第1章 Ⅸ幕 地下へ
「これって隠し扉……? なんでこんな発電所なんかに……?」
現れた空間を恐る恐る覗き込んで見る。
暗くてよく見えないがどうやら下に降りる階段があるようだった。
「降りて……みようか……」
明かりが無いため、クレンは足元を探るようにゆっくりと階段に足をかける。
『クレン様、お待ちください。』
イデアが呼びとめる。
「どうしたの? 何かあった?」
クレアが階段を足でなぞりながら怪訝そうに尋ねる。
『このままでは足元もおぼつかず危険でございます、私に提案があるのですが……かまいませんでしょうか?』
その声を聞きクレンは一度足を止めた。
「いいけど……どうするの?」
『クレン様の声をお借りしたいと思います、さすればこの道も危うい物ではなくなるでしょう。クレン様は私の言った通りに繰り返してくださいね』
「う、うん。わかったよ」
クレンはその提案が何なのか理解出来なかったが、とりあえず言われた通りにする事にした。
『それでは……我が体に流れたるイーグニスの血よ、その血に導かれし精霊よ。我の祈りに力を与えよ、そしてここに穏やかなる光を。【ルーイヒリヒト】』
イデアの言葉の後にクレンも同じ言葉を紡いでゆく。
するとクレンの体全体がほのかな光に包まれる。
やがてヒュウウと音を鳴らしながら光が掌に集まり……
そこにりんごほどの大きさの光の玉が現れたのだ。
よく見てみると玉の周りが微かに揺らめいて見える、その玉は淡いオレンジ色の暖かな光を発していた。
「凄い……これってもしかして……」
クレンが感動に打ち震えているとイデアが語りかけてきた。
『ふぅ、私の記憶とクレン様の血中魔力をリンクしてみたのですが成功したようですね、それがいわゆる魔法と呼ばれる物ですわ。いかがですかクレン様、これで足元も見えるでしょう』
クレンはイデアの言葉を聞きながらも掌の光の玉に夢中だった、指でつつけば微かに揺れ、
ほのかな温かさも感じる事が出来る。
『それは初歩中の初歩、掌に小出力の炎の玉を生成し魔力でコーティングしたのですわ、こういった物は夜道の明かり代わりに使われたりしていたのですよ』
「へぇー!こんな優しい炎なんてあるんだねぇ……赤ちゃんみたいでかわいいな」
未だに玉をつんつんしているクレンにイデアが言った。
『ある程度修練を積めばクレン様でもこれくらいは発動出来るようになりますわ。さぁ行きますわよ、この先には何があるのでしょう!』
気が付いたらイデアの方が乗り気である
この人って案外おてんば姫だったのかも知れないなと思いながらクレンは掌の炎で辺りを照らし再び階段を降り始める。
「あ、あとイデアちゃん、今更だけどボクの事呼ぶ時は様付けしないでいいよ!」
これからは2人で1つの肉体なのだ。
いちいち様付けされたら疲れてしまう。
(――2人仲良く行こうよ、ね、イデアちゃん!)
果たしてクレンの意図が通じたのかは定かではないが
『わかりましたわ、それでは私の事もちゃん付けは結構でございましてよ。ではクレン、共にまいりましょう!』
外からクレンの姿が見えなくなった所で扉がひとりでに閉まっていく。
まるでクレンの退路を閉ざすかのように。
その音をあえて聞こえないふりをしてクレンは暗闇の中へ続いている階段を降りて行ったのだった。




