第3章 Ⅱ幕 転移
――――かくて一行はまた元の場所へと……
戻れなかった。
「いいいいいいいでえええええああああああああ!」
笑顔と半泣きの顔を左右に浮かべながらクレンはイデアへ詰め寄った。
「あ……あれー……えへへへへ……」
詰め寄られたイデアも珍しく顔を引きつらせていた。
「絶対に戻るはずなのですけれども……」
そこは元に戻るはずの場所とは違う空間だった。
陰鬱とした空気は無くなり、爽やかな風が流れていた。
そして何より天井付近の柱の間から空が見えるのだ。
星と月が照らす夜の空が。
「ここどこなんだろう、ボク達地下深くにいたのにねー」
そうは言ってもあの陰鬱とした空気の中にいるよりはこちらの方が断然良かった。
「アウラ、少し外からこちらを見てきてくださる?」
ふわふわと周りを飛んでいたアウラに向かって命令する。
「わかりましたですー、しばしお待ちくだされませー」
めちゃくちゃな敬語を使いつつ、柱の間を抜け外へとアウラは飛んで行った。
「んー空気がおいしいっ」
外の空気を吸ってリラックスしたのかクレンが背伸びをしながら言った。
「しかしここはどこなのでしょう。もしかするとあの結界も長い間放置されていたせいで空間に歪みが出来てしまった、とかでしょうか……」
冗談では無い、そうだとしたらあそこから一生出られなくなっていた可能性だってあるのだ。
クレンの背中を冷たい汗が通り抜ける。
その言葉を最後にしばし沈黙が続き、2人は黙って夜の空を眺めていた。
「アウラ戻りました! ですー」
しばらくして外の探索を終えたアウラが戻ってきた。
「どうだったー?」
クレンが尋ねる。
「はいですー、外から見るとどうやらこの先は山の中に埋まっているです。ここから数十メートルといった所ですー」
「それだけでは情報が少ないですわ、もう少し詳しく見てきて頂けないかしら」
そう伝えるとアウラは「はいですー」とまたしても夜空へと飛んで行った。
「どう思うイデア」
夜空を見上げながらクレンはイデアに問いかけた。
「わかりませんわ……こうなったら壁に穴でもあけさせて頂こうかしら」
途端に物騒な事をいいだすイデア。
「それは最終手段として取っといてください……」
いきなりの返答にクレンは戸惑っていた。
その時だった。
……ュォォオオオン……オオン……
「あぅっ」
(また……?!)
しばらく感じていなかった違和感がまた襲ってきた。
だがもう違和感と呼べるモノでは無くなってきていた。
いわゆる悪寒、全身に鳥肌が立ち、えも知れぬ感覚に体中が包まれる。
それはクレンだけではなくイデアも感じているようだった。
イデアはその端正な顔立ちを歪めていた。
「今の感じたよね…………? 一体何なの……」
クレンは両手で自らを抱きながらイデアに問いかける。
「これは私にも分かりかねますわ……ただ恐ろしいまでの悪意や憎悪、悲しみと言った負の感情が感じられます……」
イデアにさえその正体はわからずじまいだった。
「二度目の戻りましたですー」
そう言いながらアウラが帰って来た。
「どうやらここは山の中腹にあるようですー麓には煙をあげた神殿様がありましたです。火事なのですかね? 大丈夫ですかね?」
うんうん唸りながら首をかしげるアウラ、どこかで見た光景だった。
「麓の神殿って火力発電所じゃない! じゃあまったく違う場所に来たとは言い難いね、よかったぁー」
先程までの悪寒を振り払うようにクレンは二度目の背伸びをしながら言った。
「ですがこの作りは先ほどまでの場所とは若干違いましてよ?」
イデアが異を唱える。
「多分麓の神殿はほんの一部だったんだよ、残りはまだ埋まっていてそこにボク達は飛ばされちゃったんだよ」
クレンにしてはまともな推理だった。
だがあながち間違いでは無いのだろう。
でなければ発電所の大きさとクレン達が歩いた距離が食い違ってくる。
「広いんだねぇ、神殿が山の中腹まで広がっていたなんてクレンちゃん世紀の大発見じゃん。これ普通だったら受賞モノだよ」
ぶちぶちと文句と感嘆の声をあげるクレンだった。
「そうですわね、先ほど私共がいたあの神殿は入口のような物だったのでありましょう。言うなれば外から城下に入る門のような」
実に分かりやすい例えである。
だとすれば本殿となる神殿はこのエリアにあるのか、はたまたさらに上に存在するのか興味がわいてきたクレンであった。
が、それを確かめる程律儀でもない。
そんな事は考古学者か墓荒らしにでもやらせておけばいいのだ。




