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第1章 Ⅲ幕 見学

 

 発電所の入口で小奇麗なビジネススーツに身を包んだ1人の男性がボク達を迎えてくれた。


「みなさんおはようございます。私はこのアルトゥール発電所の所長を務めておりますグスタフ・シュトラールと申します、以後お見知りおきを」


 憎たらしいほど爽やかな笑顔を浮かべながら所長と名乗るこの男、細身で高身長、肩まであるストレートの茶髪そして甘いマスク。

 こんな所で所長などやらずに、モデルになった方が人生バラ色なんじゃないかと思わせる程に洗練された出で立ちをしていた。


 クレンが所長の容姿について考えていると、何かが思考に引っかかった。

(――シュトラール……?どこかで聞いたような名前だ……)


 記憶の中を探り、その名前が何なのかを思い出していると、


「あぁ!なんという奇跡、なんという悲劇!火力発電所というむさくるしい砂漠に広がるオアシス! そして作業着とスーツ、石炭を炉にくべる男たちの筋肉や汗。対してこの所長様の爽やかな笑顔、洗練された身のこなし! 二律背反的なアンビバレッジなこの組み合わせ! もう……もうあたしは胸の高鳴りが止まらない止められないだわよぉぉぉぉぉお!」

 レミの絶叫でクレンの考えは中断されたのだった。

 目をハートにして訳のわからない事をキャピキャピ喚くレミを尻目に、苦笑いを浮かべながら所長は続けた。


「えーっと……。 ここでは石炭を燃やしているのでは無くて皆さんの家庭で出たゴミや産業廃棄物などを燃やして電気を生み出しているんだけど……学院で習わなかったかな……?」

 そんな事は誰もが知っている、ここは王都ハイマートでも最重要機関として指定されており、今時の小学生だって知っている話だ。

 はっきり言うとレミは頭がいい方ではない、自分に興味が無い事は聞いたそばから忘れてしまう都合のよい頭脳の持ち主なのだ。


「それじゃあ各所の説明も交えながら施設を回って行きましょう。少し危ない場所も通りますので各自ペアを組んでしっかりとついて来てください、みなさんの身に何かあってはいけませんからね」

 またしても爽やかな笑顔を浮かべながら身を返し先頭のクラスメイト達を引き連れて歩き出した。


「ほら、行くよレミ! いつまでも訳わかんない事ぶつぶつ言ってないの! 置いて行かれちゃうよ!」

「あぁん、所長様ぁん」

未だ瞳をハートにして呆けているレミを引っ張りつつクラスメイト達に追いつこうと歩き出した時――


 ……ゥオン……ゥゥオオン……


「な……何今の……」

 何か、変だ。

 何が変なのか……クレンは言いようの無い違和感を感じた。


「ね、ねぇレミ、今何か感じなかった?」

「ほぇ~? 所長様ぁん」

「いい加減にしなさいよバカレミ!」

 思い切りレミの頭を引っ叩き突っ込みを入れるクレン。


「何するんだわさ! 人がせっかくいい夢見てるってのに! 夢見る乙女はクレンだけの専売特許じゃないのだわさ!」

「うっさいな! ボクだって好きで夢見てたわけじゃないんだから! それより今何か変な感じしなかった?」

「う~ん……あたしは特に何も感じなかったけど……どして?」

 軽く首を傾げながらクレンを見つめるレミ、黙っていればそれなりの顔。

「いや……なんだかこう、ぞわぞわって来るような感覚になってさ……なんて言うか……幽霊を見た時のようなそんな違和感と不気味さがミックスされたような感覚」

「不協和音を聞いたようなぞわぞわ?」

「そうそう、そんな感じ!」


 レミはため息を吐きクレンを諭すように優しい声で語りかけた。

「分からなかっただわさ。クレン、貴女きっとツカレテルノヨ? あぁっそんな事より所長様が行ってしまわれるだわさ! 行くわよクレン!」

 レミにはクレンの違和感よりも所長様の方が大事だったようだ。


「そんな呆れたような棒読みしないでよ! しかもそのセリフさっきボクが言ったやつじゃないか!」

 そんな会話をしながらみんなの元へ急ぐクレン達だったが言いようの無い違和感は消える事なくクレンにピッタリと纏わりついていた。


 急ぎクラスメイトの集団へ追いついたクレンとレミ、所長の話しを聞きながら順調に進んで行くとバルブがいくつも付いた配管で埋め尽くされた部屋にたどり着いた。


「ここは制御室でしてね、今は作業員を入れていないけどこのバルブは機械で制御されていてこれを使ってタービンを回す蒸気等を調整しているんだよ」

 所長が部屋の説明をしている時だった。


 ……ォォゥゥォォゥン……ウォォン……


(――まただ! さっき感じたモノと同じ……)

 クレンがそう思った瞬間だった。


 ズズズズズズズズズ……!! ズゴゴゴゴゴ!!


 立っていられない程の激しい揺れがクレン達のいる部屋を襲った。


「んなっ!何なのだわさ!」

「オイオイオイ、こんな所でヒーローの出番なのかい!?」

 レミとカイルが口々に叫ぶ。

「地殻変動!? そんな馬鹿な、ここ500年近くそんなものは起きた事ないのに!」

 所長が青い顔をして呻いている。

 それもそのはず、ここハイマートでは地殻変動が起きる事は奇跡に等しいぐらい起きた事がないのだ。


 公式な記録では大規模な地殻変動が起きたのは約550年前、それでもここまで揺れるほどでは無かった。

「まずい! 早く発電機の運転を止めなければ! もしバルブが損壊したらこの部屋なんて吹き飛んでしまう!」

 青い顔で必死に手すりを掴みながら所長が誰とも無しに言った。


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