神楽舞と結びに雁
「そういえば、何も食べて無かったな」
無花果を手に取り齧ろうと伸ばした俺の手は、一回り小さな手で柔らかく包まれた。
「本殿の中でお食べになってはいけません。一度、皆様の所まで戻りましょう」
蓬はにこっと微笑んで、俺の手を放した。
わかったと頷くと、左手を伸ばして他の果物を取ろうとする。
「…頷かれたのに、なぜ、また取ろうとなさったのでしょうか」
なぜって、優しく手を握ってくれるなら、そりゃ、お代わりするに決まっているじゃないか。
至極当然な思考を伝えると、苦笑いされた。
そして、そのまま、やや強引に立ち上がらされて建物から引っ張り出される。
まぁ、当初の目論見とは異なるが、手はずっと繋がれたままなので俺的には十全と。
◆
巫舞台では、その名の通り諏訪の巫女が舞っていた。
だが、残念ながらクライマックスは過ぎていたようで、見物する間もなく終わってしまった。
「あー、ヨシこっちだぞー」
舞台の正面の見慣れた背格好の奴がいた。髪は肩の上で束ねただけ、着物はいつもの赤いものじゃないところを見ると蓬さんが洗濯でもしたのだろう。広げた茣蓙の上にゆるく座っている。
見られたのが気恥ずかしかったのか、手のひらから柔らかな感触が遠のく。無念なり。
「ふたりとも残念だけど、もう色々、出し物終わって宴も竹輪だぞ」
多分、たけなわのことだと思われる。
どうやら、たしかに祭りの終わりも近いようで、境内のあちらこちらに焚かれた篝火も消えかけているものもあったりする。同じようにそれを見ていた貴志が目を細めた。
例え、思い入れのない祭りでも、その終わりというのはどうにも人を感傷的にさせる。
繋がった熱を失ったためであろうか、瞬きひとつ、目蓋の裏に幼かった誰かを少し思い出した。
「あー、やっぱりもう次の人いないみたいだね」
「そうだな」
舞台の方をみると、今しがた舞っていたであろう、フル装備の巫女がしずしずと下りてきたところだ。あの、前天冠とんでもなく豪華絢爛だ、きっと城ひとつ建つレベル。
「久しぶりにヨシの舞いもみてみたいかな」
「戦の最中にやっただろ」
「あんな、ゲームのコマンドじゃなくてちゃんとしたのだぞ」
「めんどい。絶対、嫌だ」
誰が好き好んで一銭にもならないことをするんだ。
「ヨシが頑張ってるのみたら蓬ちゃん、ほれ直すかもしれないぞ」
「ちょっと、いってくる」キリッ
好感度UPの選択肢があるなら取らないわけにはいかないだろう。
小走りで、舞台へ向かう。
必然、演目を終えた巫女とすれ違う。あ、そうだ。はったりも重要だし折角だから。
「ちょっと、借りるね」
返事を待たず、巫女が手に持っていたものを借り受け、音を確かめた。
神楽鈴。
鈴生りの語源となったその姿、3、5、7と果実のように銅鈴が実っている。
これもまたマネーが高そうな音がする。さぞ、由緒ある物なのであろう。
まぁ、神楽舞の技能はないし、素でそっちの系統なんて踊れるはずもなく、気の向くまま即興でやるとしますか。
舞台に上がり、周りを見渡すと、人影はまばら。
どうせやるなら、ある程度ギャラリーも賑わいのために必要だろうな。
社中に響くほどの大きな音。
床の板を踏み割らんばかりの激しい踏み出し。
去っていく人の全ての視線が一斉にこちらに向けられる。
さぁ、ここにも持ちたるは、左に白木の紙扇。右に借物の神鈴。
さて、皆さまお立合い。無料で奏ずは有り難きものなれば、とくとご覧あれ。
◆
「すごい、すごいです。こんな…」
「日頃からすると、冗談みたいに綺麗だよね」
「はい!はい!はい!綺麗です。これは今日の戦の縮図でしょうか。一騎打ちや騎馬の動きが、わたしにも見えます。でも、なんでしょう、あ…れ?」
「あ、蓬ちゃんもわかった?」
「嘉様の何かが足りない…いえ、その逆でしょうか…なにか、違います」
「どっちだろうね、あるべきものがなくなったからなのか。それとも、昔はこうだったのか。もう、ボクらにはわからないことになるかな」
「夢か幻みたいに、少し不安になります。舞台を囲む篝火の炎に飲まれて、いつの間にかいなくなってしまいそうで」
「あはは、大丈夫、消えないよ。だって、他でもない蓬ちゃんにいいとこみせたいだけだぞ」
「え…でも嘉様。こちらを気になさってないですよ」
「んー、いまはゾーンに入っちゃってるからね」
「ぞーん?」
「えーと、言うならば神さまが体に降りてくること…かな。そういえば、初めて見たとき、踊りの神さまみたいだと思ったんだぞ。ボクも調子がいい時、たまにあるけど、嘉はやろうと思えば常にできるからね。ただ、神さまにしてはちょっと口と性格が悪いかな」
「…………」
「あれ?蓬ちゃん?おーい、蓬ちゃん」
◆
空も空気も白みはじめ、月の姿もどこか朧げになり始めた頃、長実の一閃を再現し舞を終える。
「ふぅ…」
やっぱり、昨日今日で眠りが足りないな。節々がどうにも重く、心も地に引っ張られる。
嫁にもう少しいいとこ見せたかったがこんなところが切り上げ時だろう。
最後に一礼。
「ヨシお疲れ~」
「おう。なぁ、ところで、お前の横に座っている人なんか固まってないか」
手のひらを胸の前で組んだまま動かない蓬さん。放心しとる。
「途中から見入っちゃって、反応なくなっちゃった。感極まったカンジだぞ。こういうのなんていったけ…かん、うんちょう?」
なにその武力97の髭。超強そう。正しくは感無量かと思われる。
「まぁ、楽しんでくれたみたいで何より」
そんなセリフに返ってきたものは予期せぬ方向から。
「いやいや、お嬢さん、実にお美事」
見覚えのない壮年の男。口ひげ顎ひげを綺麗に蓄えている以外は印象に残らないような容貌。ちょっと前は戦場であったここには不釣り合いな軽装。
太刀すら佩いていない。まるでぶらりと近所に散歩にでも出かけたような服装。
そこで、打掛の一点に目が吸い込まれた。
そこに縫われた家紋は結びに雁。『結び雁金紋』
ここは武田の支配する地。となると、六文銭と並ぶそれを使うのはあまりにも著名なあの一族。
「ああ、名乗るのが遅れた、俺は真田幸綱。いや、疾うに存じ上げてたっけな」
どこか他人事のような飄々とした口調。
暁の光が山間から社を照らしはじめた。夕焼けよりも赤く橙に染められる諏訪の湖とその地に生きるすべてのものを照らす。
男のうしろには見覚えにある人影がちらほら。気になる金色のは今は置いておいて。
あわあわしてる火薬使いの陰陽師。
必要な買出しがあったためお使いに出していたのだが、買い物リストにないものも持って帰ってきやがりましたよ。
武田の方向から来ましたとは俺も言った。それは俺が悪い。
「なんせ、俺の部下だもんな」
やっちゃいましたてへぺろ的な氷を操る白拍子。調子に乗って、真田とか雪斎とか話を余分に膨らませた犯人である。
我、関せずと口笛なんか吹き出しやがった。
とりあえず、責任者はあとでお仕置き確定だが。さて、どう切り抜けたものやら。
真田幸綱。かの『表裏比興の者』真田昌幸の父にして、『日本一の兵』真田幸村こと信繁の祖父。
武田信玄の懐刀。その智謀は主をも超えるともいわれたともいう…なんていうか戦国屈指のやっかいさんな一族の元締めだ。
名前だけ出てきた人登場。あとちょっとだけ出てた人再登場。ざっと書いたので見直しはまた今度。
あと真田さんが女性化してないというお話を頂いたのでその返しで、まだ本編にないところを書きました。若干加筆してここにも乗っけときます。わりとこういう設定は多いですがたぶん触れないことも多いので。
ルールとして、NPCの性別が固定されるパターンは二通りあります。前回の周回で配偶者がいた場合、同一の性別で確定。
蓬さんを例にすると、前回も今回も次回(これは物語上難しいですがあれば)も女性です。というわけで、配偶者の性別は問いません。配下にしたのは別武将扱いになるので、配下の方も固定になります。
もう一つは逆に史実で超有名な配偶者がいた場合、性別は史実通り完全固定です。こちらは逆に男女のカップルで確定してます。例、信長×濃姫(&生駒吉乃)。秀吉×ねね(&淀殿)。利家×まつ。山内一豊×千代。信玄×三条夫人(&諏訪姫ほか)。宗成×誾千代。
ちなみになぜか、謙信(虎千代)は女性固定。あと、蘭丸や毛利勝永、高坂弾正、井伊直政などはランダムです、うん、これはどうでもいいいか。高坂昌信はそのうち出ます。
つまり、真田は孫(寿命の長い方)の信幸×小松殿でこの二人の性別は完全確定です。(ただし×の前後(受け攻め)は逆じゃないかという説有)
幸隆やその兄弟の矢沢さん、子供の信綱、昌輝、昌幸。そして幸村はランダムです。
姫武将が次の周回で男になってるとみんながっかりします。大名勢力はそのせいで強さの変動が激しくなったりします。
チラシの裏にしては超長文になってびっくり




