第3章 27幕 序曲
「どうやらクレンとフォーゴも終わったようですわね、どちらも無事では無さそうですわ。急がなければ!」
慌てて血溜りに倒れているクレンへと駆けよるイデア。
「我の体に流れたるイーグニスの血よ、それに導かれし精霊よ、神の祝福をもってこの者に癒しの恩恵を【クーア】」
イデアの掌からキラキラとした光がクレンの体を優しく包み込む。
シュウシュウと音を立てながらクレンの全身にある傷口に付着した血液が蒸発し赤い煙が立ち昇っていき、弾痕や裂傷の傷がゆっくりと塞がり始め、真っ青だった顔にも赤みが差し弱々しかった心音も力強く鼓動を打ち始めた
「むにゅぅ~、もうお腹いっぱいだよぅ……よきにはからえぇい……」
一体クレンはどんな夢を見ているのだろうか、想像に難しくは無いがイデアはあえて昔ながらの起床方法をとる。
「いつまで寝ているんですのっ! 学院に遅れてしまいましてよっ!」
「うぅ~ん……母さんもう少しだけぇ~」
寝ぼけながら答えるクレンの言葉を聞いてイデアの空気が変わった。
「クレン、私達はこんな所で寝ている場合では無いのです。おわかりですね? お分かりになられたのでしたらさっさと起きて下さいませ? でないと……」
イデアはそこで一度言葉を切ってからクレンの耳元へ口を近付け、
「斬り刻んだ後に燃やしますわよ?」
そっと、冷たく、思い切り殺意を込めて、言い放った。
「んふぃっ!」
変な声をあげてガバっと起き上がったクレンは慌てて立ち上がりイデアから距離を取る。
「ふー! ふー! い、イデア今何か凄い恐ろしい事言わなかった!?」
「私は何も? ただ起きて下さいませ。としか言っておりませんわ、ほらアウラも起きなさい」
気付けばアウラもクレンが倒れた同じ格好で寝ていたりする、血溜まりとなった床で。
「起きるですよー、クレン様が倒れちゃってヒマだったのですー」
言いながらふわふわと飛び上がりクレンの肩に止まるアウラ。
「やれやれ……この後はいよいよグランツとの決戦だ。さっさと行こうぜ」
いつの間にか後ろに来ていたフォーゴが二人を急かす。
「あらフォーゴ傷はもう宜しくて?」
カスチゴとの戦闘で負傷していたはずのフォーゴは平然としていた。
「あぁ、少し気絶してたみたいだが激痛で目が覚めてな、そんで自分で治療魔法使ったんだよ」
そこで言葉を切り、
「行くぜ」
「「「おーー」」」
完全に回復した一行はグランツの向かった先へ歩みを進める。
グランツの生成した闇の空間はもはや消え、この空間には燃え盛る台座と燃え盛る球体のみがあるだけだった。
台座の所まで歩きながらどこか扉は無いかと一行は辺りを見回してみるがどこにも扉は無かった。
どうやってグランツは消えたのだろうか。
やがて台座に近付くにつれて周りの温度が下がっていくのを一行は感じ取っていた。
燃え盛る炎なのだから近付けば熱くなっていくのが道理。
しかしなぜか一行は皆、急激に寒気を感じ始めたのだ。
台座の前の階段を半分上った所でイデアが苦しみの声を洩らした。
「申し訳ありません……私はこれ以上近付く事が出来ませんわ……」
最初に口を開いたのはイデアだった。
見れば霊体で寒さなど感じるはずの無いイデアがブルブルと震えていたのだった。
「この球体からは恐ろしい程の悪意、絶望、殺意、妬み、恨みが溢れています……これ以上は進んではいけませんわ……」
イデアのその言葉に一行が戸惑っていると、
「さすがはイデアと言った所か」
背後から声がした、忌々しいあの声が。
「それは遥か昔に封じられた邪龍の魂でな。そいつがこの俺の計画の心臓なのだよ」
振り向けばそこに居たのはやはりグランツ。
人が一人入るだろう大きさの袋を引き摺りながらこちらへ歩いてくる所だった。
「床に紋様があるだろう? それを越えてみるがいい、たちどころに魂を吸われ肉体を食われるぞ? ククク」
悪意のこもった笑い声を洩らしながらゆっくりとこちらへ歩み寄るグランツ。
「邪龍って……あの大聖堂にかかっていたあの絵の事だよね?」
クレンは大聖堂の大きな絵画を思い出しイデアに尋ねる。
「え、えぇ……まさか本当に存在するなんて思いませんでしたわ……」
身を震わせグランツから目を離さずにイデアが答えた。
「まさかあの闇の眷属共を退けるとはな……大したものだ。だが少し待つがいい、俺の計画を見せてやろう」
グランツは袋を引き摺りながら階段の下で歩みを止める。
そして袋の中に手を突っ込み、ひと束の鎖を引き出した。
そこには一人の人間がつながれていた、服はひどくボロボロになり、いたる所が裂けていた。
髪もグシャグシャで顔は下を向いており性別は分かりかねた。
ふとその人間が顔をあげた瞬間、
クレンが跳んだ。
腰につけたショートソードを抜き放ち、鬼のような形相で思いきりグランツへ振り下ろす!




