第3章 ⅩⅨ幕 戦いのワルツ
「グランツ……なのですか?」
聞きながらイデアはゆっくりと後ろに下がる。
「まさかとは思うがてめぇもあの時……?」
フォーゴがイデアをかばうように動きながら問いかける。
「もはや演技は不要だろう……久しいな、フォーゴにイデアリーベよ」
今までとは違う声がその口から聞こえた。
「ほう、俺が分かるか。グランツの旦那ぁ……」
「無論だ、貴様のその宿主から漏れる魔力が貴様だという事を証明している。そしてイデアの宿主と、どうやったかは知らぬが幽体となったイデア。まさかまたこうしてまみえる事が出来ようとは天の采配か」
「言いてぇ事はそれだけか? 裏切り者が……」
そう言ったフォーゴは今にも切りかかりそうな勢いだった。
クレンにあの夢がフラッシュバックする。
イデアとフォーゴが倒れたあの瞬間に似ている。
「裏切ったのではない、分かったのだよ。今まで守って来た物がすべて意味の無い物だったという事がな。人間など守る価値も無い下らない矮小な生き物にしか過ぎんのだ。自らの事しか考えず、欲しければ力ずくで奪い、他人の事など考えない、語ればキリが無い程に人間という物はゴミだ。だから捨てたのだよ」
グランツはそこで一度言葉を切り、そして続けた。
「だが今は貴様らとそんな昔話をしている場合ではないのだ。少し予定が狂ってしまったがもうすぐ、もうすぐで俺の計画は最終段階に入る。誰にも邪魔はさせん!」
言い終わるとグランツは静かに手を腰に掛け剣をぬく動作をする。
すると手の先から黒い何かが噴き出しその形を変えていったのだ。
そしてそれが収まると、グランツの手には夢でみたあの大剣が握られていたのだ。
「邪魔をすると言うのなら……再び殺してやろう……」
その言葉と共にグランツの体から真っ黒なもやが発生し、あたりを覆う。
それは……言うなれば闇そのものだった。
「お待ちくださいグランツ! 計画とは何なのです! どうして貴方がここに居るのです!」
その言葉には答えずグランツはくるりと後ろを向き階段の方へと歩き出した。
だがグランツはふと足を止め、
「教えてやらんでもないが……その前にその者共に殺されなければ、の話だ。俺は準備があるのでな、その者共を超え再び死にたければ再び相手をしてやろう」
そう言うとグランツは再び階段へと向かって行った。
「待てよてめぇ!」
フォーゴが後を追おうとした時、
「お待ちなさいフォーゴ! どうやら本当に行かせて頂けないようですわ……」
イデアは闇の中を見つめながらフォーゴを制止する。
「アウラ……一緒に頑張ってくれる……?」
クレンも闇を見つめながら耳元にいるアウラへ問いかける。
「もちろんなのですよ、だってクレンはトモダチじゃないですか」
ありがとう、とクレンは一人呟く。
(とてつもなく怖い、逃げ出してしまいたいぐらい怖い、けどここまで来て逃げたら今までの事が全部無駄になる。だから……)
「もう、ボクは逃げないよ」
クレンは決意した眼差しでスゥッと小さく息を吸い込み身構える。
「なんでこんな事になってるのかさっぱりわからねぇぜ。だが因縁の相手にもういっぺん出会えたんだ、ここですごすごと帰るわけにゃあ行かねぇよなぁ」
フォーゴはヒュンヒュンと軽やかに剣を振り回すと正面に構えた。
「私は何の意味があってこの時代に飛ばされ、再びグランツと邂逅し、フォーゴと共に闘うのか、その答えは恐らくこの先にある事でしょう。グランツには聞きたい事が山ほどあるのですわ、ですからこの者達にはご退場願いましょう【フランメ・シュヴェーアト・ペンタグラム】」
イデアが魔法を発動するとその体を中心に炎が舞い五芒星を描き出し、その周囲に波打つ刀身の5本の大剣が炎を纏いながらクルクルと踊っていた。
それぞれが見つめる闇の中から異形の魔物達が姿を現した。
その数およそ六体、どれも醜悪で凶悪そうな魔物だった。
ガギャュ! ゲゲゲゲ! ヴィィィィ!
耳を塞ぎたくなるような鳴き声を上げながらこちらへ襲いかかって来た。
「行くぜ嬢ちゃん! イデア! 魔物共と舞踏会としゃれこもうぜぇぇ!」
フォーゴの声が戦いの合図となった、弾かれたように左右に散るフォーゴとクレン。
ミュィァィアァァ! と声を上げ魔物の一体がクレンへと雷光を放つ。
「おっひょお危ないって!」
その雷光をとっさにかわし袋の中に手を突っ込む。
「アウラ!オルトロスの時と同じようにやるよ!」
耳元にいたアウラはその指示でクレンから離れ、数十本の炎の矢を生成する。
「いつでもいいのですよー」
アウラが答える。
「いっくよおお! まずはふたつ!」
クレンは掴んだ爆弾を魔物目がけて投げつける。
そして続くアウラの矢。
キュドドッ!
二つとも見事に命中し魔物の皮膚を焼く。
ミュァァィィィ!
爆発に呑まれた魔物が怒りの声をあげてさらに雷光を打ち出してきた!
「こりゃ止まってたら焼かれちゃうな!」
クレンは次々に走る雷光を避け、反時計回りに動きながらふと魔族を見る。
その姿を見たクレンは一瞬足をもつれさせる。
魔族の形は人の形をしていた。
だがそれは……頭から腰まで縦半分にちぎれておりそのちぎれた中からさらに人の体が出ていた。
頭は無数の歯で覆われており目や鼻、口などは見当たらない、ちぎれた体には左右それぞれ四本づつ腕が生えており足が六本生えクモのように動いていた。
「きんもちわるいなぁ……魔物ってのはみんなあーゆうのばっかりなのかな」
クレンはぼやきながら魔物の足に向かって爆弾を一つ投げつける。
チュドォン!と命中し魔物は足をぐらつかせる。
「今度はよっつ!」
続けて四個の爆弾を反対側の足目がけて時間差で投げ込んで行く。
チュドドン! チュドドン!
連続で爆発音が響く。
ミュュィィキィァァア!
少しづつだが確実にダメージを与えていくクレン、だが決定打にはなっていなかった。
「攻撃手段が爆弾だけってのもなぁ、とは言ってもボク剣なんて使えないし……」
(使ってみるか……)
一瞬浮かんだその考えをクレンは否定する。
もし使って死んでしまったら意味がない、それこそ蛮勇というものだ。
ドドン! ドドン!
一定のリズムで魔物の足に向けて爆弾を投げ続けるクレン。
もうもうと舞う煙の中から雷光が走る。
二度、三度とステップを使いながらそれをかわしてゆく。
クレンの集中砲火によって六本の足のうち右側の足は弾けたりひしゃげたりと使い物にならなそうだった。
「アウラ、そろそろ狙いを変えるよ!」
「あいあいさーなのですよー」
クレンは狙いを変えて今度は破れた左側へ集中砲火を始めた。




