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第3章 21幕 スローフォックストロット

案外長くなってしまっているので 幕数をアラビア数字に直しました。

 イデアの前には二体の魔物が居た。

 だがどちらとも襲って来ようとはせず、ただ沈黙が続いていた。


 二体の風貌は例えるなら天使と悪魔。

 一体は銀色のシンプルな甲冑に身を包み長い槍を携え、背中には大きな羽が生えている。


 もう一体は本来頭があるべき所には小さな魚の頭が無数に生えており老人の様な体躯をし下半身は人間の足を持つムカデ、と言ったところだろうか。


 イデアはこの二体の出方を待っていたが何も仕掛けて来ず少々戸惑っていた。


「汝は何を望むのだ?」

 突然声が聞こえた。

 凛とした幼い声がイデアに問いかけていた。


 その声に思わず羽の魔物へ目を向ける。

 しかし、その魔物は私じゃない、と言う様に首を横に振り隣の魔物を指差した。


「汝は何を望み、どこへ行こうとしている?」

 慌てて隣の魔物を見ると再び声が聞こえた。


「私は……ただ平和を、誰もが笑い争う事の無い世界を望んでおりますわ。そしてまだ見ぬ明日へと」

 少しの沈黙の後、


「争いは人の世の常、それを覆したいと、そう言うのだな? 例えその身が滅ぶ事になろうとも明日を信じていると」


「さようでございます。小さな争いは憎しみを生み、憎しみは争いを育てる、それはやがて大きな争いへと花咲く事になりましょう、あわよくばここで争う事もしたくないのです。どうか退いては頂けませんでしょうか」


「我は魔将の一人マフカフ、あまねく審判を下す者なり。そして控えるはディミオス、処刑を取り行う者なり。答えよ、汝は争いの先に何を見るか」


 イデアの問いかけを無視し、厳しい口調でマフカフがイデアに問いかける。

 おそらくこの答えがマフカフの意に添わなければ戦闘が始まる。

 そんな雰囲気を感じ取りいつでも戦えるように気を引き締めるイデア。


 魔将がどれほど力を持った存在なのかは知らないが、強敵には間違い無い。

 横に控えるあの天使もどきもそれなりの力を持っているはず。


 全力で戦って勝てるかどうかわからない、だが負けるわけにはいかないのだ。

 自分の為クレンの為にも全力で当たるのみ。


「争いにある物、それは……」

 キッと歯を噛み締めイデアは答えた。


「争いの先にあるのは一割の人間の幸福と九割の人間の不幸ですわ! そこに平和などありはしない! 戦争など人の死で私腹を肥やす人間の自己満足でしかありませんわ!」


 イデアは関が切れたように叫んだ。

 己の国や死んでいった者達を思いながら涙を浮かべながら叫んでいた。

  

 グランツもこんな思いだったのだろうか、守っても人は争う、己が守る人間に嫌気が差したのだろうか。

 守っても意味が無いなら滅ぼしてしまえと。


 しかし今はそんな事を考えている時ではない、イデアの返答次第で次の一瞬が決まる、気を抜いては消されるのみ。

 幽体であるイデアには物理的な攻撃は一切通用しないが魔力のこもった攻撃はわけが違う。

 そもそも魔力で構成されている肉体である為、異質な魔力がぶつかり合えば摩耗していくのは自明の理。

 まばたきする余裕さえ無いかもしれない。


 沈黙が続く、ディミオスは目を閉じ、静かに立っている。


「裁きを伝えよう」

 沈黙を破りマフカフが答えた、その言葉にイデアは身を堅くする。


「汝の心の底には野心や妬み、復讐の意が見当たらない。我は汝の心の叫びと言葉に相違ないと判断する。よってここは汝の言葉通り退く事とする。意義があるのであれば申し立てよ」


「異議はありませんわ!」

 マフカフの審判に咄嗟に答えるイデア。


「これにて審判を終了とする、処刑の必要も無しとする。さがれディミオス」

 マフカフがそう告げるとディミオスはイデアへ深々とお辞儀をし背後の闇の中へと消えて行ったのだった。


「我は争いを好まぬ、この場に呼ばれたのも何かの手違いであろう。今、時は歪みに満ち満ちており魔の者も警戒しておる、汝も気をつけよ」


 マフカフが放った言葉にイデアはピクリと反応する。

「お待ちくださいマフカフ! 今、時空と仰いましたか!? 魔の者とは一体……?」


 時空とあればイデア達にも重要な事だ、何か得られるかも知れない。

 魔物と言えど会話が出来るのだ、聞き出せる事があるなら遠慮をしている場合ではない。

 もしかしたらレミの事も分かるかもしれない。


 イデアは必死に訴えマフカフを引き止める。


「魔の者とは闇に生きる眷族。人間の概念で言う悪魔と見て構わぬ、時に人間に力を貸し時に人間の負の感情を利用し力を高める。我らを呼び出した人間も、利用されたのか利用しているのか知らぬが……禍々しい悪意と憎しみに満ちておる、あやつはもう人の道には戻れぬであろうな。そして今、時は歪み世界は破滅への道を歩んでおる、この時代だけでは無い、このままでは過去、現在、未来、全ての歴史が解放されよう。さすればもはや破滅を待つのみよ」


 マフカフは話し終わると黙り込んだ。

 頭部が複数の魚の頭の為どこを見ているのかは定かではないが、その様子はイデアの反応を見ているとも取れた。


 闇の眷族とは……魔物とどう違うのだろうか、だがマフカフの話通り古来より人と魔の者は協力関係にあったのだろう。


 その関係は様々な文献に記載されており、悪魔の姿や呼び出すための儀式等の記載された文献もあったりする。

 だとすればグランツは悪魔と何らかの関わりを持っていると言う事なのだろうか。


 そして気になるのが時の歪み、これは時空の歪みを差しているとみて間違い無いだろう。

 だが世界が破滅するとは、全ての歴史を解放するとは一体どういう事なのだろうか。

 この現代にイーグニスや魔物が歴史から完全に抹消されている事と何か関係があるのだろうか。

 考えれば考えるほど疑問が増えてゆく。


 イデアは自分が考え込んでしまっている事に気付きハッとマフカフを見る。

 だが相変わらずどこを向いてるのか分からない為、イデアも反応に困ってしまった。


「マフカフよ、お聞きしたい事があるのですが、今しばらくお時間を頂戴してもよろしいでしょうか?」


 だがマフカフの反応は無い。

 これ以上の質問は受け付けないと言う事なのだろうか。


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