第4章 2幕 外へ
「なぁ……ミルさんよぅ」
それまでアウラとじゃれていたフォーゴが口を開いた。
「何かな?」
「俺が戦った魔物は魔将の一人だーとぬかしてたんだが魔将ってのは強いのかい?」
フォーゴはカスチゴの事を思い出していた。
恐らくカスチゴは本気を出していなかったのだろう、戦ったフォーゴだからこそ分かる。
「私が相対した者も魔将と名乗っておりましたわ。時の歪みが闇の眷族にも影響が出ていると仰っておりました。彼らもこの世界の住人なのでしょうか?」
イデアの脳裏にマフカフの言葉がよぎる。
「闇の眷族はこの世界の裏側の住人でな、その歴史は人類誕生とほぼ同じ。利用し利用されながら人と共存してきたのだよ」
考え込むイデアを横目に捉えながらミルメコレオは続けた。
「そして……魔将とは闇の眷族の中でも一際優れた者に与えられる称号だ。それは戦闘に限らず、頭脳に秀でた者や他者を貶める事に秀でた者、皆さまざまだよ。階級制度等は無いがやはり実力社会だな、力無き者は力強き者へ服従をしなければ生きては行けぬ」
「ミルメコレオ殿、よろしいでしょうか……」
イデアが理解出来ない、といった顔で空中を見上げながらミルメコレオへ問いかけた。
「言ってみろ」
「魔将の事はわかりましたわ。しかし疑問なのです、どうして圧縮された歴史が解放されると世界が滅ぶのですか? 解放したからといって何か悪い事があるとも思えないのですが」
イデアはまだ空中を見ている、考えた末の質問なのだろう。
「簡単な事だ。この世界には許容範囲というのがあり、それを超えない為に古い歴史が圧縮されると言うのは分かるな?」
無言のままコクリと頷くイデア。
「解放するとそれまで圧縮されていた歴史が膨れ上がる、そうするともしかしたら許容範囲を超えてしまうかも知れない。そうならないように世界が防御反応を示すのさ、修正しようとな、それが時空震だったり時空の歪みだ。だが……時空が歪むと言う事は他の年代の存在が流れ込んで来てしまったり、その時代に居るはずの存在が忽然と消えてしまったりする。この時代にいる魔物がいい例だ、そんな状態が頻繁に起きたらこの世界は混沌の海と化し全てがごちゃまぜになり、世界は終わりを告げるのさ。おわかりかな?」
前足で顔を掻きながらミルメコレオは話を終えた。
防御反応で世界が滅んでしまうなどイデアには本末転倒に思えた。
防御というよりは初期化だ、全てを一つにしてそこからまた創造を始める。
「見ろ、このミノタウロスを」
ふと歩みを止めたミルメコレオが先を示す。
そこはミルメコレオに初めて出会った場所だった。
今や下半身のみとなりながらも倒れる事無く立ち尽くしているミノタウロスの姿もあった。
「こいつだって被害者さ、いきなり違う場所へ転異してしまったのだからな。自分の周りは敵としか見えない、怖くて不安で仕方無かったろう……魔物にだって、感情はあるのさ……」
ミルレコレオはミノタウロスに黙祷を捧げるように頭を垂れ黙ってしまった。
「そう……でしたのね……、生きる為とはいえ申し訳無い事をしてしまいました……」
イデアもならって隣で黙祷を捧げる。
「昨日の敵は今日の友ってヤツかぃ? だがまぁ……そう考えると不憫な奴だな……」
フォーゴもそれに続く。
気付けばアウラも同じく黙祷を捧げていた。
「だがミルさんよ……オルトロスは喰ってたよな、ありゃあなんでだ」
フォーゴはふと思い出したかのようにミルメコレオへ疑問を投げかけた。
対するミルメコレオは何故か遠くを見つめながら口を開いた。
「あぁ…………腹が……減っていたのでつい……な……」
その場に微妙な空気が流れる。
「そ、そうかい。腹が減ってたなら仕方ないよな……ははは……」
乾いた笑いをしながらフォーゴの顔は引きつっていた。
「行こう」
微妙な空気が嫌だったのかミルメコレオが再び歩み出す。
後を追うイデア、フォーゴ、アウラはしばし沈黙を保ち歩みを進めたのだった。
大聖堂を過ぎしばらく歩き進めて行くと行き止まりへたどり着いた。
「ここから出よう、近道だ」
ミルメコレオは言いながら獅子の腕を軽く振るう。
まるでガラスの様にあっさりと、ガラガラと音を立てて壁が崩れていった。
「ひゅー、やっぱやるねぇ……」
それを見たフォーゴがはやし立てる。
ミルメコレオはその声に反応する事無く壁の向こうへと出て行き、イデアとフォーゴもそれに習い、崩れた壁から外に出る。
その一行を眩しい日の光が貫き、むせかえる様な草木の香りが包み込んだのだった。




