008 【人物】青年、【属性】生命
青年は大学を卒業して以来、家に籠りっぱなしだった。当然、働いていない。たまに思い出したかのように、単発のバイトを入れる程度である。
今日も今日とて、昼過ぎにベッドの上で目覚めた。起き上がったのは、それから二時間後だったが。
「腹減ったけど……、まあいっか。何か食べるって気分でもないし」
「……もう、いい加減にしなさい」
母親の堪忍袋の緒が切れた。低く抑えられていた声が怒鳴り声になるまで、それほどの時間もかからなかった。
「いつまでそうやってダラダラしてるつもりなの! あなたの同級生は皆、もう立派に働いているのよ?」
「え、どうでもいいじゃんそんなの。うちはうち、よそはよそ、だよ」
「またそうやって都合のいい時だけ! 最近の子らって、誰も彼もこんなのなのかしら……!」
説教は一時間近くに及んだ。青年は言い返すだけ無駄だと分かっていたので、口を挟まずに嵐が過ぎ去るまで黙っていた。伏せた顔を、苦々しく歪めながら。
(……なんだよ、鬱陶しいな。そんなに嫌いなら追い出したりすりゃいいだろうに)
母親が部屋を出ていった後、青年はパソコンを起動させた。そしてネット上の掲示板を開き、ありったけの罵詈雑言を書き始めた。馬鹿だ阿呆だ、死ね滅びろ、クソババア、等々。その分量は、画面を埋め尽くすほどに膨れ上がった。
書き込みボタンを押す前に、読み返した。口の端が上がる。鼓動が強く激しくなる。引きつった笑いが込み上がってきた。ぴくぴくと痙攣する指で、クリックした。
「やっべ、これ楽しいかもしれない」
青年の目は輝いていた。生きる喜びを見出したかのように。