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貴志

 とりあえず、村長の所で村に住む挨拶を済ます。


 まさかの山の中スタートで、この初期アバターのランダム設定された来歴も分からない。プレイヤーホームも行くあてもないので、当面は蓬の家に居候することになっている。

 ヒモとかいうなよ。


 あと。ヨシ宛の文を確認。この村では専用の施設がないので行政長の手元で管理される。

 これを逆手に取ると、一から国を起こした場合、NPCを含む家臣の統制がやりやすい。後ろぐらい連絡は当人同士でやるわけだからな。非常に動向をチェックしやすい。

 まあ、そんな情報統制を敷くような、殺伐とした大名家には死んでも行きたくないが。


「……ゼロか」


 誰からも来ていない。二日目だし、まだ来てないからだと信じたい。


「どうせ、俺は人望ありませんよ」


「よしよし」


 蓬さんに慰められた。

「わたしはそんなヨシさまでも好きですから」


 人望ない事は否定されなかった。そのフォローがむしろダメージ。

 ぶーたれて、そう言うと。


「だって昔、家中の方々、お酒の席で『うちの大将がのたまった無茶な命令とアホな命令の一位決めようぜー』とかしょっちゅうやってたじゃないですか」


 返す言葉がありません。俺や蓬の目の前で言う様な、ふざけた奴らばかりだった。その分、いざというときは頼りになったけどな。


「そんな、どうでもいい事は忘れたままでいいよ」


「冗談です。分かりにくいけど、しっかり分かってくれる方はいますから大丈夫ですと伝えたかっただけです」


 くすくすと拗ねる俺をからかう。

 あいつらが、今一人でもいればと思う。どれだけ安心できるか。


「まあ、無い物ねだりしてもしかたないし」


 とりあえず、こちらから思いつく限りの知り合いに、安否確認と情報の共有を呼び掛ける旨をしたためて文を出した。

 これをもって、案件その一、仲間探しは当面は保留と相成ります。


 ちなみにおまけで財布が空になった。通信費=人件費なのでアホみたいに高え。


 というわけで、案件その二、自己の強化。はい、普通はデスゲームで最初にやるべき事ですね。


 具体的には装備を整える事、称号やスキルレベルを上げる事。の2点なわけだが。


 財布を逆さに振る。

 

 チャリンチャリン。なんと二文。檜の棒も買えない、体たらくです。


 蓬さん、装備買ってください。と、今生こんじょう初デートで言える訳もなく(それなら、デスゲーム以前に詰め腹切った方がまし)レべリングをしつつ、小金を稼ぐ方向でいこう。

 となると、次の行き先は、毎度おなじみ『冒険者ギルド』となるわけだ。全国各地津々浦々に設置された冒険者相互扶助組織。依頼を解決、報酬ゲット、ランクアップのあれね。


 蓬さんに聞いてみる。


「なあ、冒険者ギルドって知ってるか?」


「え、なんでしょうか???」


 横文字混じりと俺の言葉に、きょとんとする。


 俺は、かくかくしかじか、とその施設の役目を伝えた。


「うーん、聞いた事ありません。少なくとも、この村にはそういった施設はございません」


「ああ、やっぱり(・・・・)」 


 そして、蓬は怪訝な顔で続ける。


「そもそも、おかしいです。もし、そんな危ない組織、各地の豪族や大名がほっとくはずありません」


 さすが、俺の嫁は聡明である。可愛いだけではなく、多機能・高性能さんですとも。誇らしい。


 そうなんです、『戦国online』にはギルドがないんです。一応、広義の意味でプレーヤーギルド的なのは、各大名家やそれに準ずる組織がそのまま機能しているが、冒険者ギルドは存在しないのである。


 まあ、順番に説明しよう。


 発端は『戦国Online』史上、最も名高い大事件『ギルド崩れ』である。


 実はサービス開始当初には、この『冒険ギルド』はしっかり実装されていた。

小侍所こさむらいどころ』という室町幕府が管理している機関という設定だった。利用するユーザーから出てきた文句も、せいぜい名前がわかりにくいというくらいでしかなかった。プレーヤー達も当たり前にギルドの恩恵にあずかっていたというわけだ。


 そして、二ゲーム目が始まるにあたり、漢数字の表記が読みにくいと不評でアラビア数字表記になったり、分かりにくい戦国的システム語句などと一緒に名称が変更され。まんま『冒険者ギルド』になって、どうでもいい背景も特になくなった。

 創作者のこだわりとシステムの快適さは、常に相反するものなのですよねー。戦国らしさ、とみんなの分かりやすさ、のバランスはいつでも、このゲームに付きまとう宿題である。閑話休題。


 まあ、名前変われど機能変わらず。まっさらだった初心者の俺も日常的に、兎や山賊をスローターしたり、お使いしたりしていました。


 そして、第三ゲームも、第二ゲームと同じく、こう着状態のまま、天下人が出ずに終盤戦に差し掛かろうとしていたころだった。

 

 丹波たんば(いまの兵庫東部および京都北部辺り)の波多野(はたの)家があっという間に乗っ取られて、プレーヤーが国を興した。そして、瞬く間に、全土を制圧していった。

 全国に張り巡らされた情報網。金にあかせて組織した強力な鉄砲隊。諸外国から火砲を集め、強力なユニーク武将を巨利で引き抜き。有力なPCを多大な知行で繋ぎとめたのだ。

 無名に近い大名家が織田を倒し、あっという間に畿内・四国を制する。


 話の流れから分かると思うが、その原動力となったのが『冒険者ギルド』というシステムそのものである。

 このプレーヤーは、ゲーム当初よりギルドの組織に入り、遂にはギルドの長に就任して、ありとあらゆるギルド内の権力を一手に掌握していたのだ。

 無駄に高すぎる自由度を逆手に取ったのである。


 そうして、通常の依頼の中に、ギルドの利益になる様に、あらゆる大名家が大きくならないようにホンの少しづつ、毒を混ぜつづけた。

 誰にも疑われないレベルの、状況が多少有利になるようなレベルの毒を。


 物凄い早さで巨大になる国を、結託して抑え込もうとした、武田・上杉・北条・伊達・島津・大友などの有名大名家オールスターの包囲網が形成された。


 新興の国の勢いはヤバいと気付いても、まさか、裏がギルドというのは誰にも分からなく、全ゲーム中の4割を超えるPCが所属していた空前絶後の巨大包囲網だったが、為す術なく手玉に取られた。

 

 あくまで、揃えた武は威嚇、交渉の手段とし、ほぼ智だけを持って、その網を引き裂いた。相互に不信を抱かせ、寝返りを出させ、互いの監視で動けなくなった所を、一つ一つ解体していった。

 その手際はまるで詰将棋や、寄せ碁の様だった。


 そして、ゲームの最後、天下人である勝者の来歴が公表されたときに、誰もが息をのんだ。

 『職業・冒険者ギルドの長』。既存の共同幻想を利用され全てのプレーヤーがこの勝者の天下統一に協力したのだ。敵であったはずのPCさえも。


 彼はそれ以降のゲームで表に出ることはなかった。数年後のいま、PC名すら忘れらさられ『今孔明』と戦国で最も有名な軍師の綽名を巷間に頂戴し、消えた。

 今となっては、その偉業だけが細々と語り継がれているだけ。


 『戦国Online』の自由度に倫理に関わる事を除き、制限は殆どない。

 第三ゲームより、そうしてギルド制は廃止された。彼は運営も負かしたわけである。 



「そのせいで、いま、俺が凄く困っているというわけですね」


 デスゲームとなったいまでも、結局復活する事はなかったみたいだ。

 代わりの、収入源のいくつかの新システムおよび、施設があるが、今の俺では、それぞれ問題点があるのであまり宜しくない。


 仕方ないので、技能(スキル)を上げていこう。出かける前に、五秒で終わる色気のないシステム的な手続きで、晴れて蓬と夫婦と認められたわけで、戦闘スキルを蓬に教えてもらえるようになっていた。

 たしか、親が狩人らしく『弓術』『棒術』を持っていた筈だから、どちらかを覚えさせてもらおう。そしたら、兎でも狩って小銭を稼ごう。

 はい、ヒモとか言わないで。

  

 そこで、蓬に話しかけようとしたら。


 恰幅のいい、お姉さんとオバさんの中間生物の方と挨拶をかましていた。近所の知り合いだろう。


「えーと、そちらの方は?」


 ぶしつけに俺の方に視線を向ける。


「わたしのお嫁さんです」


 にこにこと、なんのてらいも迷いもない蓬さん。

 お姉オバさんは、ちょっと困った顔をしてこちらをちらりちらり見ている。何を言っているのかしらこの子という態だ。


 そこで、俺は、行儀作法に則って、優雅に一礼&典雅な微笑み。


「初めまして、桜と申します。以後良しなに」


 にこー、と。蓬さん直伝、笑顔で無茶を押し通す。


 なんだか今度は茫然としているが気にしない。


「ええ…はい、よろしく」


 といい残すと、足早に去っていった。あーあ、この後に一抹の不安が残る。


 蓬さんが、なんかジト目でこっちを見ている。


「どうしたんだ?」


「知りません!」


 ぷいっと、後ろを向いてしまう。

 なんだかご機嫌斜めさんだ。かってに、一人で長考してしまったからかな。


 ただ、そのたなごころが右だけこちら側を向いているので、そのサインにしたがい、蓬と逆の手で取る。


「どうしたんだって?」


「もう」


 ぷんぷんしつつも、満足そうに矛を収めたみたいだ。


「それより、先程、お聞きしたいのですが、ヨシさま以外にも他国の人が村を訪れたらしいです」


 となるとPCか。こんな辺鄙な所好んで訪れる奴は滅多にいない。

 俺の知り合いの公算が強い。


「水車小屋の近辺で見かけられたそうです」


「もともとの俺のプレーヤーホームの近くだな、いくか」



 探すでもなく、すぐ見つかった。

 俺のプレーヤーホームだった所の空き地にいた。


 なぜ、すぐ分かったかというと。


「びええええええええええええええ!!なんでボクをひどりにずるんよ!ヨシの馬鹿かかあああああぁああ!!」


 山の向こうにも届くような、泣き声で、サッカー部の幼なじみ枠が蹲っていた。うるせえ。

 あーあ、やっぱりINしてやがったかこの泣き虫。『文』も出す間も惜しんで、来たんだろうな。俺が移動してたらどうするんだよ。考え足りずめ。


「おい、近所迷惑だ」


 正直者の蓬さんの所為で、多分これから肩身が狭いんだ。それは、ちょっと嬉しいかったから良いが、悪評が増えるのはよろしくない。

 俺はケツキックをかます。


「ふ、ふえ?」


 ようやく地面に突っ伏した、お饅頭はこっちを向く。

「あーあ、顔や服泥だらけじゃねえかよ、お前」


 酷い有様になっている。


「あれ?お前その顔どうした」


 顔の造詣が、キャラクターから本人に近い感じになっている。

 鷲見すみの野郎と新入生イケメンランキングを二分する顔だ。


「なにするんだよぉ、君。生意気そうな子供だなぁ」


 なんか、もごもご言っているが気にせず促す。


「ほら、立てって。でかい図体が、そんな格好で泣くな」


「ほっといてくれ、ボクはもうこのまま、夢も希望もなく一人で寂しく死ぬんだ」


 相変わらず、顔に似合わぬ豆腐メンタルだな。


「あれ?蓬ちゃん」


 今さら、俺と手を繋ぐ影に気づいたらしい。


「わあ、蓬ちゃんだ!蓬ちゃんだ!」


 ばね仕掛けのようにすくっと立ち上がる幼なじみ。


 さっきまで見降ろしていた体は、俺たちよりも頭半個分以上高い。

 くすんだ長い銀髪を、無造作に束ねている。

 軽装の赤い着流し江戸時代の浪人スタイル。特徴的なのは金属製の手甲と脚絆をつけている。


 妙な迫力に蓬が、びくっと後ずさる。


「よ、蓬ちゃん。ボクのこと分かる」


 顔ごと突っ込んでくる勢いで、接近する赤い奴。蓬は慌てて俺の後ろに隠れる。


「おい、怖がらせるな!」


 膝横ににローキックを入れる。

 しかし、リアルでもバーチャルでも鍛えた体幹は小揺るぎもしない。生意気な。


「よ、ヨシが嘉人がいないんだ。もう、ボクどうしたらいいか!」


 うえ、うえ、いながら人の頭の上で会話を始める。


「えーと、ここにいらっしゃいますけど?」


「え、どこ?」 


「ですから、ここに」


「貴志、まだ、お前分からないのか」


「え、まさか!?」

「俺だ」


 どこぞの学兵生徒会連合の準○師っぽく名乗る。


「え、なんで、君、女の子だよね?でも、性根が曲がってそうな目はヨシっぽいけど」


「不本意だが、ネカマになったんだよ」


「本当にヨシ?ヨシなの?」


「ああ、そうだ。なんだったら、4歳の時からお前の恥ずかしい話で証明してやろうではないか。ウチに初めて連れてこられた時、晩御飯だと言われて、自分が食べられるんじゃないかと誤解してさ―――」


「うわー!うわーー!やめてよ!やめてよ!もう時効だろう」


 半狂乱になって俺の口をふさごうとする。それを素早く白木の扇子ではたき落とす。


「ヨシなんだね!よかった、ボク一人だと思って」


 そこまでいって、俺たちをふっとばす勢いで抱きついてきた。


「ぐえ」


 筋力値が違うので、大きくのけ反る。


「おい、コラ離せ」


 そんな、俺の言葉も気にせず。良かった、良かったとまた涙声になる。凄い吸着力。ダイソンか。


 ためいきをつく。仕方なく、剥がすのを諦めて、為すがままにさせてやる。


「いてててって!!!」


 と思ったら、突然。尻の肉が弄られる。


嘉人ヨシトさま。なにデレデレしてるんですか」


 冷たい冷気が俺の首筋を撫でた。

 やばい、名前の末尾まで呼ばれている。怒りレベルが3だ。


「ノンノン。誤解です誤解。こいつはちょっとリアクションの大きいただの幼なじみです」

 やだなぁ、あはは。と乾いた笑いを浮かべる。俺のピンチに、貴志の脇腹を、拳でゲシゲシたたく。が、一向に効果がない。これがレベル差か。


「酷いです、わたしに見せつけるように、こんな綺麗な女性・・の方と」


 赤い着流しの胸元には、二つの隆起で自分の性別をこれでもかと主張していた。よく鍛えられた肢体。背は幾分高いがスタイルが良いので、ラインは女性らしい均整の取れている。豹の様な野生と、溌剌とした、若木の様なしなやかさがある。


 貴志雛姫きしひなき。俺の幼なじみ。ボクっこ。十五歳。うちの高校ならず日本女子サッカー期待の星。どこかの誰かの様なネカマではない、正真正銘の女である。


デイリーあとちょっとで届きませんでしたが満足です。ありがとうございました。いつか届くように、こつこつ頑張ります。


ヒロイン増えました。二人目……いや、三人目かな?


冒険者ギルドの存在って、すごい違和感覚えるんですよね。あんな強力な組織、王とかが放っておくのが謎すぎます。

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