第2章 Ⅲ幕 幽体
イデアはその音に気付いたが、クレンは気付いていないようだった。
「ねぇイデアこの部屋、なんか違う感じがしない?」
ぐるりと部屋を見渡してからクレンは言った。
『そうですね……何か異質な物を感じます。ちょっと調べてみましょうか』
イデアは扉が閉まった事を今話した所でクレンは混乱するだろうと思いあえてその事には触れずクレンの言葉に賛同する。
その正体を突き止めるべく部屋の中ほどまで進んだ。
『クレン、先ほど貴女はこの時代には魔力や魔法などは存在しないと仰っていましたね』
「うん、けど今は信じてるよ? これがあるし」
そう言って掌の炎を目の前に持ってくる。
『さようでございますか、ならばもう驚かれる事もないと思いますのでお伝えしますが……』
イデアはそこで一度言葉を切り、
『ここには魔力が流れております、微力なものですけれど……おそらく結界か何か張ってあったようですね、それの残留魔力のようです。クレン、そこの壁に手を触れて』
イデアに促されクレンは言われた通り壁に触れてみた。
すると……
スゥッとクレンの手が壁を通り抜けたのだ。
「うひゃあ! 何これ!?」
びっくりして手を引きもどすクレン。
そしてまた手を突っ込む。
これをしばらく繰り返していた。
『クレン……何を遊んでいるのです……』
呆れたようにイデアが言った。
「え、えへへつい……。だって壁を通り抜けるなんて凄いよ!」
体を半分入れながらはしゃぐクレン。
『これは壁ではありません、壁に見えるように結界が張ってあるのです、それも結界の一部だったのだと思いますが今ではその機能も薄れつつあるようですね』
一見ただの壁なのだが明かりを近付けてみるとうっすらと壁の向こう側が透けて見えていた。
「すごいなぁーこんな事も出来るんだね!」
さっきまでの不安はどこへやら。
クレンはそのまま壁を通り抜け奥へと足を進めようとしたのだがイデアがそれを引きとめた。
『お待ちください。少し……試してみたい事があるのですが』
「あふ、何を、するの?」
呼びとめられ、たたらを踏むクレン。
『ここに滞留している魔力を使って私の実体化を試みます』
「実体化だって!? そんな事まで出来るの?!」
イデアの言葉にまたしてもびっくりしてクレンは声が裏返っていた。
『肉体を再現する事は不可能なので魔力を使った霊体として、ですけれどもね。我がイーグニスの血に不可能はないのですよ。えっへん』
自信たっぷりに言い切るイデア、いわゆる幽霊として復活すると言うわけなのだ。
ここまで常識がひっくり返ればもう開き直るしかない。
クレンはもう驚かないと心に誓った。
それがいつまで続くかは分からなかったが……
『では始めます。先ほどと同じように私の言葉をそのままクレンが唱えて下さいな。あらかじめお伝えしておきますが、今から行う魔法はかなりの体力が消費されると思いますのであしからず』
「体力には自信あるから大丈夫だよー」
クレンが反応するのを待ってイデアは言葉を選ぶように緩やかにその言葉を唱えだした。
『我が体に流れたるイーグニスの血よ、それに導かれし精霊よ、この地に未だたゆたいし魔力の砕片を束ね我が力とし、そして我が魂の記憶に基づきかりそめの肉体としてこの地に顕現せよ!! 【ゲデヒトニスゲシュペンスト】』
クレンがイデアの言葉を紡いでいく。
その言葉が終わるとクレンの体が徐々に光り始め、まわりの空気がクレンの前を中心に回転しはじめ、小さな渦を作り出した。
クレンの体はさらに光の強さを増し、周りの空気もまるで竜巻のようにクレンの目の前に立ち上っていた。
全身の光が胸の前に集中していく。
そしてその光が渦に吸い寄せられ混ざり合い徐々にその姿が変わり……




