002 【器物】,宝石、【肉体】,ハダカ
「この宝石、条件次第で君に譲っても構わんのだぞ」
「ほ、本当ですかっ」
男は目を輝かせた。手の平大のダイヤモンドをくれると言われたのだ。生唾をごくりと嚥下してから、聞く。
「それで、条件とは?」
「裸踊り」
「えっ」
「私が見ている目の前で、全裸で踊ってみたまえ。どんな踊りでも構わん」
もう一度、喉を鳴らした。額に冷や汗が浮かぶが、拭く余裕はない。彷徨う目線が、蝋燭の火に輝くダイヤに止まる。二度三度、瞬きをして、決めた。
「やります」
上着、Tシャツ、ズボンの順に脱いでいく。パンツに手をかけ、しかしすぐには降ろせない。歯を食いしばる。深呼吸の後、勢いをつけて、下げた。
決断してから、三分が経っていた。
「準備はいいかね。では、ミュージックスタートだ」
激しいロックが流れ始める。男は股間に手を当てたまま、ステップを踏み始めた。とはいっても左右に小さく揺れたり片手だけで振付をしたりするだけ。顔に赤みがかかっていく。
「そんな猫背な踊りがあるものかね。もう少し誠意を見せてほしいものだな」
遠慮のない言葉が叩きつけられる。男は天を仰いだ後に、両腕を高く上げた。一度裸身を晒した後は、もう止まらなかった。滑らかで激しい足運びに汗が散る。玉袋と竿が揺れる。熱いのはもう、顔だけではない。
引きつった笑みを浮かべながらブレイクダンスを披露している最中、拍手が鳴った。
「はいそこまで、合格だ。いいものを見せてもらったよ」
唐突に音楽が途切れた。男は蹲るような姿勢で止まる。涙と鼻水が止まらない。
その眼前に、件の巨大ダイヤが転がされてきた。まるでゴミが投げ捨てられたかのように、無造作に。惚ける男に、笑声が浴びせられる。
「実はあれ、ただの透明なプラスチックだよ。道楽で作っただけなのだが、ま、モノの真贋も見分けられない上に羞恥心を欠いた人間にはちょうどいいだろう。ほれ、さっさと持っていきたまえ」