第3章 ⅩⅤ幕 その名はオルトロス
ヒタ……ヒタ……震える首を揺らしながら切り落とされた己の首を跨ぎこちらへゆっくりと近づいてくるオルトロス。
その光景はかなり異様だった。
近付いてくるたびに首の切断面が少しずつ盛り上がっていく。
やがて……
ぐじゅぐじゅぐじゅ、とくぐもった音を立てオルトロスの頭が再生したのだ。
「うっげぇ……グロいよぉお……」
込み上げる吐き気を必死にこらえてクレンが呻く。
「へっ……そう来なくちゃつまんねぇよ……なぁっ!」
これ以上進ませない為、フォーゴがオルトロスに向かって駆ける!
ルォォォオオン!
先ほどと同じつぶてが生まれ今度はフォーゴに向かって突き進む!
「……ヒュウッ!」
フォーゴは鋭い呼気を発しながら次々とつぶてをはたき落していく。
全てを叩き落そうとはせず二つ三つ落すと、素早いステップで致命傷になりそうな物だけを確実によけて距離を詰めていく。
「……凄いや……」
「あの身のこなし、あれはカイルの肉体だからあそこまで力を引き出せるのですよ」
思わずクレンが見とれていると光の壁を維持したままイデアが言った。
「どういう事?」
「クレンは日頃から、レミさん、カイル、三人で早朝の鍛錬に励んでいると仰っておりましたよね。お言葉通りクレンの身体能力は素晴らしい物があります、ならばそれと同程度の……いえ、カイルは男性ゆえクレン以上の身体能力が備わっている事とお見受けします。それがあるからこそフォーゴの力が存分に引き出せるのですわ」
イデアはそう言うとちらり、とクレンを見て微笑んだのだった。
「ふふっ……鍛錬なんかじゃないけど……カイルは遅刻同盟の自称ヒーローだからね」
うんざりするほど聞いていたカイルのセリフが胸の中で反芻する。
あの時までは何を言っているんだと呆れていたが今は違う、戦っているのがフォーゴだとしてもその肉体はクレン達を助けてくれている。
「こんのっ……おぉい! こいつ切っても切っても再生しちまってきりが無ぇぞ!」
フォーゴが叫ぶ。
至近距離では魔法を使いたくないのか背中の触手と尻尾の大蛇、二つの牙で応戦しているオルトロスだった。
「オルトロスは全ての頭を切り落とし胴体を割れば息絶えるはずです! 頑張ってください!」
知識の限りを持ってフォーゴに激励を送るイデア。
「けっ……簡単に言ってくれるぜぇ……なぁオルちゃんよ?」
軽口を叩きながらも多勢に無勢、フォーゴは防戦を余儀なくされていたのだった。
「俺だけじゃ対処しきれねぇ! 嬢ちゃんでも誰でもいいからこいつの動きを一瞬止めちゃくれねぇかい!」
フォーゴが触手の攻撃をさばきながら叫んだ。
「アウラ行ける?」
顔の横でふわふわしているアウラへ聞いてみるクレン。
「む、無理ですよぉう。あんなにいっぱいお口があったらアウラブリッツをする前に噛み千切られちゃうのですよぉ……」
言いながら首を横に激しく振るアウラ。
「だよねーじゃあボクが頑張るしかないか……」
ごそごそと袋に手を突っ込み掌いっぱいの爆弾を掴み取るクレン。
「ボクがこの爆弾をオルトロスに投げつけるからアウラは炎の矢で爆弾を打ち抜いてくれないかな?」
「それくらいならお安いご用なのですよ!」
ふんっ! と腕を組み答えるアウラ。
「じゃあボクが合図したらお願い、いくよ……フォーゴ下がって!」
その声に反応しまたも後ろへ大きく跳躍するフォーゴ。
同時にクレンは掌の爆弾をまとめて投げつけた。
「もういっちょおおおお!」
再度袋から爆弾を掴み取り投げつける。
バラバラとオルトロスの周りに爆弾がまき散らされる。
「アウラお願いっ!」
「はいですー【ファイヤープファイル】!」
アウラが予定通り魔法を発動させる!
数十本の炎の矢は一斉にオルトロスの周りに散らばる爆弾へ降り注いでいった。
チュドン! チュドドン! チュドドドドドドドドドドド!!
炎の矢に居抜かれた爆弾は小さな爆発を次々と起こしていった。




