第3章 23幕 ウィンナーワルツ
チュドドン! クレンの放った爆弾が魔物に炸裂する。
ギュォオォオォン!
間断無く投げ込まれる爆弾に魔物の体は相当のダメージを負っているように見えた。
両側の体は焼かれ、所々骨が露出し、左右四本ずつあった腕は千切れ、原形を留めていなかった。
「ひゅーボクとアウラ結構いいコンビだねっ」
「どんどん行くのですよー」
勢いに乗ったクレンとアウラは次々と魔物の体を焼いていく。
時折走る雷光ももはやクレンには脅威では無かった。
だが……
「!」
気配を感じ咄嗟に横に飛ぶクレン。
正面から来た何かがクレンの頬をかすめる。
頬を伝う一筋の血。
「あぶな……何が……?」
素早く周りを確認するが何もない、地面にも壁にも何も残っていない。
ヴュヴュヴュヴュ……
クレンの耳に突如羽音が聞こえ、魔物の方へ視線を戻す。
最後に放った爆弾による煙が晴れその姿が再び露わになる。
そこに居たのは先ほどとは違う魔物が佇んでいた。
大型の鳥の脚、灰色の毛に覆われた体、両肩からは大蛇が生え舌を鳴らし、その頭には無数の歯。
そして魔物の側には所々炭化した千切れた体が落ちていた。
「あの頭、真ん中に生えてたやつじゃん……!」
その光景は虫のそれによく似ていた。
「もしかして脱皮した?!」
だがそのクレンの言葉に答える者はおらず耳障りな音だけが聞こえてきていた。
「クレン様―あいつの周り黒い点々がいっぱいですー」
アウラの声にクレンは魔物の周りに目を向ける。
その体から少し離れた周囲に確かに黒い物体が浮遊している。
その瞬間、
ヴヴヴヴヴュン!
周りに浮いていたその物体が数発、クレン目がけて突き進んできた。
「うわっ!」
反射的にまたも横に飛ぶクレン。
先ほどクレンの頬をかすめたのはこれだったのだ。
続けてまたも数発撃ちだされる物体、それはまさに弾丸だった。
次々と打ち出される弾丸をかろうじてかわしていくクレンだったが、その顔には数本の血の筋が出来ていた。
垂れてくる血を手でぬぐい、かすめた傷をなぞる。
「……くそぅ、嫁入り前の学生の顔にこんな傷付けるなんて酷いやつだね」
クレンは軽口を叩きながら焦っていた。
あの弾丸のおかげでクレンは攻撃出来ずにいたからだ。
飛び来る軌道を読み、かろうじてかわしているが着弾するのも時間の問題だろう。
防戦一方では走り回っているクレンに不利である、いくらクレンに体力があると言ってもただ走る事と神経を研ぎ澄まして走るのでは訳が違う。
後者の方が格段に体力と気力をそぎ落としていく。
事実クレンは走るのを止め、飛び来る弾丸をかわす事だけに集中していた。
「くそう、くそう……どうすればいい? アウラは何か良い案ないかな?」
はぁ、はぁ、と肩で息をするクレン、そろそろ体力的にも気力的にも限界が近いのだろう。
「懐に入れればぴかーっと光ってお口にダイブ、と思ったですがあの人お口ないですので……この必殺の矢も効果が無いのですー」
ぽふ、と一本だけ炎の矢を出して投げる仕草をしてため息をつくアウラ。
「そっか……どっちにしてもここはボクとアウラだけで倒さないと駄目みたいだね」
離れた所で戦っているフォーゴとイデアを見る。
フォーゴは獣型の魔物を燃やして駆けている、イデアは一体の魔物と向き合ったまま、もう一体倒してしまったのだろうか。
「二人とも強いなぁ……ボクにもあんな力があればいいのにね」
クレンは敵対する魔物を見つめながらぽつりと呟いた。
その時出会ったばかりのイデアの言葉が脳裏によぎる。
『貴女はイーグニスの血を引いているのです……』
『魔法の本質はイーグニスの血より流れ出る魔力で精霊に働きかけるのです、その時使う魔法のイメージを強く意識しながら力ある言葉を術式に組み込む事により具現化、使役するのでございます』
『イーグニスの血に不可能は無いのですよ? えっへん』
クレンはニヤリと笑いながら目を閉じる。
「やって……みるしかないよね……」
手持ちの武器は残り2個となった爆弾、護身用にと渡されたショートソードのみ。
そして自分の体力も残り少ない事。
これらを踏まえクレンは走り出す。
そしてイデアとフォーゴの詠唱を一語一句分析しながら魔物との距離を取る。
緩急をつけ魔物を翻弄していくクレン。
間断なく打ち出される弾丸の中で致命傷になりそうな物だけを素早いステップでかわしながら魔物の元へ進む。
左手にはショートソードを抜き放ち、右手には爆弾が握られている。
クレンの脳裏にはオルトロスとの戦闘がフラッシュバックしていた。
そう、クレンはフォーゴの動きをトレースしていたのだ。
「カイルの体に出来てボクの体が出来ないはずが無い!」
そう叫ぶクレンだったがやはりフォーゴとは戦闘経験の差が出るのか、その体は打ち出される弾丸によって幾重にも傷が重なっていた。
身にまとったローブは所々裂かれ、ガントレットはひび割れていた。
だがそれでもクレンは止まらなかった。




