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第2章 Ⅰ幕 末裔

 コツ……コツ……コツ……


 クレンの履いている靴で階段を鳴らす音が炎で照らされた暗闇の中に響いていた。


「この階段どこまで続いてるのかな」

 いつ終わるか分からない未知の階段に少しばかりの不安を覚えながらクレンは言った。

『まだほんの少ししか降りていないような気が致しますが……』

 イデアが言っている事は正しかった。


 だがここは階段で、クレンの体感で言うと約5分は降りている。

 普段歩いている道であれば5分などイデアの言うとおり“ほんの少し”なのだが……

 それとはいかんせん勝手が違う、暗闇の中、カビ臭い湿った空気に包まれながら体感5分も降りていれば不安になっても仕方ない事だった。


「うぅーこんなに降りる階段なんて初めてだよぅ」

 クレンが声を漏らす。


『クレンは案外気が弱い方なのですね。私の時代にはこのような階段などいくらでも存在していましてよ?』

 イデアが少しがっかりした声で答えた。


「そんな事言ったってさぁ……今日はわけわかんない事ばっか立て続けに起きてさらに発電所の隠し階段を探検中なんだよ? いくらボクだって参っちゃうって」

 

(――はぁ……どうしてこんな事ばかり起きるんだろ、レミどうなっちゃったんだろ……)

 消えてしまったレミの事が気がかりだった。

 家が近く小さい頃からよく2人で遊んでいた、お互いの親も仲が良い。

 クレンと同じ遅刻常習犯だったが持ち前の明るさで友達も多かった。

 そんなレミが忘れ去られてしまった。

 

 ……ギリッ


 クレンは無意識に唇を噛んでいた、血が流れる程強く。

(――駄目だ。思い出したら涙が止まらなくなる。今は先に進んでレミを探すんだ)


『どうしましたクレン? 急に立ち止まって……』

 イデアが急かすように言った。


(――それに今はイデアもいる、1人じゃない、進むんだ)


「ごめんごめん、ちょっと考え事。さぁ行こう!」

 クレンは再び暗闇の底へと歩みを進めたのだった。


「ねぇねぇイデア、さっきイデアの時代にはこんな階段いくらでもあったって言ってたけどそれってどういう事?」

 先ほど感じた疑問をイデアに問いかける。

『階段……ですか? うぅん……まず私の居城が第一ですわね。王族の住まう居室は塔の上に作られております、それゆえ嫌でも長い階段になってしまうのでございます。ゆっくりと登っておよそ15分と言った所でしょう』


 さらりと恐ろしい事を言ってのけるイデア。

 常人ならば5分階段を登れば結構疲れるものだが……ゆっくりとはいえ15分も上り続けるのが日常だったとは。


「うひゃー……そんなに高いの……」

 今の時代であれば電気駆動のエレベーターやエスカレーターがある。

 だがイデアの時代にそんな物は無い、よって階段による移動。

 よくよく考えれば当たり前なのだがどうしてもクレンの時代で話を合わせて考えてしまう為そこまで考えられなかった。

 これが逆カルチャーショックというものか。

 

 イデアがこの時代の文明を見たらどんな反応をするのだろうか。

 クレンはその事を想像し、笑みを浮かべていた。


『城には王族以外の給仕達や騎士団、執務官なども住んでいますのでやはり大きな物となってしまいます。この時代のお城はそこまで大きくないのですか?』

 イデアが不思議そうに問う。


「今の時代にお城は無いんだよー王の家はあるけどお城ってほどじゃあ無いかなー」

 王都ハイマート、比較的緑に囲まれたこの国の王は小高い丘の上の家に住んでいる。

 家と言ってもクレンの住んでいる家がまるまる四つくらい入りそうな大きさではあるが。


『そんな! 争いが起きた時は一体どうすると言うのです! 家などと……すぐに襲撃されてしまうではありませんか! それに魔物だって……』

 イデアは信じられない、といったようだった。


「争いって……そんな物騒な事はないよ、戦争だって無いんだから」

 少なくともクレンが知っている最近の戦争と言えばおよそ80年前の地域紛争くらいのものだ。

『そうなのですか……平和な世の中なのですね……素晴らしい事です』

 イデアは心底驚いているようだった。

 恐らくイデアのいた時代は戦争が世の常だったのだろう、そうクレンに思わせるほど戦争への認識が食い違っていた。


「そういえばイデアの最後も戦争って感じだったね……」

 クレンは今朝の夢が再び脳裏によぎる。


「あれ、ちょっと待って。イデア今最後なんて言ったの?」

 聞き間違いだろう。

『素晴らしい事だと言いましたが……』

「違う、その前!」

 自然と口調が荒くなった。

 思案しているのだろうか、少しの間が空いた。


『ええと……魔物だって……と言いましたが……』

 聞き間違いでは無かった、イデアがいた時代は魔物も存在していたのだ。

 龍や魔法が存在する世界だ、魔物がいても不思議ではない。

 しかしクレンの時代には魔物など存在しない、絶滅してしまったのだろうか。

 絶滅してしまったのなら歴史や生物学でも触れられるハズだ。


「その魔物はいっぱいいるの? ボクの時代では存在しないよ、歴史にも無い。ここには動物や植物、そして人間しかいないんだ」

 イデアに説明する。


『さようですか……私共は古来より魔物と人間からの脅威と戦い続けてきたのです。もちろん害をなす魔物ばかりではありません、家畜として使役したり交通や道楽、人間と共にある魔物だっていました』

 夢の中の見た事の無い動物はやはり魔物だったのだ。

 似ているようで異質な世界。

 それが何を意味しているのかこの時のクレンには考えられなかった。


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