第2章 Ⅳ幕 邂逅
キュパッ!
閃光と共に光と渦が弾け、そこには人の形をした炎のように揺らめくモノが佇んでいた。
『どうやら成功したようですね、あの残留魔力の量で成功するか心配でしたがどうやら杞憂だったみたいです。あとは私の魂をこの炎の人型に流し込めば終了でございます。クレン、大丈夫ですか?』
「だい……じょうぶ……だよぉぉ……ぜぇ……はぁ……」
クレンは膝に手をつき肩で大きく息をしていた。
フルマラソンを走りきった後のような表情をうかべながら。
だがそんな事とはつゆ知らずイデアは続けた。
『それではこの人型に体を合わせてください、そして自分の肉体へ意識を集中させてください』
言われた通りに体を合わせるクレン。
肉体に意識を集中とは一体どういう事だろうか、
考えながらクレンは目を閉じる、そして。
肌から筋肉の動き。
骨。
心臓の音。
血の流れ。
息遣い。
それら一つ一つを想像し出来る限り自分の意識を体の内側へと集中させていった。
(これでいいのかな……)
確認するすべはない、だが人型の中はとても暖かく、それで良いのだとクレンを励ますように体を包み込んでくれていた。
しばらくすると体から何かが抜けて行くような、立ちくらみにも似た感覚に襲われる。
「クレン……お待たせしました。もう終わりましたよ」
よく通る澄んだ声がクレンを呼んだ。
聞き間違いではない。
その声は確かに耳から聞こえてきた。
「目を開けてもよろしいのですよ?」
クックックッと含み笑いをしながらイデアが促す。
「は、はいぃぃ」
クレンは閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げた。
目の前には先ほどの人型があった。
だが先ほどと違い輪郭がしっかりしており表情まで読み取れるほどはっきりしていた。
「改めまして、ですわね」
それは霊体となったイデアだった。
「ふわぁ……すげー……」
開いた口がふさがらないとはこの事を言うのだろう。
クレンの口はぽかーんと開かれていた。
「フフフ、クレンそんなに口を大きく開いてどうしました? まるで何かが口から生まれてくるみたい、フフフフッ」
イデアは面白くて仕方ないと言うように口に手を当ててコロコロと笑っていた。
その姿はやはり王族。
腰まである長い髪。
肘まである長い手袋。
前は膝までの長さ、後ろは床に付きそうなくらい長いタイトなドレス。
全体的に白みがかった淡いオレンジの柔らかな光を放つイデアは神々しくも見えた。
「あははっ! これでお話し易くなりましたね!」
拝むように両手を合わせはしゃぐイデアはとても嬉しそうだった。
それは旧友との久しぶりの再会を喜ぶかのようでもあった。
「きれーい……イデア美人だねぇ……」
まるでおっさんのセリフだ。
だがそれほどにイデアは整った顔立ちをしていた。
年はクレンと同じくらい、17、18くらいだろうか。
切れ長の瞳、その右下には泣きぼくろ。
すっと通った鼻筋に適度な厚みの唇。
そしてドレスが包み込む華奢なスタイル。
しかし出るところは出ているというクレンの理想のボディだった。
全体的に淡い白熱光のような色味をしている為、髪の色や瞳の色が分からないのが少し残念だった。
「くそぅ……負けた……」
スタイルにはそこそこ自信があったクレンだったがここまで差があると潔く負けを認めるしかない。
特に、胸が。
クレンのそれより2周りは大きかった。
「くぅぅ~~~~! 悔しいっ!」
イデアには聞こえないようひっそりと悔しがった。
「どうしました? 私の体に何か付いておりますでしょうか」
クレンの呟きは聞こえていないらしかった。
不安げに自分の体を見ながらクルクルと回るイデアはまるで踊っているようだった。
「この状態のイデアってさ、物とか触れるの?」
一番の疑問を聞いてみた。
「いえ、あくまで霊体なので物に触れる事は出来ません。ですから壁を通り抜けたりも出来るのですよ? フフフッほらっ」
イデアはそう言うと壁に頭を突っ込んで見せた。
クレンの予想通りやはりおてんば姫だったようだ。
壁にめり込んだり壁から顔だけだしておどけて見せたりと、先ほどのクレンと同じ事をしており、思うように動ける喜びを噛み締めていた。
「イデア、そろそろ行かない?」
はしゃぎまわるイデアを呼んだ。
壁に上半身だけ突っ込んでいたイデアがピクリと体を震わせる。
「そうですわね、お見苦しい所をお見せして申し訳ありません」
壁から体を抜き、ペコリと謝るその姿だけでも気品が感じられた。
『ちなみに魂はリンクしたままですので今まで通りこうやっておしゃべりする事も可能ですわよ?』
頭の中にイデアの声が響いた。
「いや、目の前にいるんだから普通に喋ろうよ」
クレンはフフフと笑うイデアに言った。
「ほら、進むよ?」
「はぁ~い」
間延びしたその返事からは、もう少し遊びたかった……
そんな意思表示にも見て取れたがクレンはあえて無視して先を急ぐのだった。
壁に見えていた物もイデアの術により魔力を吸われその姿を消していた。
ぽっかりと空いたその空間は通路にランプが灯されており、これ以上明かりは必要ないようだった。




