第1章 Ⅷ幕 王家の血
『あの時私は確かにグランツに殺されました。しかし死の直前あなたの魂が私に流れ込み、そして私の魂を引き連れて戻られたのです。恐らく……これは推測なのですが、私の魂はクレン様の魂と融合、もしくはそれに近い形で肉体という器に共存していると思われるのです。これが第一にクレン様の中に私が存在し会話が出来る原因になるでしょう』
「融合、かぁ……。と言う事はあの夢は夢ではなくて現実だったって言う事だよね?」
クレンは自分に言い聞かせるようにイデアへ訪ねた。
『さようでございます、あの時からどれほどの時が経過しているかは判りかねますがイーグニスが文献にも無く口伝もないのだとすれば、私の時代から相当の年月が経過していると考えられます』
イデアは相当の年月と言ったがそれがどの程度なのか想像もつかない、何しろ夢の中でフォーゴと呼ばれた男やグランツは魔法を使用していたのだ。
今となってはうさんくさいおとぎ話の中でしかその存在は出てこない。
魔法によってさまざまな恩恵を得ていたと言う話でさえ科学的証拠も何も無いのだから。
『そして二つ目、これも信じがたい話かも知れませんが……クレン様は我がイーグニスの血を引いておられます』
またしてもイデアから語られた衝撃の事実。
クレンは固まっていた。
「あはは…へーそーなんだー……ボクがねー」
クレンは地面に腰をおろしていた。
びっくりしすぎて立っていられなくなった、と言う方が正しいのだが。
『はい、クレン様はイーグニス王家の血系なのです』
……………………。
しばらくの間が空き…………
「まぁぁぁぁじっすかああああああああああああああ」
また吠えた。
控え目な大声で空に向かってクレンは吠えた。
まさか自分が歴史にも載って無い古代王国の末裔だったとは。
頭が混乱し、もはや驚く事は無いだろうと思っていたクレンだったがこれは衝撃が大きすぎた。
『い、いきなり大きな声出さないでいただけませんか!? びっくりするではないですか!ぷんぷん!』
「ご、ごめんよ……つい……」
イデアにたしなめられ素直に謝るクレン。
しかし王族がぷんぷんとはいかがなものだろうか。
クレンはそこが気になったがあえて触れないでいた。
『いいですかクレン様、残りをまとめて説明致しますのでご質問は後ほどと言う事でよろしいですか?』
少しやきもきしたようにイデアは言った。
「あ、はい、お願いします……」
イデアの苛立ちを察したクレンはしばらく黙る事にしたのだった。
『クレン様がイーグニスの血を引いていると分かったのもクレン様に内包される魔力によるものですわ。どうやら今の世界は魔法や魔力といった概念が無いようなので気付かないのも無理はありませんけれど。我が一族は火龍イーグニスの血を受け継ぐ者として国をまとめておりました、イーグニスの血は特別な物、その血は例え何代過ぎようとも、どれほど他の血が入ろうとも薄まる事はない力強い物なのです、クレン様が私の死の場面にいらしたのも、もしかしたらイーグニスの血が引き起こした奇跡なのかもしれませんね…………私の説明はこれにて終了となります、何かご不明な点はありますでしょうか?』
一息に話を終えたイデアは誇らしげにクレンへと問いかけた。
「んーと……とりあえずイーグニスさんていう凄い龍がいてその血がボクにも流れててその血は持つ魔力によってあの時イデアさんと一緒にいた魂がボクだと、そうやって分かったってワケだよね?」
今まで聞いた話をクレンは頑張って要約してみたのだった。
『いかにも。理解が早くて助かりますわ』
「と言う事はこのボクも魔法が使えるって事!?」
魔法、よもや現実にその存在に出会えるとは思ってもいなかったクレンは目を輝かせていた。
信じていなかった存在だが、あの夢が現実に過去で起こった出来事であり、なおかつ王族の血系とまで断言されたのだ。期待せずにはいられないのが人間と言うものだろう。
しかし……
『いいえ、クレン様に魔法は使えません』
無情にもイデアはばっさりと切り捨てた。
「えええええなんで! どうして! ボク魔力持ってるんでしょ?! イグニールさんなんでしょ!? どうして使えないのおおおおおお」
使えるのならすぐにでも試してみたかったクレンはイデアに喰ってかかる。
『落ち着いてください。いくらクレン様がイグニールの血を受け継いでいるとはいえ契約もしていない、修練もしていない、今の今まで魔法をご存じない。そんなド素人に栄えあるイグニールの魔法が使いこなせるとお思いですか』
イデアの言う事は正論である。
「栄えあるって滅びたクセに」
現実を突き付けられたクレンは明らかに落ち込みつつ小声でそう呟いた。
『クレン様? 今何か仰いましたか?』
やや怒気のこもった声だった。
どうやらイデアには聞こえていたようだ。
その時だった、少し離れた所から人の話し声と足音がする事にクレンは気付いた。
足音はどうやらこちらへ向かってきているらしい。
「イデアちゃん、ちょっと移動するね。」
『私に仰られても……この肉体はクレン様の物ですから断りなどしないで大丈夫ですわ』
それもそうだ、会話をしてはいるがここにいるのはクレンただ一人なのだ。
今まで一人でブツブツ話しこんでいたのかと思うとかなり恥ずかしくなった。
誰に見られていたわけでもないのだがそれが乙女心と言うものだ。
クレンは今いる場所からさらに建物の裏手へ足音を立てないようにこっそりと歩みを進める。
裏手へと辿り着きふと空を見上げると平原の向こうに見える太陽が山の向こうへと沈み始めていた。
「うわちゃーもうこんな時間だよ。どうやって帰ればいいのかな……バスにも乗れないし歩いて帰るにしても帰り道が分からないときたもんだ」
クレンが途方に暮れていると突然周りが照らされた。
「見つかった!?」
クレンが身構えて周囲を窺うが特に人の気配はない。
どうやら太陽が沈み外灯に炎が灯っただけのようだった。
誰かから逃げている訳では無いのでクレンの考えは的外れだったのだが。
「んもう!びっくりしたじゃないかー、勘弁してよ……」
『うぅ……これは……?』
イデアが苦しそうな声をあげていた。
「イデアちゃんどうしたの?」
『わかりません……でも何か、この炎からはよくないモノが感じられます……』
その声は苦悶に震えており喉から絞り出すように話していた、原因は炎から流れ出る “何か” に影響されているのは間違いないだろう、だがそれが何なのかはイデア自身にも分かりかねるようだった。
「少し離れようか?」
そう言ってクレンが外灯の側から離れた所の壁に寄り掛かろうとしたその時だった。
ガコン!!
何かを踏んだ気がした。
そして……
ズズズズズズズズズ……
砂埃を上げてクレンの後ろにあった壁がゆっくりと動き、人1人が通れる程の空間が出現したのだった。




