそうだ、Dだしノーブラはあり得ない。

 しかし、ブラにはワイヤーが入っていて乳房を持ち上げる役割もあるらしい。

 つまり、これだけの質量を持ち上げるには、これくらい硬くないとダメなのか。

 しかし、凄まじいボリュームである。

 手のひらに収まらないほどだ。

 う〜ん。ちょっと持ち上げてみる。


 ──重い。


 こりゃ、大きい人が肩こりになるって理由、分からなくもない。

 んで、この辺りが中心部分だから、この辺りを刺激すれば……


「いつまで触ってるか〜〜!」


 そんな叫びと共に、ローリングソバットが俺の側頭部に叩きつけられる。

 さっきの戦闘のダメージが抜け切ってなかった所為だろう。

 念願の乳揉みの最中だったというのに、俺はたったのその一撃だけで情けなくもあっさりとダウンする。


「な、何しやがる!」


 至福の時を邪魔されて、思わず抗議した先にいたのは……いつの間にダウンから復帰していた亜由美のヤツだった。

 手を組みながらも堂々と、俺の前で虚空に浮かんでいる。

 しかも、その表情は……かなり怖い。


 ──いや、しょうがないだろう?


 あんなもの、目の前にあったら触らざるを得ないのが男性心理ってもんだ。


 ──分かってくれとは言わないが、そんなに俺が悪いのか?


 ギザギザハートな言い訳をしてみるが、多分、女性には分かってもらえないだろう。


「う、う、う」


「……う?」


 何か呻き声っぽいものがした。振り向いてみると、車椅子に座ったままの檜菜先輩が、俯いたまま肩を震わしている。

 ……えっと?


「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!」


「あ、檜菜ちゃん?」


 ……どうやら姉御肌の彼女にも乳をいきなり揉まれるというのはかなりの大打撃だったらしい。

 そんな泣き声を上げながら、檜菜先輩が車椅子で走り去っていった。

 舞奈先輩はすぐにそれを追いかけて体育館を出て行く。

 しかし……あの精神状態でも車椅子を完全に使いこなして車椅子を操るのだから、彼女のPSY能力はすごい熟練度である。


 ──しかし、こういうのには慣れてないらしいな。


 ああいう口調だからセクハラの一つや二つくらい平気かと思ったけど……繪菜先輩は意外と純情だったようだ。


「……さて、と」


 そう言ったのは亜由美。

 ……あ、忘れていた。

 気が付けば、俺はさっきまで戦闘不能に陥っていた筈の二組の女性全員に取り囲まれていた。

 いや、あの檜菜先輩を上回る素晴らしいおっぱいを持った数奇屋奈々様だけは列の外側にいる。


 ──って、奈美ちゃんも何故こっちに?


 しかも、何故か涙目になっている。


「……言い残すことは、ある?」


 こう告げたのは委員長だった。

 口調、表情、視線……どれを見ても死刑を宣告する裁判官に見える。

 遺言というか辞世の句でも言えって感じの雰囲気である。

 

 ──切腹を迫られる侍って、こんな感じなのだろうか?


 ……切腹なんてしたことないから分からないけど。

 ただ何となく、この場から逃げられそうも言い抜けられそうにもないってことだけは、この場の刺すような空気の所為か、俺は直感させられていた。


「この佐藤和人、戦いの中で、戦いを忘れた……」


 結局。

 言い訳も誤魔化しも出来ぬと悟った俺は、何処かの哀戦士っぽく俺は呟いてみた。

 この台詞が口から出たとき……正直に言って、自分的には良い笑顔だったと思う。

 ただ、俺的にどんな感じというのと、周囲から見てどんな感じってのは全く別物で。

 俺の辞世の句を聞いて……委員長が親指を下に向ける。ローマ時代、負けた剣闘士に死刑を下す判定の手つき。

 それを合図に二組の女子マイナス一人が迫ってくる。


「いだだだだだだだっ!

 ギブッ! ギブッ!」


 既にボロボロだった俺はすぐさまそう叫んだけど、誰も勘弁してくれなかった。

 殴る蹴るの暴行である。

 と言うか、女の子の蹴りだから、体重や脚力から考えてもダメージはそう大きくない。


 ──だけど……スカートのままヤクザキックは勘弁して欲しい。


 色とりどりの小さな布きれの所為で、視線を何処へ向けて良いか困ってしまうのだ。

 ま、それでも助かったと思えるのは……この私刑に立ち会ったPSY能力者の誰一人として超能力は使わなかったことだろうか?

 ……早い話が、『ただのスケベな男』を『ただの女性が裁いた』ってことなのだろう。

 普通人とかPSY能力者とかESP能力者とか抜きで。

 満身創痍の俺は暴力の嵐が過ぎ去った後、寝転んで天井を見上げていた。


 全身が痛む。

 脳震盪の所為か、体育館の証明は幾重にも揺れ。

 疲れの所為か身体中に力が入らず、もう指一本動かせそうにない。


 ──だけど。


 ……こんな形ではあるけれど、俺はこれから先も何とかこの学校でやっていけるような気がし始めていたのだった。


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