第1章 Ⅴ幕 孤独
レミはそれなりの顔をしており、持ち前の明るさと頭の悪さで一応クラスの人気者なのだ。
そのレミが居ないのだから誰かしら気付いてもいいはずである。
クラスメイトの中にカイルを見つけ足早に歩み寄る。
「ねぇカイル、ちょっとこっち来て」
「何だい?」
いぶかしげな顔をしているカイルを連れて部屋の入り口まで戻るとボクは声を小さくしてカイルへ問いかけた。
「頭が変になったと思ってもいいけどちゃんと聞いて欲しい事があるの」
「まさかこんな所で愛の告白かい?」
「違うよ。 もっと深刻な話、真面目に聞いてね?」
「わ、わかったよ。 聞くからそんな怖い顔するなって」
「実はさ、今レミと2人でバルブを閉めようとしてたじゃない? それで――」
事の顛末を全て話すとカイルが口を開いた。
「あのさ……悪いんだけど……」
「何だよ」
「レミって……誰の事だい?」
(――は……?)
「なっ、誰ってレミだよ、いつも遅刻仲間で明るいけど頭が都合のいい子! こんな時に悪い冗談言うのははやめてよ!!」
「いや……別に冗談とかじゃなくてさ。 それに……君は誰だい? うちのクラスにいたかい?」
カイルの衝撃的な一言でクレンの頭は真っ白になった。
「あはは……何を……言ってるのカイル?」
(誰もレミを覚えて無い。レミだけじゃない、ボクの事も……)
「そんな……どうして……」
「もういいかな? 俺は戻るよ」
不審者を見る目でクレンを見ながらカイルはクラスメイトの元へ去っていった。
「一体どういう事……ボクとレミの事をみんな覚えていないなんて……」
この訳の分からない状況を整理しようと頭をフル回転させていく。
ふと気付くと部屋は静まり返っており、機械の駆動音のみが部屋を満たしていた。
突き刺さるような視線を感じ顔をあげてみるとクラスメイトが一同にクレンを見ていた。
おそらくカイルがさっき話した事を広めたのだろう。
その視線は……やはり不審者を見つめる冷たいものだった。
(当たり前か……今のボクは完全な不審者で頭がおかしい電波娘だ……)
クレンは元クラスメイトの視線に耐えきれず部屋を後にしたのだった。
キィ……パタン……
部屋の扉を閉めると同時にクレンの金色の瞳に涙が込み上げてきた。
「ヒック……何だよコレぇ……どうなってるんだよぉ……ヒック……誰か、誰か助けて……レミはどこに消えちゃったのよぉ……ゔぇぇぇぇん……」
完全にパニックだった。
目の前でいきなりレミが消えた。
しかも誰もレミとクレンの事を覚えていない。
人が消えたなど普通の人に話せば頭がおかしくなったと思われるに違いない。
(――母さんに電話しようか……いや母さんまでボクの事が分からなかったらもう心が折れてしまう……ただでさえボクは意思が弱いのだ)
「こんな事になるなんて……もう全部投げ出してベッドで眠りたいよ……」
涙と鼻水で端正なその顔をぐちゃぐちゃにしながらクレンはもう精神が限界に来ていた。
……ュォォォオオン……オオォォォン……
「!」
(――まただ、またこの感覚……この感覚があってからボクの周りにおかしな事が起き始めたんだ。550年ぶりの大規模な地殻変動。レミが消えて、そしてみんなの中からボクとレミの記憶だけ消えて……)
「いったいぜんたい何がどうなってボクはどうすれば良いのか何処に行けばいいのか誰でもいいから教えろよおおおおおおおおお!!!」
吠えた。
力の限り、声が出る限り。
ここが建物内で扉の後ろには元クラスメイト、そんな事はお構いなしだった。
この叫び声で警備員でも職員でも作業員でも誰でもいいから来て欲しい、嘘でもいいから自分は正常だと言って欲しかった。
『ごめんなさい……私ではどうすることも……』
突如として声が聞こえてきた。
正確には頭の中に声が響いていた。
『私では……彼を止められなかった……そのせいで……』
また聞こえた。
「とうとう幻聴まで聞こえるようになっちゃった……これが現実逃避ってやつなのかな……あははは……」
そう呟くとクレンは自嘲気味に笑った。
「おーい、ボクの頭よ、ホントにおかしくなっちゃったの?」
『そうではありません……私は……で……あやまり……』
所々で言葉が切れてしまい、言いたい事が何一つ分からなかった。
「もしもーし、よく聞き取れない……いや、よく響かない、のがしっくりくるか。耳で聞いてる訳じゃないんだしね、電波が悪いのかなー完全にボク電波娘になっちゃったよーあひゃひゃ」
頭の中に舞い降りた突然の来訪者。
それが何なのか解らないがクレンは考えるのを止めた。
分からない出来事が立て続けに起きた事で、クレンの頭の中はオーバーヒートしていた。




