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第2章 Ⅱ幕 探索

「戦争……かぁ」

 誰に対してでも無くぽつりと呟いた。


『争いは時として必要な事だと思います。しかしその争いで得られる恩恵はある特定の人種にしか及びません。失う物の方が多いのです、そして戦争で犠牲になるのは常に国の柱でもある民達。戦争など無い方が良いのです……』

 そう語るイデアの声は震えていた。


 民を思うがゆえの悲しさか死の直前の恐怖を思い出してしまったのかは分からないが。

 どちらにしてもイデアは優しい女性なのだとこの時クレンは思った。

 そんな会話をしているうちにどうやら階段を降り切ったらしく、目の前には木で造られたかんぬきが掛けられた古い扉がクレンを出迎えた。


「これ……あけちゃっていいよね?」

『開けなければ先へ進めませんからね』

 イデアに後押しされ掛けられたかんぬきを外し、ゆっくりと扉を押しあける。

 

 ミシミシミシ……キィイイ……


 今にも壊れそうな音を立ててその扉は開いた。

 そこはやはり発電所内部と同じ作りの通路だった。


『ここは……神殿ですか?』

 イデアが驚きの声をあげる。

「うん、ここは山から発掘された古代の神殿なんだ。それを改築というか少し手を加えて火力発電所として使っているんだよ」

 この建物の説明をイデアにしてあげるクレン。


「イデアの国にもこういう神殿があったの?」

『もちろんありましたよ。こんな陰鬱で光も差さないような暗い所ではなくそれはとても素晴らしい神殿が』

 嫌味ったらしくイデアは続けた。


『大体なんなのでしょう、このジメジメした空気といい悪趣味な石像といい神を祀る場所がこんな有様では神を冒涜しているのと同じですわっ!』

 話しながら怒りが込み上げてきたのかイデアの語尾が荒くなっていた。

「まぁまぁ、ここはもう神殿としての機能は無いし山の麓に埋もれていたんだから仕方ないよ」

 そう言ってイデアをたしなめる。


『あ、あら。そうでしたの……。私とした事がはしたないですわ』

 話しながら進むと言うのはやはり良い事だ。

 もしこれが1人だったらどうなっていたのだろう。

 クレンはそんな事を考えながら通路の奥へと進んで行った。

 しばらく歩いて行くと大きな広場へと出た。

 そしてその広場にはいくつもの通路がつながっているのか、壁にはそれぞれの道へと進むであろう扉が配置されていたのだった。


 クレンはこういう状況が一番苦手だ、いっその事イデアに任せてしまおうか。

 一瞬そんな考えが浮かぶ。


『これはどれにするか迷いますわね。クレンはどの扉を選ぶのです?』

「うーん……ボクには決められないよ……」

 やはりイデアに決めてもらおう、そうすれば悩む事も無い。

 クレンは選択から逃げた。


『では……あそこに致しましょう。左から3番目の扉ですわ』

 言われた扉に目をやる。


「わかった、あそこだね」

 そう言ってクレンはイデアに指定された扉へと歩み寄る。

 軋む音を響かせながら扉を開くとそこは、


「なんだ、ただの部屋じゃないか」

 クレンはがっくりと肩を落とした。

 扉の先にあったのは先へ続く通路ではなく、家具らしき物が一つも無いただの部屋だった。


「別の扉を開けてみようか」

 クレンがくるりと振り返った時だった。


 キィ……キィ……


 誰もいないはずの広場から扉がきしむ音が聞こえてきたのだ。


「ひぃっ! な、何の音だよぅ……」

 クレンがビクビクと部屋の中から広場を見渡す。


『見てくださいクレン、中央の扉のすぐ隣を……』

 イデアに言われそちらを見る。

 その扉は半分ほど開いていた。

 さっきまで全ての扉は閉まっていたにも関わらず。

 そしてこの広場にはクレンとイデアただ一人。


「一体どうなってるんだよぅ……」

 涙目になりながらクレンは呟いた。

 怖い、素直にただそれだけだった。

 だがイデアはまるで意にも解さないかのようにクレンに語りかけた。


『誰かいたのでしょうか、まるで私共を誘っているようですわね……。いいでしょう! その誘いに乗って差し上げますわ! そうは思いません事? クレン!』

 イデアは恐怖など感じてはおらず、それどころかこの展開を楽しんでいる。

 そんな言い方だった。


「いやだよ! 行きたくない! あの先に何があるかわからないんだよ?」

 クレンは必至の抵抗を試みる。

 だが……

『貴女は何を仰っているのですか。何があるか分からないから進むのが楽しいのではないですか? 良い出来事も悪い出来事もすべて自分の糧となるのです、先に進まなければ止まったまま、何も変わらないのです。クレンはそれでいいのですか?』

 クレンの抵抗もイデアには些細な事のようだった。


「そんな事言ったってぇ……」

 正論を言われさらに涙ぐむクレン。


『大丈夫ですわ、さきほどの階段を降りたのはクレンの意思でございましょう? それと同じ事でございます』

 イデアは諭すようにクレンに語りかける。

 それでもクレンはぶつぶつ言いつつ半開きの扉に手をかける。

 ゆっくりと扉を開けるとそこは先ほどと同じ作りの部屋がクレンを出迎えた。


「なんだ……何もないじゃないか……おどかさないでよね……」

 クレンは胸をなで下ろした。


 ィィィ……パタン


 静かに後ろの扉が閉まった。


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