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真田の人

あれ、明日から…八月???

「まぁ、そう構えなすんなって」


 男は笑う。まるで子供のようないかにも楽しくて仕方がないといった風情で。


「俺は佐久さくを根城にしていた今は亡き海野うんの氏の傍流だ、調略の範囲は、北信濃。今川の重臣がどこで何しようと興味はねぇさ」


 あいやー、素性がバレてらっしゃる。まぁ、そこのデカいのどこに行っても目立つしなぁ。

 おまけに配下の蘇芳とカリンも無駄に目立つ。

 そういえば、こいつは配下を外見で選んでいるような節もあったりもする。

 ひょっとしなくても、使番つかいばんとか間諜とか、こそこそした仕事は能力とは別のところで向いている人材はいないのではないか。

 一応、内政を一手に預かる家老は、裏工作が得意なはずの名だたる謀将だが、逸話はパワー系が多いという特徴がある。まぁ、今はそんなことどうでもいい。


 この目の前の男が、戦の混乱から一日を空けずに暗躍するふたり、ひいては俺たちに接触してくるのは、あまりに早い。


 だがしかし、そのフットワークの軽さはともかく、情報の精度という観点から見ると当然の事かもしれない。

 なぜなら、真田といえば忍者である。

 創作とはいえ真田十勇士さなだじゅうゆうし猿飛佐助さるとびさすけは服部さんと並ぶ誰もが知る日本を代表するビッグネームだ。

 今はまだ村上の配下だが、息子の昌幸の謀略の手足となった出浦盛清いでうらもちきよなども高名だ。


 戦国時代の実在した忍者を調べてみると、アイエエエ!サナダ=サンの家臣多すぎ!と思うほどに今の世にまで名前が残ってしまった、まったく忍んでない忍びが沢山いる。

 忍びとは闇に生き、闇に死ぬんじゃなかったのかよ、お前らと思わなくもない。

 まぁ、逆にいうと真田はそれだけ優れたワザマエ…じゃなかった腕前の間諜の宝庫なのだ。

 領地内でのゲリラ戦を十八番としていた勢力だけに、配下の武士と忍びの境目がそもそも曖昧な所為のだろう。


 更には、この信濃という土地柄の所為かもしれない。甲賀五十三家の望月氏の傍流が棟梁を務めたくノ一集団『歩き巫女』や今も忍者村のある『戸隠流』などもあり、信州の名物は正にそばと忍者という土地柄なのである。


「そもそも、そっちに口を挟む権限はねぇしな。武田に仕えたばかりの新参者が余計に疎まれるだけだ」


 駿河方面の外交は武田の本拠地のある甲斐、その中でもかつての甲斐南部の河内地方の豪族であった譜代の家臣や親族である飯富おぶ穴山あなやまなど現・晴信の政権内の中心が担っているのである。領地の北と南。新参と譜代。役割は当たり前に異なる。


「はぁ…そうですか」


 かつては、今川と武田は敵対関係にあったが。『海道一の弓取り』今川義元が、後継ぎ争いの『花倉の乱』で異母兄を倒し、今川の実権を掌握する際に、晴信の父『甲斐の狂虎』武田信虎がバックについたことで関係が変わった。

 信虎の娘を義元が娶り、今に至るまで強固な同盟が結ばれている。

 その後、晴信が義元と共謀して信虎を駿河に追放するという、戦国大名によくある親子によるハートフルな主導権争いでひと波乱あったものの、同盟関係は極めて良好だ。


 だから、なにやらこそこそやっている同盟国の家臣を見逃す代わりに、何やら話があるというわけだ。


 後ろの、カリンに目を向ける。


 びくっと、背筋を正し、何度か頷く。責任もあとで糺すからな、とため息をひとつ。

 こいつは敵を持ち帰るほど馬鹿でない。それどころか、並の面倒事は口先でも実力でもいかようにも回避、いやさ、排除できるはず。実際にいろいろ試してみたのだろう。そして、失敗した。


 そんなこちらのやり取りを、楽しそうに笑う真田の男。つまり、カリンは目の前のこれに、完膚無きまでに叩きのめされて白旗を掲げて戻ってきたわけだ。


「此度は様々な行き違いがあったようで」


 あずかり知らぬところで何やらあったみたいですねと、俺はすっとぼけてみる。


「いいや、とんでもない。それに此度の結果だけとるなら、何もせずに手柄が転がり込んだわけだ。俺には得しかない。家中の発言力も増えたしな」


 実にワザとらしい言い回し。


「ただ、上役の頭越しに同盟国の手を俺が借りた、という状況がばれるとは不味いわけだ」


 お互いに、というのを言外に匂わす。


「新参者が一万石のただ飯食らって、居心地がお世辞にも良くねぇのよ。これ以上立場が悪くなるとちょっとばかし、困るわけだ」


 困る困るとわざとらしそうに言葉を連ねる。


「もう少し発言力を上積みして、雑音が出ても抑え込めるようにしたいのでな。申し訳ないが、少しばかり手を貸して頂けないか」


 要求じゃなくて、こちらを立てて非公式な懇願か。どうあっても、断れる状況じゃないしな。結局のところ、周り全部アウェーで、端から交渉すらできない状態だ。

 こちらを立てて悪いようにはしないと申し出るあたり、嫌らしくはあるがマシな相手ではある。

 まぁ、カリンと仔細は詰めてきてからここにいるだろうし、無茶な話は出てこないはずだ。

 勝利の余勢と諏訪の力を借りて、調略を手伝えという所だろう。適当に頷いて、諏訪に丸投げしよう。


「ちょっとばかし、欲しいものがあるんよ」


「はい、なんでしょうか?」


 ひょっとして、有力家臣の寝返りとか、周辺の村を一つ二つ武田方に組み込めとかの難題か。勘弁してくれ。

 まぁ、それもいざとなれば、カリンに丸投げすればいいか。

 蓬さんの影のある顔も超素敵だが、笑顔が一番なのでカンフル剤打ち込んで、いざ、上野こうずけだ。


「城をひとつばかり」


 どこが少しだ、無茶じゃねえか。武田、マジ滅びろ。関わると碌なことがねぇ。


砥石城、一丁はいりました!

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