004 【人物】アンドロイド、【心理】ノスタルジー
最新鋭アンドロイドの発表会は、白けた雰囲気のまま進んだ。件のアンドロイドはデザインに真新しさがあるわけでもなく、機能上もたいしたことができるわけでもない。居並ぶ記者達は欠伸をかみ殺していた。電子手帳に落書きする者もいれば、人工鼓膜の音楽再生機能で暇を潰す者もいる。
それでも途中で帰らないのは、開発会社の名誉会長が自ら進行を行っているからだ。介助ロボットに支えてもらわねば立つことすら叶わない老人は、人工声帯を精一杯振るわせ、アンドロイドの紹介を執り行っていた。何か裏があると考えて然るべきと、皆が思っていた。
「さて、皆さん。本機の最大の見所は内部構造にあります」
機体の腹部にあるハッチが開け放たれた。スポットライトで照らされたその中身に、会場中の視線が釘付けになる。そこには無骨な箱がいくつか押し込められていた。電子回路らしきものは一つも見当たらない。空洞の多さも目立った。会場が俄にざわつき始めた。
「そう、一見すればガラクタを詰め込んだようにしか見えない。それなのにアンドロイドとして動く。内部デザインにも拘った一品です」
「なんというか……、まるで大昔の漫画のようですね」
一人の記者が漏らした一言に、会長は大きく頷いた。
「私は元々、このようなものが作りたかった。百万馬力を備え、自由自在に空を飛び、優しき人の心も持っている。お尻に機関銃を仕込むのには苦労したよ」
「しかし、どう見てもそのようなスペックを持てる構造には見えませんが? 電子回路や内蔵型炉心はどこに?」
「それらが存在しないかのように見せるのは、なかなか大変だった。蓋一枚開けたら最新の精密機器、なんてのでは興醒めだからな」
鼻を啜ってから、言った。
「非現実的なメカニズムで実現される、非現実的なスペック。私が子供のころ憧れたロボット、今でいうところのアンドロイドは、そうでなくてはならん」