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第3章 ⅩⅥ幕 魔獣再来

 ギャオオオォォオ……

 爆発の衝撃と炎の矢の雨に雄たけびをあげ怯むオルトロス。

 次々と起こる爆発でもうもうと土煙が立ち込める。


「ひゅーやるじゃねぇか嬢ちゃん。だがこれで時間は稼げる! 次で最後だぜオルちゃんよ」

 フォーゴの体が光を帯びる。


「我が仕えしイーグニスの精霊よ、我の持つ剣に宿りて無慈悲なる冷徹さを持て、そして斬り伏せた邪なるモノに氷の祝福を。【アイスシュヴェーアト】! そして我の肉体に電光の導きを【ズィーグエレクトル】」

 フォーゴの持つ剣が青白く輝き出し、フォーゴの肉体の周囲からはパチパチと小さな火花が音を立てて弾けていた。


 ギャオォォォオ!

 オルトロスがひと際大きい吠え声をあげた。


 その瞬間、未だ舞う土煙の向こうから炎の帯と青白いつぶてがバラバラな方向へ撃ち放たれた。


「うっひっぃぃい」

 その炎の帯がクレンのすぐ横を薙いだ。

 チリチリと肌が焼ける感覚がする、いくらこのローブに魔法耐性があると言ってもあんな炎の直撃を受けたら一瞬で燃え尽きるんじゃないだろうか。

 足をもつれさせながらイデアの光の壁に隠れてクレンはそう感じ取っていた。


「ぐぅっ……こう次々と攻撃されては少し辛い所がありますわねっ……」

 前から横から、時には同時にオルトロスの放つ攻撃を浴びて光の壁を維持するイデアに焦りの色が見て取れた。


「オルちゃんめ、煙でこっちが分からないからって滅茶苦茶にぶっ放しやがって」

 オルトロスの吐く炎とつぶてをひょいひょいとかわしながらフォーゴは苛立っていた。

 だがオルトロスの滅茶苦茶な全方位攻撃によって段々と土煙が晴れて攻撃も緩慢なものとなって来ていた。


「これなら……行けるぜぇっ!」

 気合の咆哮と共にフォーゴが力を溜めて駆けた。


 まるで閃光。

 

 地を蹴った瞬間、一筋の青白い光りを残しフォーゴの姿は消えていた。

 僅かに残った土煙の中で光の明滅が続き、やっと土煙が晴れるとそこには背中の触手と双頭の首、尻尾の大蛇が切り落とされたオルトロスと、その向こうで剣をぶら下げ肩で息をするフォーゴの姿があった。


「まだですフォーゴ! 体を割らなければ!」

 イデアが必死に叫ぶ。


「いいんだ、終わったぜ。ほれ……」

 フォーゴがオルトロスの体を蹴る。


 蹴られたオルトロスの体はゆっくりと地面に倒れていった。

 その体が地面へ完全に付いた時、カシャンと言う音と共にオルトロスの体が血を噴き出す事無く細切 れになって砕け散ったのだった。


「ぐはっ、さすがにこの肉体強化の魔法を使うとしんどいぜ……」

 ドサッと壁によりかかりそのままズルズルと床に座り込むフォーゴ。


「よくぞ打ち取ってくれましたね、ありがとうございます」

 光の壁を解き安堵した表情でフォーゴへ近づくイデア。


「でも最後凄かったねぇ! バチバチーって見えないんだもん」

 今の戦闘の感想を述べながらイデアと共に歩みよるクレン。


「アウラも頑張ったのですよー」

 二人の前をふわりふわりと行ったり来たりしながらアウラが言った。


「うん、頑張ったね。ありがとう、凄かったよ?」

 クレンに体を突かれながら褒められ照れるようにフォーゴの元へ先に飛んで行くアウラ。

「フォーゴおめでとうなのですよー」

「んぉ? なんだチビ助かい。ありがとうよ」


 フォーゴのまわりをクルクルと飛びまわるアウラを横目でみながらクレンは細切れになったオルトロスを見ていた。

 まじまじと死体を見るクレン。

 そしてはっと小さく声をあげる。

 細切れにされたその切り口はなんと全て凍りついていたのだった。


「良い感じに凍ってるだろ? 始めは肉体強化の魔法で細切れにしてやろうと思ったんだがな、そこから再生されてもめんどくさいんで凍ってもらったのさ」

 よっこいしょ、と言いながら立ち上がり歩み寄るフォーゴ。

 

(なるほど、だから血が出なかったのか)

 フォーゴは騎士団の副団長、それでこの強さだ。


 騎士団長というグランツは一体どれほどの強さを持つというのだろうか、まるで想像が出来ない。


「どうやらゆっくりお話させてくれる訳にはいかなそうだぜ……」

 フォーゴが突然不吉な事を言う。


「お友達のお出ましだ」

 あっちだ、と顎でクレンの後ろを示す。


 カサカサ……カサカサ……


 後ろから聞こえてくる嫌な音にクレンの体が強張る。


「この騒ぎを聞きつけて戻って来てしまいましたのね……」

 その足音の主を見据えながらイデアは誰に言うともなしに呟く。

 そして足音が止まり、


 グルルルル…


 大型の肉食獣の低い唸り声が響く。


 クレンはゆっくりと頭を後ろへと動かしながら無意識の内に腰に付けているショートソードへと手をかけていた。


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