第3章 Ⅵ幕 最悪の出会い
ゥォォオオオン……
すぐ近くで獣の吠える声が響いた。
その声に二人はビクリと体を強張らせた。
「ねぇ、イデア、嫌な予感しない?」
「ぐ、偶然ですわね。私もちょうどそう言おうと思っておりましたのよ」
吠え声と共に聞こえてくる蹄の音。
それはすぐそこまで近づいて来ていた。
「「戦略的撤退ぃい」」
二人同時に逃げる事を選び真っ直ぐに走り出した。
なんだか分らないがとりあえず悪い事が起きている。
しかし先ほどから走りっぱなしである、毎朝遅刻遅刻と走り込んで付いたスタミナがこんな所で発揮されるとは人生分からないものだ。
そんな呑気な事を考えながらクレンは通路を駆け抜けていった。
ドカァン!
石が砕ける音がした。
クレンが走りながら後ろを振り向くとそこには牛の頭をした人間が巨大な斧を持ち追いかけて来ていたのだ!
ブモォォォォオオ! と鳴き声を上げながらこちらに向かって来る牛人間。
大きさはクレンの倍はあろうかという巨体、そして蹄のついた牛の脚。。
「あ、あれえええさっきの大聖堂で見た絵だよおおおおおお!」
さらにスピードをあげながらクレンは叫んだ。
「あれは……ミノタウロス! あの魔物はとても力が強くあの斧で攻撃されたらひとたまりもありません! それにあやつは人間を喰らうのです!」
律儀に説明をしてくれるイデア。
「そんなの見ればわかるよおおお! なんでそんな魔物がこの現代にいるわけえええ」
あれは間違いなく死そのもの、そして少しずつだが距離が縮まってきている。
「まかせてくださいなのですよー!やっと自分の見せ場ですー」
後ろに付いていたアウラが叫ぶ。
「【ファイヤープファイル】!」
アウラが魔法を発動させる!
数十の炎の矢がアウラの周りに出現しミノタウロスめがけて降り注ぐ!
シュドドドドドッ!
炎の矢をまともに受けたミノタウロスはその場で止まっていた。
「凄いじゃないアウラ!」
それを見たクレンは走るのを止めてアウラに賞賛を送る。
「そ、そんな事無いのですよーえへへ」
謙遜しながら照れるアウラ。
「でもさー……何でこんなのが出てくるんだろ……」
ミノタウロスをよく見ようとクレンが近付いて行く。
「いけませんクレン! まだ倒れておりません、生きていますよ!」
もうもうと煙をあげているミノタウロスに歩み寄るクレンにイデアは叫んだ。
「え……」
うっすらと煙が晴れてゆきその煙の向こうにあった物は傷一つないミノタウロスの顔だった。
「ひぎゃああああああああああ」
ブモォォォォォ!
声を合わせたように叫び声と鳴き声を響かせる両者。
ミノタウロスはポンポンと顔に付いたススを振り払うような仕草をして笑った。
ようにクレンは見えた。
足が固まって動けないでいたクレンに、
「逃げてクレン!」
イデアが叫んだ、魔法を唱えている時間は無い。
そして幽体であるイデアは手を引いてあげる事すら出来なかった。
当のミノタウロスは手にしていた斧を振り上げてクレンを叩き割ろうとしていた。
「し、死ぬううううう」
イデアの声に反応し、急いで反転、ロケットダッシュを決め逃げるクレン!
オオオオオオオオ!
咆哮を上げながら斧を振り下ろしクレンのいた地面を叩き割る!
間一髪だった。
飛び出すのが後数秒遅れていたら真っ二つどころかミンチにされていただろう。
だが安心したのもつかの間だった。
斧が叩き割った地面の破片がクレンの背中を直撃したのだ。
「かっ……は……っ!」
「クレン!」
破片と言えどクレンの頭程はあった。
前のめりに倒れこむクレン。
「今倒れたら確実に殺されます! 踏ん張るのです!」
(――死……? 死ぬの? レミを置いて?)
出来るわけがない。
「ここで……死ねるかああああああ」
倒れこみつつも足を踏ん張り手を地面に付き再び走り出すクレン。
そうしている間にアウラがミノタウロスに突っ込んで行った。
「アウラ! 何をするつもりなのですか!」
イデアが叫んだ。
アウラとミノタウロスでは死にに行くようなものだ。




