第3章 25幕 クイックステップ
「中々向こうも楽しそうじゃねぇか、なぁカスチゴさんよ」
じりじりと距離を詰めながら目の前の魔物へ語りかけるフォーゴ。
当のカスチゴは先ほどから微動だにせずフォーゴの出方を窺っていた。
「不用意に、飛び、込まぬ所を見ると、やはり慣れているな」
不動のままカスチゴは答えた。
「だが、それも、終わりだ。我が殺して、やろう」
その瞬間カスチゴの体が消えた。
ぞわり
背後に殺気を感じ咄嗟に前に飛ぶフォーゴ。
後ろにはカスチゴが腕を薙いだ状態で立っていた。
「よけ、たか」
言いながらまたも消えるカスチゴ。
「あんたはえぇな……」
フォーゴの額に冷たい汗が浮かぶ。
カスチゴは消えたのでは無く、目に見えない程速く移動したのだった。
「また後ろかっ!」
気配を感じ振り向きざまに剣を薙ぐ!
しかしそこに姿は無く、
「こちら、だ」
フォーゴの真横にカスチゴは立っていた、甲虫の頭をフォーゴの耳に近付け囁くように言った。
目の前にカスチゴの腕の一本が迫り来るのが見えた。
それを首の動きだけでなんとかかわし、上半身を捻りながらカスチゴの胸に拳を打ちつける。
「ぬぐっ! だが、まだ」
続けて同じ方向から残った腕から放たれる拳が迫りくる、その数ざっと五本。
長さがバラバラな腕の為距離感が掴みづらかった。
(チッこりゃ何発かもらうな……)
バック転の要領で後ろにのけ反りながらよけようと試みるがいかんせんこの至近距離、全て避けられるとは思わなかった。
ズドドッ!
「ぐふっっ!」
フォーゴが呻く。
脇腹に2発、頭に一発、そして腹部に2発。
カスチゴの拳が直撃したフォーゴは地面に叩き付けられた。
だがフォーゴもただでやられる訳が無く、拳が当たる瞬間カスチゴの首元へ蹴りを叩きこんでいた。
「直撃の瞬間、に我に蹴り、を、放ち、体を逃が、したか」
カスチゴは蹴られた首をコキコキと回す。
「あのまま喰らったら結構ヤバかったからなぁ、あんたの太い首を使わせてもらったぜ」
フォーゴは立ちあがりながらカスチゴと距離を取るために駆けだしていた。
地面に叩きつけられたダメージはあったが、それは大して響いていなかった。
動きは早いが肉弾戦であれば多少はついていけそうである。
そう判断したフォーゴは剣を構え直し、疾風迅雷、カスチゴ目がけて一気に距離を詰める。
「いくぜええええ!」
スピードをあげ懐まで詰め寄り勢いよく下から斜めに切りあげる!
だがカスチゴは体を半身動かしただけであっさりとその刃は躱された。
しかしフォーゴは振り抜いた反動を使い、弧を描きつつまたしても下から逆袈裟に切りあげた!
「ちぃっ!」
その刃はまたしてもかわされフォーゴは悔しそうに舌打ちする。
「その程、度か? だとし、たら、弱い、な。我の見込み、違いだったか」
フォーゴはその言葉には答えずに魔法の詠唱を始める。
それは対オルトロス戦でも使った肉体強化の魔法。
対するカスチゴはフォーゴの魔法に備え距離を取る。
その間にフォーゴの魔法が完成する。
「【ズィーグエレクトル】!」
フォーゴが術を発動させる!
体から火花を散らしフォーゴが笑う。
「今回は三割増しでいくぜ……【ドリッド】」
追強化の言葉でフォーゴの体から出る火花は細い電光と化しバチバチと音を立てていた。
「生憎いつまでも遊ばれてる俺じゃねぇんだ。いくぜ……」
「空気が、変わったな、ど、う来る」
カスチゴが身構える。
そしてフォーゴの体が消えた。
「つえぇぇぇい!」
一瞬でカスチゴの横に移動したフォーゴの剣が首に向かって振り下ろされる!




