第3章 Ⅹ幕 記憶の補足
「そういう事ですか、ならばまだしばらくは消えないでしょう。これも私の勘ですけれどね」
ウフフフと笑いながらフォーゴに近寄る。
「よくぞ……よくぞまた私の元へ戻ってきて頂けましたね。感謝いたします、イーグニス近衛騎士団副団長、フォーゴ・アーベント殿」
ふとクレンはイデアの顔を見る。
イデアは笑いながら泣いていた。
今思えばイデアも一人だったのだ。
知らない時代にたった一人、これほど不安な事はないだろう。
それなのにクレンをここまで支えてくれた。
クレンは自分の事ばかり考えていた己を恥じた。
(よかったねイデア、そして本当にありがとう)
「でも……」
そうは思ったがクレンには言いたい事があった。
「話の腰をぶち折って悪いんだけどね? カイルは何で記憶が戻ったの? なんで今の今まで出て来なかったの?」
クレンが一番聞きたかったのはそこだった。
記憶が戻ったのならば教えてくれてもいいはずだ。
なのに人が死にかけてから登場とは一体どういう事なのか。
大体の理由は予測できたが。
「んぉ? あぁ、それはだな。記憶が戻ったのは嬢ちゃんが部屋を出てしばらくしてからだ。こいつが仲間達とひそひそ話していた所に嬢ちゃんの叫びが聞こえて来た。そんでこいつに散々呼びかけて話をしていたら突如思い出したみたいでな。慌てて飛び出していったんだよ。だが……」
そこでフォーゴは固まり、数秒の後また口を開いた。
「その先はこの俺が説明させてもらおうかなぁ! ふふふふクレン、何度も言うようだけどヒーロとは……」
少しの間が空いた後。
「「遅れて登場するものだ、だから俺は常に……」」
「でしょ? そんな所だと思ったよ。馬鹿じゃないの? 人が死にかけてるのにギリギリまで手助けもしないなんてさ!」
クレンはカイルと声を揃えてお決まりのセリフを言った後、やっぱり、といった顔でカイルを見る。
「て言うかいきなり変わらないでくれるかな? 混乱してくる……」
イデアもクレンもカイルとフォーゴの判別はつく、しかしいきなり変わられるとこちら側としては少し困る。
「実はだね、フォーゴの話を聞いた時は頭がおかしくなったんじゃないかと思ったのさ、聞きたくないのに頭の中に響いてくるんだからね。でもクレンの言葉が頭に浮かんだと思ったらどんどんクレンやレミの記憶がフラッシュバックして来てね。それで急いで追いかけたんだけど中々見つからなくて、やっと見つけた時は外に居た、と言う訳なのさっ」
ふふんっと鼻を鳴らしながらカイルは言った。
(あぁ、そう言えばボク部屋から出て迷っちゃったんだっけ、道理で出くわさなかった訳だ)
「う、べ別に迷ってたとかそういう事は無いよ?」
聞かれても無いのにいらない事を言うクレンだった。
「迷っていたのですね」
「迷子さんなのですよー」
「いい年して迷子とはクレンもお茶目な所があるじゃないか?」
それを聞いたイデア、カイル、アウラが口々にその事実を口にする。
あぅ、と小さく声を漏らしうつむくクレンを見ながらカイルは続けた。
「クレンの後をつけるのはとても簡単だったよ、何せ騒がしかったから。しかし魔法と言うのは凄いね、この目で初めて見た時は腰を抜かしたよ。でもクレン達が引き返して来た時は焦ったなぁ、何せ隠れる所が無いんだもの」
カイルはうんうんと思い出に浸るように腕を組みながら話し続ける。
「でも問題はそこからでね、慌てて俺も引き返したらいきなり違う場所に出るんだからまいったよ。途方に暮れていると魔物の登場だ、それからはフォーゴの切ったはったの大活躍だったよ。そうして魔物の相手をしながらしばらく逃げているとクレン達を見つけたと言う訳さ」
やれやれ、と首を振りながら肩をすくめるカイルだった。
「そうだったのかぁ……カイルも大変だったんだね」
まるで武勇伝を語る様に自慢げに話すカイルを見ながらクレンが言った。
よく見るとカイルの制服は所々破れ、細かい傷が出来ていた。
「フォーゴとカイルは体を共有出来るの?」
クレンは今までの話を聞いたうえで気になる事をカイルに聞いてみた。
「そうさ! 素晴らしい事だろう? 意識をスイッチするって感覚なんだけど……でも片方の意識もはっきりしてるんだ、会話も出来るし見る事も聞く事も出来る。僅かながら魔法も使えるんだ! これでますますヒーローへ近づいたのさっ!」
(うぅんなんだか言い方が子供だなぁ)
カイルの言葉を聞きながらクレンはそんな事を思っていた。
「じゃあしばらくフォーゴと入れ替わるからヨロシクー」
それだけ言い放つとカイルはさっさと入れ替わってしまっていた。




