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第1章 Ⅳ幕 消失

 プシュー……


「…………」

 背後から空気が抜けていくような音を耳にしたクレンは嫌な予感をヒシヒシと感じ取っていた。


 プシュー……プシュシュシュー……


「大変だわさ! ここのバルブから蒸気が噴き出てるだわさ!」

 見るとレミのほんの目と鼻の先のバルブがカタカタと震えながら蒸気を噴出しているのが見えた。


「まずいぞ! そこの君そのバルブを閉めてくれないか! バルブの右にある赤いスイッチを押せば緑に変わる! それが手動に切り替わった合図だ、急いでくれ! 私は制御室へ行ってシステムを緊急停止してくる!」

 そう言い捨てて通用口とかかれた扉へと走って行った。


「あ、あたし!?」

 いきなり指名されて慌てるレミ。

「そのバルブのすぐそばにいるのだから仕方ないだろう。時間が無い! 私やここにいる皆の為だと思って頼む!」

 所長は通用口の扉をくぐりながら言い捨てて行ってしまった。


「わわわわかりましただわさ! 所長様の為なら例え火の中蒸気の中だわさああああ!」

 言われたレミは慌ててそのバルブに走り寄りバルブを閉め始める、が。

「ふぅうん!! ……だめぇ堅くて回らないだわさあああ! クレン助けてえええ」

 それはピクリとも動かなかった。


 慌ててクレンもバルブへ掴みかかる。

 所長の話ではスイッチを押さなければ手動にならないという話だが……

「あんたスイッチ押したの!?」

 指定されたスイッチは未だ赤く点灯していた。

「バカレミ……やっぱり押して無いじゃない……」

 クレンは言われた通りバルブの隣にある赤く光っているボタンを押す。


【オートシステムカラ手動システムヘキリカエマス】


 人工的な声が響き、ランプは緑へ、そしてカチャっと言う何かが外れた音がした。

「これで……ふんぬぅぅぅ!」

「……か、かたいだわさぁっ……」

 堅く絞められたバルブはクレンとレミの力では回りそうもなかった。


「カイル! 手を貸して!」

 クレンは慌ててまだ続いている揺れでも微動だにせず、腕を組んでクレンを見ているカイルへ助けを求めた。

「まだだ!まだヒーローは動かない!もっと危機的な状況にならなければ!」

(――もうヤダこいつ、所長さんは!?)

 もしかしたら、と思い見渡してみるがそこに所長の姿は無い。

(――そりゃあさっき出て行ったばかりだ、まだ戻らないよね)


 クラスメイト達はと言うとみな一様にこの揺れで足がすくみ動けないでいた。


 ……ォォン……ォォオオン……ユォォォン……


 先ほどから感じる違和感もますます強くなってくる。


(――ヤバイやばいヤバい!)

 クレンが冷静に焦っていると突然、立てないほどの強い揺れが突如として止まった。

 それに合わせてバルブから噴出する蒸気も止まったのだった。


「っくあはぁぁぁ~~……よかったぁ、一時はどうなる事かと思ったよ、ねぇレミ」

 バルブを握りしめているレミの手からゆっくりとその視線を顔へと動かす。

「れ……み……?」

 そこにレミはいなかった。


 バルブを握りしめた両手の肘から体全体が丸ごと消えていた。

「い……いや……うそぉ……いやぁっ――」

 叫びだしそうになった時、そこに残ったレミの腕が肘から手にかけてゆっくりと消え始めているのが見目に入った。


 クレンは目の前で起きている事がまったく理解できずに、ただ口をパクパクと動かすだけで言葉が出て来こない。

 レミの腕が全て消えてしまうのを見届けた時だった。


「やぁありがとう! 助かりました。しかしすごい揺れでしたねぇ」

 戻って来た所長に唐突に後ろから声をかけられクレンはやっと我に返った。

「あのっ……一緒にいた子が消えちゃって……その……」

「ん? なんですか?」

 所長はきょとんとした目でクレンを見ていた。

 

「いえ……大丈夫です……」

(――いきなり「目の前で友達が消えたんです」なんて言ったって頭がおかしい子だと思われるのがオチだ)

 それに所長は何も感じていないようだった。


 まるで始めからクレン1人でバルブを閉めたかのように……

 口々に揺れの凄さを語り合うクラスメイト達の元へ戻り様子を窺っていると、こちらもやはりレミがいない事に誰も気付いていなかった。


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