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双子

「というわけで、ちょっと困ったことになったが。とりあえず当初の予定を実行しておこうと思う」


「おー!」「「おー」」「…おー?」


 そんなノリじゃないからな、元気よく拳を上げている貴志雛姫君。

 日本人らしく、そのノリと拳に追従する、貴志家家臣A&Bと、なんだかやらなきゃいけない場の雰囲気に流されるうちの嫁。


「…おー」


 ついでにとばかりに、忍んでいない忍者ロリも加わった。しれっと混ざっているけど、お前うちの子じゃないからな。完全にスパイ的な間諜に全て筒抜けだよ、これ。


 酒かっくらってた、真田の人は寝落ちしたが。どうにも監視が外れない。

 さっき、頭ぶつけたんなら、大人しく安静にしていろ宜し。


 そんなこと言っても是非もなく。辺りもだいぶ明るくなってきてしまったし、終わらすこと終わらして、もうひと眠りしたいものだ。

 先ほどから、目の奥がじくじくしっぱなしである。


「で、カリン。この札を持てばいいのか」


 カリンたちのお使いしてきたアイテムを握る。


「はい、なのです。嘉人様には親札を持っていただいて、殿はこちらの小札をお持ちください」


 どこにでも、良くある御札にしか見えない。蓬さんがさっき買ってた、ご由緒正しい諏訪のお守りの方が立派に見える。

 だが、これはゲーム内より、あるシステム部分にアクセス権限が発生する。それは、家臣団の移譲である。おれのメインのキャラが使えない以上、貴志にシステム経由で受け渡して戦力の増強を図るのだ。


「こんなちゃっちいで、城が片手以上の数建ったり、小さい国なら買えたりするのか」


 小笠原の宝重がなかったら、これも果たしていつになったことやら。

 このたびの無駄な苦労も報われるというものだ。


「そして、お互いに花押サインを書いて頂いて契約は成立となります」


「え、それだけ?」


「はい、それだけなのです」


 家臣団の受け渡しという、使い方によってはいろいろな事態を引き起こせる機能にアクセスする手段。

 たしかに前提として、途轍もない莫大な金が必要となるが逆にいうとハードルはそれだけだ。これは――――


「嘉ってば、なに難しい顔してる? ボクは昔一度やったことあるから大丈夫だって、うちのさっちゃんだってこれで来たんだぞ」


「――――いや、そうじゃないんだが…ってお前の家老、元々、別の所のやつだったのか。そんなのNo.2に添えて良く家中荒れなかったな」


「ボクの所はみんな仲良しだかんね」


 エッヘンと胸を張ってるが、後ろの家臣二人が私たちすごく微妙ですって顔してるからな。

 まぁ、史実でも石田三成がいきなり島左近を置いたしな。ありっちゃ、ありか。

 こいつの所も実績と能力と知名度は文句ない。三シーズン目の東北を荒れに荒らした、今でも語り草の大妖狐様だしな。

 どいつもこいつも一癖ある武将たちだが、こいつらを含めて、一武将の家中の統制なんて、かの謀将にとっては役不足もいいところだろう。


「まぁ、いいか。とりあえず済ませるか」 


 お互いの札の上に指で花押を書く。するとこちらの札が浮き上がり、貴志の持っている物に重なり消えた。


「あ、選択画面が出た。えーと、たか坊と楓ちゃんの名前あるね。一門武将だから、召し抱えるのに追加条件も無し」


「よし。蓬、約束通り二人に会えるぞ」

 

 実は、この状況になっても大丈夫かどうか不安でもあったが、どうにかなったようだ。


「は、はい」


「ふふん」


 なぜか得意げな、わが幼馴染。蓬に向かってサムズアップまでしやがった。


 それを胸元に腕を重ねて、じっと見ている嫁。めがうるうるしている。


「ありがとうございます、流人さま」


 え、なんか好感度アップイベントが俺に起こらず。こいつの手柄になってるんですけど。ちょっと異議ありと手を上げようとしたところで。


「じゃあ、呼ぶねー」


 ファミレスの呼びボタンを押すような手軽さで(実際にそれくらいの労力だが)手元のウィンドウを操作する貴志雛姫。


 地面に直径3メートル円形の白い丸が浮かび上がると、そこに意外に丸っこい女の子した字で書かれた貴志の花押が描かれる。それらから同じ色の光の柱がゆらゆらと立ち上り。


 二つの人型の輪郭が出現し――――


――――空と大地が回った



「嘉様っ!」


 その声に一瞬遅れて、最中が地面にたたきつけられた。


「ガッ」


 まだ混乱する頭は無理やり引き起こされ、火花が目の前に瞬いたその奥に、黒い具足の武者の姿。そして、その右手には初夏の光を反射する金属の鋭い輝きが握られている。

 なんの迷いもなく、逆手に握られたそれは首筋に向けて振り降ろされた。


「え」


 背中を強く打ったため、間が抜けた声にならない声がやっと絞り出せただけだった。


 真っ赤な血が流れる。


「いたた」


 白刃は俺の喉を切り裂く一歩手前で、横から伸びた手に握られていた。刃が食い込んだ肌からポタポタと地面を赤い液体が濡らした。


「ひ―――な―――」「叔母上殿!」


 俺を殺そうとしていた人影が、悲鳴のような叫び声を上げた。


「高坊。その叔母上殿ってのやめてって言ったぞ」


「そんなことを言っている場合では、誰ぞ、叔母上殿の手当を。いやさ、それになぜ、叔母上殿がここに」


「人の嫌がることを真面目に連呼しないで。君の親に言いつけるぞ」


「…ぐっ、申し訳御座らん」


 その場から飛び上がるようにどいた黒い武者は、額を地面にたたきつけ土下座した。


「父は敵陣に突入し討死された。まこと、叔母上殿にも合わせる顔がなく」


「だってさ、嘉」


「ああ、とりあえず二人とも俺の上から降りてくれ、あと楓」


 口を一文字に結んで、鉄扇を構えながら、辺りを訝しげに見まわしている。もう一人の武者に声をかける。


「えっ、あっ、はい…ん?」


 なんで返事をしてしまったのだろうと、こちらをうさん臭げに睨んでくる。目つき悪いなこいつ誰に似たのだろう。


「貴志の手を直してやってくれ」


 その提案には異論がなかったみたいで、癒し系の祝詞を唱えはじめる。

 そこで、俺もようやく立ち上がり、砂を払おうとすると。


「ぐえ」


 また、凄い勢いで押し倒された。


「嘉さま、ご無事ですか」


 相手は嫁だ。たった今、また呼吸ができなくなった。先ほどよりつらくてくるしい。まったくもって、無事じゃない。

 しかも、力加減なく締め上げてくる。柔らかいところが色々と当たってはいるが、愛って、たまに痛い。ものすごく痛い。


「だ…いじょ…び」


 ぜひぜひ言いながらなんとか声を絞り出す。

 蓬さんとこれからしたい事の脳内リスト表を少しもやらないうちにくたばってたまるか。特にアルファベットは是非とも消化していきたい。

 態勢的にはそれっぽいが、今は衆人環境の上に、夜も終わり早朝だ、また今度にしよう。


「蓬、ほら。ふたりだ」


 顔を、俺の方から上げて鎧姿の二人を見る。


「嘉さまから離れてください!」


「いや、その二人。楓と嘉高」


「え?」


「楓と嘉高」


「何をおっしゃってるのですか。ふたりはこれくらいの大きさの童じゃないですか」


 いつぞやのかぼちゃくらいの大きさを手を広げ示す。

 そんな時期もあったと思うが、半月くらいでこの大きさになったんだけどな。ゲームのシステム的には一日で季節一つ分で、それからはずっとこの見慣れた背格好だった。


 そわそわと治療を終えた、貴志の方を見るが、うんそうだよと軽い返事を受けるだけ。


「そん…な…わた、わたしと嘉様の…」


 印象の強い出来事程、蓬の記憶には残っていた。

 ほとんどこのふたりは俺があちらこちらに連れまわしてしまったから、蓬と過ごす時間が多かったとは言えない。かわいい盛りの幼児の時期のみが彼女の記憶に残っていたとしても不思議はない。

 それが成長の過程をすっ飛ばして自分よりも大きくなってしまっていたのなら、それはショックだろう。


 なぜだろう、何か引っかかる。飲み込めないような小さな齟齬。

 これは、意図されない持ち越しの所為なのか、はたまた。

 思考はそこで遮られた。


「ねぇ」


 ぶすっとへの字口の少女がこちらに声をかけてきた。長い天色の髪をかき上げ、冷たい視線でこちらを観察する。


「な、なんでしょう」


 蓬さんが怯えたようにびくっとなって、ぎゅっとその視線から俺を隠すように抱きしめた。



中途半端ですが区切ります。ちょっとしっくりこないので、流れは変えませんが枝葉を加筆修正します。

見直したら、楓たちの名前の初出が4年前とか。今日、優勝したレスターに阿部ちゃんがいた年だし。

あまりに長くて、その間にキャラクター造形が二転三転というより七転八倒しているのが原因かなと。

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