第4章 4幕 正体
「もう行ってしまわれるのですか……」
イデアがひどく残念そうな顔をする。
「あやつを倒した事で邪龍の魂も鎮まりを見せるはずだ。先程は言わなかったが邪龍の魂は魔方陣と魔力を抽出する術者がいなければあまり害はないのだよ。それにより時空の歪みも沈静化してゆくだろう、ともすればこの時代に魔物は存在出来なくなる。なので私は早めの退場をするだけさ」
ミルメコレオは言いながら蟻の姿をした後ろ足で獅子の頭をカリカリとかいている。
「送って頂いてありがとうございます、しかし……」
そこで言葉を切るイデア、じっとミルメコレオの目を見つめ何か言いたそうな顔をしていた。
「……何か、私の顔に付いているかな?」
イデアの視線を受け、ミルメコレオは目を伏せ静かに微笑む。
「どうしたイデア、まだ何か聞きたい事があんのかい?」
「こんにちわですぐさよならはどうかと思うのですよー」
フォーゴが怪訝そうな顔でイデアを見つめ、アウラはミルメコレオの耳とじゃれていた。
しばしの沈黙。
イデアはどうしたらいいのか決めかねているようだったが、おずおずと口を開く。
「ミルメコレオ殿……貴方は……魔物ではありませんね……?」
その言葉を聞いた一行はミルメコレオを見る。
不思議な事に皆驚いている様子は見られなかった。
一行の視線が集中する中、ミルメコレオは目を伏せ、ただ静かに微笑んでいた。
「なぜ……そう思う……この格好はどう見ても魔物だと思うが?」
返答は無く、一行はただただミルメコレオを見つめていた、獅子の口から真実が語られる事を望むかのように。
「フフフ……ククク……はっはっはっはっは!」
沈黙の問いに耐えられなくなったのかミルメコレオは声をあげて笑いだした。
「隠し通せると思っていたが、駄目か……さすがだな……」
「確証はありませんでしが……やはり……」
言葉を続けようと口を開いたがイデアのその言葉は紡がれる事無く空に消えていった。
それはミルメコレオの体が光り始め、イデアの言葉を制した為だった。
「仕方ない……では皆の期待に答えるとしよう……」
ミルメコレオの体の輝きはますます強くなっていく。
「太古の時より歪みに呑まれ……魂のみとなりこの神殿に辿り着いた……」
ゆっくりと、明るい声ながら威厳を響かせ、その体は光に包まれ、ふわりと浮きあがる。
光は枝分かれし六芒星の形を取りながらみるみる大きくなっていく。
一行は無言でその光景を見守っていた。
「その場にいたこの魔物の体を借り、今まで行動をして来たが……もはやそれも必要ない……」
数回光が瞬き光が失せていくとそこには、
全身に纏った揺らめく炎。
無数の鱗に覆われた体躯。
背中には大きな三対の翼。
見上げるほどの高さを持った龍がいた。
「この姿も長くは持たぬ……だが相対する事が出来て嬉しく思うぞ……我が末裔よ」
「貴方は……まさか……」
イデアとフォーゴは驚きで声が出なかった。
クレンは状況が分かっていないのかぼんやりと龍の姿を見つめるだけだった。
「人は我をイーグニスと呼ぶ……炎龍イーグニスと……」
炎龍イーグニス……イデアとフォーゴの故郷イーグニス王国の始祖たる龍。
果てはクレンの先祖の炎龍がその場にいたのだ。
「こちらこそ……お会い出来て光栄の極みにございますわ、イーグニス様」
「あんたがそうか……随分でけぇなぁ……」
イデアはうやうやしくお辞儀をし、フォーゴはイグニスを見上げながらぽかんと口を開けていた。
「大きいトカゲだぁ…………」
クレンも同じく見上げながら呟いていた。
自分の先祖に向かってかなり失礼な物言いだと思うが……イーグニスは気に留めていないらしかった。
「では……さらばだ……誇り高き末裔達よ……」
一陣の風が一行を襲い、思わず皆目を瞑る。
風が吹き抜け、各々目を開けるとそこにイーグニスの姿はもう無かった。
「行ってしまわれましたわね……」
「あれが俺達の先祖ったって信じらんねぇな……どうやって子孫残したんだ……?」
「フォーゴの疑問はそこなの? まぁ確かにボクも気になる所だけどね……」
それぞれが思い思いの言葉を口にしている時、後ろからレミの呻き声が聞こえた。
「お……もうレミも起きるだろう……そろそろカイルにこの体を返してやらなきゃな」
「私達もどうやら時間のようですわね」
レミの声を聞いたフォーゴとイデアは振り返りながらそう告げた。




