第4章 1幕 闇 終わる時
「どうやら終わったようだな、恩にきる」
戦いの間の扉をくぐると横から謎の声が聞こえた。
四人が横を向くとそこにはミルメコレオの姿があった。
「ぴぎゃああああ! お、おおお、おばけだわさわわわ……」
まずレミが気絶。
三人も思わず後ずさりをしていた。
「あ、あんたも喋れんのかい……?」
フォーゴが顔を引きつらせながら尋ねる。
「まぁな。こんなナリなもので出会い頭に喋りかけるのもどうかと思い口を閉ざしていたのだ」
ミルメコレオはその容姿と対照的な明るい女性の声をしていた。
「話せるのであれば最初に仰っていただければ……警戒する事もありませんでしたのに」
イデアがススッとミルメコレオの前に進み出た。
「ミルさんに質問なんだけど、どうしてここに連れてきたの? なんでそんな気持ち悪い格好してるの?」
クレンが質問を投げかける。
最後の質問は要らないだろうとイデアとフォーゴは二人してため息をついていた。
「み、ミルさんとは……まぁよい、聞きたい事はここを抜けながら話そうではないか」
ミルメコレオはそう言うとゆっくりと歩き始めた。
どうやらミルメコレオは友好的な魔物らしい。
道案内をしてくれるのはクレン達にとっても嬉しい誤算だった、実際どうやってこの神殿を抜ければいいか誰もわかっていなかったのだから。
「ふむ、まずは何を話そうか……とりあえずその気絶している女性を私の背中に乗せるといい、担ぎながらは疲れるだろう?」
「そりゃーありがてぇ! 気絶してる人間てのは意外に重くてなぁ……んーと……ミルさんよぅ、すまねぇんだがあんたの背中ってどこだい?」
フォーゴはレミを乗せるべき背中を探して目が泳いでいた。
「背中と言ったら背中だ、ほれ、ここだ」
フリフリと蟻と獅子が繋がっている部分を揺らしながらミルメコレオは促した。
「お、おう……ここでいいんだな……っしょっと」
獅子の厚い毛皮とボールのような蟻の体が丁度合流している為、そこはふかふかの球体ベットのようだった。
「ねぇねぇミルさん! ボクも背中乗っていいかな!?」
ミルメコレオのたてがみを引っ張りながらクレンが言った。
「む、それは構わないが……、さっき気持ち悪いと言っていなかったか」
たてがみを引っ張るのは嫌なのかプルプルと首を振りながらクレンに答えるミルメコレオだったが、先ほどの気持ち悪い発言が多少引っかかっているらしい。
「ま、まぁ後ろは気持ち悪いけど……こっちは毛皮でフカフカで気持ち良いんだもの……」
見ればクレンはミルメコレオの毛皮が気に入ったようで頬ずりまでしていた。
「ミルさんいいのかい? だいぶ失礼だぜ、この嬢ちゃん」
こめかみを押さえながらフォーゴはため息をついていた。
「クレン……それが人に頼み事をする態度ですか……」
イデアはおろおろしながらミルメコレオとクレンを見比べていた。
「かまわんよ、確かに趣味がいい体ではないのは分かっているからな」
友好的な魔物とはここまで人間が出来ているのだろうか、いや、魔物が出来ている、の表現が正しいのだろうが。
「やった! ありがとミルさん!」
許可がでた途端、背中に飛び乗るクレン。
イデアとフォーゴの言葉は聞こえていないらしかった。
「自分もモフモフするですよー」
どさくさに紛れてアウラもそのたてがみの中へと滑りこんでいった。
「さて、とりあえず。聞きたい事を適当に言ってくれ、そうすれば適当に答える」
なんともいい加減な物言いにイデアとフォーゴは顔を見合わせる。
初めて遭遇した時は命がけの覚悟をしていただけに拍子抜けだった。
「ではまず私から質問させて頂きますわ。真実を教えて下さいません事?」
単刀直入にイデアは最初の質問を投げかける。
「真実と来たか、ずいぶん大雑把な質問だが……まぁいいだろう。これが答えになるか分からぬが……」
ミルメコレオは歩みを進めながら答え始めた。
「まずはこの神殿の事から話すとしよう、色々とこの神殿は核に近いのでな。この神殿はいわゆる邪教の神殿なのだよ、太古の昔に封じられた邪龍の魂を崇める為の、な。お主らも見たであろう? あれは人の魂と肉を喰い成長するのだ、そして膨大な魔力と呪いを生みだす。時間軸を捩じ曲げる程の呪いと、歴史を解放する為の大魔術を行使できる程の魔力をな」
この神殿の至る所が今の時代まで稼働していたのはその為だったのだ。
邪龍の呪いにより神殿内部の時が遅くなっていたか、止まってしまっていた。
邪龍を崇める神殿などイデアの時代でも聞いた事が無かったのだから、イデアの時代よりも昔の遺物と考えられる。
そう考えれば朽ちていない倉庫の品、今なお稼働するランプ、捻じれた結界空間、全てに説明がつく。
やはりイデアの憶測は当たっていたのだ。
その事を考え一人うなずくイデア。
ふとクレンを見るとミルメコレオの背中で寝息を立てていた。
レミを助けた今、安心して全てどうでもよくなったのだろう。
その姿をみながらイデアはミルメコレオに次を促した。
「ありがとうございますわ、では続きをお願い致します」
「よかろう、かの者の事を話すとしようか……グランツ・シュトラール。あやつはよりにもよって地獄の王ソロモン72柱が一人、フラウロスと契約を結んでしまったのだ。フラウロスは契約者を世界の創造から過去、現在、未来の全てを見通す場へ連れて行く事が出来る。その場は……アカシックレコードと呼ばれている所でな。そこであやつは圧縮された歴史の存在を知ったのだよ、そして圧縮された歴史の中に潜んでいた凝縮された負の感情によって支配されてしまった、と言う所だ」
話終えるとミルメコレオはふと遠くを見る目をした。
その瞳は感傷に浸る様な悲しい目をしていた。




