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第3章 ⅩⅧ幕 随伴した先には

 だがミルメコレオは小さく唸るだけで襲って来ると言う事は無さそうだった。


「あなたは一体何を伝えようとしているのですか?! 私達にどうしろと言うのですか?!」

 一番最初に口を開いたのはイデアだった。

 凛とした声で喋っているもののその声は震えていた。


 クレンとフォーゴはその様子をじっと見守っていたのだった。

 少しの沈黙が続いた。


 しかしミルメコレオはその問いに答える事無く踵を返し、またゆっくりと歩みを進めるのだった。


「やはり……みなさんついて行きましょう!」

 イデアが自信に満ちた声で言った。


「仕方ねぇな、王女様の意見に従いましょうかね」

 やれやれ、肩をすくめイデアの意に賛同するフォーゴ。


「ぼ、ボクはレミさえ見つかればそれでいいからイデアに任せるよ!」

 どうしたらいいか決めかねているクレンだったがフォーゴの言葉に押され同じく賛同したのだった。

 アウラはと言うと何も言わず、ただ空中に漂っているだけだった。


「……では……」

 ゆっくりとミルメコレオに続くように三人と一匹は進んで行った。

 ミルメコレオは時折、皆が付いて来ているのを確かめるかのように後ろを振り返りつつ徐々にその歩みの速度を上げていったのだった。


 魔物に先導されて歩くという異様な光景だからだろうか、誰一人言葉を発せずにいた。

 道中魔物と遭遇した事はあったがミルメコレオが大抵蹴散らしてしまったので特にやる事も無く、ミルメコレオの鎌のような爪と牙に恐怖を感じるのみだった。


 そうして一行はやがて大きな門のような場所へと辿り着いた。

 ミルメコレオは門の横に移動し、その場に伏せたのだった。


「どうやらここが目的の場所らしいな……」

 周囲を見渡しながらフォーゴが言った。


 今までクレンが見てきた木製の扉では無く重厚な金属の扉がそこにあった。

 周りは土に埋もれており、ここがこの神殿の最深部のようだった。

 扉にはおびただしい数のお札が貼られており、周りの壁と床にはぎっしりと古代のものだろう文字と紋様が刻まれていた。


「これ……開けなきゃ駄目なの……?」

 その光景に圧倒されたクレンが怯えながらイデアへ尋ねる。


「ここに連れて来たという事はこの扉を開けろという事に相違ないと思いますわ。けれど……

 この床と壁に描かれているのは封印の為の魔法陣です、しかしここまで厳重なものは見た事がありませんがどうやら既に破られているようですわ」

 イデアは呻くように答えた。


「ここまで来たんだ。開けちまえよ、悪魔が出るか神が出るか、絶望か希望か。どっちかしかねぇんだ」

 フォーゴはクレンを促しながら己の剣へと手をかけた。


「うぅー……そんなに言うならフォーゴが開ければ良いのに……」

 クレンはフォーゴに言いながら扉の取っ手を握りしめた。


「心配しなくても自分がいるですー」

 耳元にはアウラが居た、アウラはその小さな手でクレンの耳をそっと握っていた。


「ありがとアウラ。だけど怖いよー怖いよー……でも開けないと先に進めないし……もおおお! 分かったよ!」


 覚悟を決めたクレンは目を堅く閉じた後、大きく息を吸い込み、


「うぉおっるぁあああああ」


 フォーゴの真似をしながら勢いよく扉を開け放つクレン。

 扉を開け目を閉じたまま中に飛び込む、そしてその後に続くフォーゴとイデア。


「なっ、何だよここは……」

「こんな事有り得るのでしょうか……」

 飛び込んだイデアとフォーゴが口々に驚きの声を上げる。

 それを聞いてクレンもゆっくりと目をあける。


 そこは大きな広場だった。

 一つ違うのは辺り一面真っ白の空間が広がっていたという事だろう。

 

 広場の奥には階段があり、その先には燃え盛る台座があり、その上に大きさは定かではないが同じく燃え盛る球体が浮遊していた。

 それ以外、何も無かった。


「やぁ、よく来てくれましたね」

 突如響く男の声。

 三人はその声の主を探して部屋を見渡した。


「こちらですよ、初めまして」

 いつのまに現れたのかその声の主は階段の下に立っていた。


 男は小奇麗なビジネススーツに身を包み、真っ黒なマントを羽織っていた。

「どうもどうも、お久しぶり、のほうがいいでしょうかね?」


 よく分からない事を言いながらその男はこちらへ歩いてきた。

 部屋の中間にその男が辿り着いた時、その顔を見たクレンは驚きを隠せなかった。

 甘いマスクに肩まであるストレートの茶髪、そして憎たらしい程の爽やかな笑顔。

 そう、そこにいたのはアルトゥール発電所の所長だった。


「誰だてめぇは」

 抜き身の剣を突き付けフォーゴが問う。


「おやおや、一回お会いしているのに随分とひどいじゃないですか」

 笑顔を崩さぬまま所長は言った。


「では改めて自己紹介をさせて頂きましょうか。ここアルトゥール発電所所長を務めさせて頂いております、グスタフ・シュトラールと申します。以後お見知りおきを」


「シュトラールですって!?」

 イデアが突然声を上げた。


「そうかい……シュトラールねぇ、あんたまさか……」

 続いてフォーゴが唸る様にその名を口にする。


「何々? どうしてそんなに所長さんの名前で……」

 そこまで口に出してからクレンは思い出した。


(そうだ……確か夢で……あの人の名前が出てきてた……)

 

 そう、その名は。


「グランツ……シュトラール……」

 フルネームを思い出したクレンが呟く。


(初めて名前を聞いた時に引っ掛かっていたのはこれだったのか、どうして思い出さなかったんだろう……)


「そちらのお二人は下の方でお会いしましたね。ですがそこの幽霊さんは……何千年ぶりだろうか……イデアリーベ・シュテイレ王女……」


 その顔にはそれまでの笑顔とは打って変わって残酷な微笑みが張り付いていた。


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